教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

20世紀初頭日本の中等教員養成における教育学の役割

2024年02月22日 19時19分06秒 | 教育研究メモ
 年始にほのめかしておりました英語論文が公開されましたので、お知らせします。

 2024年2月20日、「The Role of Pedagogy in Secondary Teacher Training in Early Twentieth-Century Japan: Theory of Pedagogical Research in College by Kumaji Yoshida of Tokyo Imperial University」と題しまして、イギリスのthe History of Education Society(教育史学会)の研究誌「History of Education」(Taylor & Francis=Routledge社)に掲載されました。まだ紙の論文としては公刊されていなくて(そのため掲載巻号は不明)、ウェブ論文のみの公開です。他の論文を見ていると、紙冊子での公刊はまもなくすぐの場合もあるし、年単位でウェブのみという場合もある様子。よく特集を組んでいるので、編集の都合なのかな。
 オープンアクセス論文にはできませんでしたので、読んでいただくには、大きな大学などの図書館にいくしかないかな、と思います。ごめんなさい。オープンアクセス権の金額を見たとき、目玉が飛び出るかと思いましたので勘弁していただければ幸甚です。

 おおもとは2022年8月の日本教育学会のラウンドテーブルで発表した内容。これを英語論文用に大幅に改訂して、投稿したのが2022年11月。2023年3月に査読結果が送られてきて「resubmit」を要求されたので、5月に再提出。その後、さらに改訂指示が2回あった後、8月1日に「accept」が出ました。そして、長い沈黙のあと、2024年1月に出版契約、2月に校正を経て、先日ウェブ公開になりました。いったんまとめてから約1年半。体感時間はとても長かったのですが、下手をすると2~3年かかるとも言われていたので、結果的には短かったかもしれませんね。
 提出から公開まで、すべてオンラインで進められました。本当に手続きは合っているのかな…と常に不安でしたが、結果的にとても便利でした。

 論文構成は以下の通りです。

The Role of Pedagogy in Secondary Teacher Training in Early Twentieth-Century Japan: Theory of Pedagogical Research in College by Kumaji Yoshida of Tokyo Imperial University
(20世紀初頭日本の中等教員養成における教育学の役割―東京帝国大学の吉田熊次による「大学における教育学研究」論に注目して)
Introduction
(はじめに)
Reform of Secondary Teacher Training in Early Twentieth-Century Japan
(20世紀初頭日本の中等教員養成改革)
The Secondary Teacher Training Curriculum at Tokyo Imperial University in the Early Twentieth Century
(20世紀初頭における東京帝国大学の中等教員養成課程)
Challenges in Secondary Teacher Training in Colleges
(大学における中等教員養成の課題)
Secondary Teacher Training and Pedagogical Research in College
(中等教員養成と大学における教育学研究)
Challenges in Secondary Education and Methods of Secondary Teacher Training after the First World War
(第一次世界大戦後の中等教育の課題と中等教員養成の方法)
Conclusion
(おわりに)

 https://doi.org/10.1080/0046760X.2024.2306985

 20世紀初頭の日本において、東京帝国大学文科大学・文学部の中等教員養成課程では、教育学関連科目が必修とされました。当時の東京帝国大学(文科大学)における教育学の制度化を主導していた吉田熊次は、教育学の科学的研究は、大学教育の目的だけでなく、時宜にかなった中等教員養成のためにも不可欠であると考えていました(この事実がそもそも新知見かと思います)。本稿では、吉田の理論を通して、20世紀初頭の日本が東京帝国大学において、中等教員養成と教育学をどのように結びつけようとしたかを明らかにしました。特に、1905年の文科大学の中等教員無試験検定の条件改正の運用、そして1920年の文学部教育学科設置時の条件改正の意義について考察する際の留意点を解明できたと思います。単位数だけでいうとわずかな数ですが、そこに込められた意味は、アカデミズムの教員養成観とは異質の意味で解釈しなければならないことがわかりました。
 ほかにもいろいろな新知見がちりばめられています。英文の上に手に入れにくいので、ちゃんと読んでいただくのはお手数をおかけしますが、読んでいただければ幸甚です。


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