教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

今後の純邦楽について―作曲法と曲の聴き継ぎ

2011年05月15日 13時22分34秒 | 純邦楽

 邦楽器(和楽器)を中心に用いた音楽=(純)邦楽。箏・三絃・尺八・笛・琵琶・和太鼓… さまざまな邦楽器がありますが、これらをつかった邦楽は、日本人の心と生活(自然に対する感情を含む)を表現するために不可欠な音楽だと思います。ただ、現在、邦楽はギリギリのところで生き残ってはいるものの、邦楽界の閉塞感は否めないところでしょう。この閉塞感を払拭するには、どのような方法が必要なのでしょうか。

 私自身は、多くのよい新曲が発表されるとともに、既に発表されてきた名曲(古曲だけでなく、近代以降発表されてきた曲も含む)が聴き・演奏され継がれることが必要だと思っています。今でも、おそらく100を超える新曲が毎年どこかで発表され、多くの名曲が聴き継がれ・演奏されています。しかし、新曲の発表数はまだまだ少ない。本当の名曲は、多くの曲が発表され、淘汰されていく中で生まれます。もっと多くの曲が発表される必要があると思います。

 多くの曲を発表する方法は、より使いやすい楽器に適した作曲法を抜きにして考えることはできません。明治以来、とくに戦後日本において、邦楽界が突き詰めてきた作曲法は、基本的に西洋において生まれ育てられてきた五線譜等による作曲法でした。演奏時に縦譜・文化譜(横譜)といわれる独自の楽譜形式も使われていますが、邦楽の作曲法の基礎理論はやはり五線譜による作曲法です。しかし、邦楽器独特の個性や演奏法を表現しようとすると、五線譜では非常に困難です。無意識・意識的にそういう独特の個性を表現することを避けてしまう結果、邦楽器でなくてもかまわないような薄っぺらい音楽を作曲してしまうことになりかねません。邦楽器独特の個性を五線譜に表す表現法は、これまでも様々に開発されてきました。今後、邦楽器による作曲は、五線譜による邦楽器独自の個性を表現する作曲法を追い求めていくべきか、独自の作曲法を追い求めていくべきか。その答えを出すのは難しいところです。

 私は、五線譜の作曲法をさらに邦楽器に合った形で洗練していくことが大事だと思っています。明治以来100年以上も追い求めてきた五線譜による作曲法ですから、今更すべてを否定してもよいものはできないと思われます。また、音楽は人々の心や生活を表現するものです。今の日本人の心や生活は、邦楽器だけで表現できなくなっていることも確かでしょう。今後は、現在多くの人々が行っているように、さまざまな楽器とコラボレーションしてよい音楽を生み出していくことが必要なのではないでしょうか。そのためには、様々な楽器と共有できる五線譜による作曲法が不可欠です。

 ただ、先述の通り、邦楽器でなくてもかまわないような音楽を作っても意味がありません(私自身の自戒も含めてですが、実際にそういう曲が多いこと…)。そのあたりを乗り越えるには、作曲家がどの程度まで邦楽・邦楽器のことを理解できるかにかかってきます。いかにすれば邦楽・邦楽器について理解できるのでしょうか。理解するには、多くの名曲を演奏または聴き続けることしかありません。教育制度、教員養成、マスメディア等々、変わるべき分野は多いですが、今邦楽に関わっている人々ができることはなんでしょうか。それは、新曲や既存の名曲を、聴き継ぎ、演奏していくことだと思います。

 以上のように、邦楽界の閉塞感を払拭するには、作曲法のさらなる洗練と、新曲や既存の名曲の発表機会を確保することが必要だと思っています。そのためには、作曲家・演奏家の日々の努力と成長、演奏会の普及、そしてCD製作企業やマスメディアの協力が必要です。たとえば、既存の名曲の資料集として、邦楽CDは重要です。とくに、かつて出版された名演奏家が作ってきたレコードの復刻を是非実現してほしいと思います。私が知る限り、ビクターエンタテインメントはよくがんばっている様子ですが(『箏―沢井忠夫作品集』全5巻、『山本邦山作品集成』全8巻、『響―和楽器による現代日本の音楽』、『復刻・現代の箏曲ベスト30』などの復刻を近年実行している)、かつて邦楽レコードの出版をしていた企業には、日本の現代芸術をさらに洗練させるためにも、もっともっとがんばってもらいたいところです。

 なお、特定の企業名を挙げて批判するのは申し訳ないのですが、NHKには一言もの申したいことがあります。NHKは、数十年前から「現代の日本音楽」や「邦楽のひととき」などの番組で大量の邦楽曲を放送しているにもかかわらず、その成果のほとんどを死蔵しております(たまにほんの数曲をアーカイブス放送しているようですが…)。京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターは、長廣比登志氏の調査をもとに「現代邦楽放送年表」なるものを作り、1964年~1972年のNHK番組「現代の日本音楽」で放送された作品をデータベース化しているのですが、これを見るとNHKの「死蔵ぶり」がよくわかります。NHKは、これだけの曲を委嘱・発表させてきたのですから(これは「偉業」といっても良いと思うのですが…)、国民に対して再発表していく方法を模索して欲しいものです。埼玉のNHKアーカイブス(施設)で公開しているのも、ほんの一部にすぎないようです。著作権の手続きや、邦楽CDは売れないなど、いろいろ難しいこともあるでしょうが、ぜひともがんばってほしいです。高額になってもいいから、せめて、学術資料として発行してもらえないでしょうか。


 ちょっとだけメモがてら書こうと思っていたら、こんなになってしまいました。最近はまったく作曲してない(できない)ので、いいっぱなしで居心地悪いですが、今思っていることはこんなところです。

 先週から激務が続きます。さらに、来週からはしばらく休みがとれない… 落ち着いたらマジで有休もらおう。それまでがんばる!

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