教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

「三味線音楽の現在」

2005年07月29日 23時52分26秒 | Weblog
 今日は、大学では月末なので本を返却したり、読書したりしていました。そう、たいしたことはやってません。今日の目玉は別にありました。

 広島大学邦楽部の先輩に、伊藤多喜子さんという美人邦楽プロデューサーがいます。伊藤さんは「NOTEJAPAN」という活動主体を媒介して、1997年以来広島で邦楽関係のコンサートを企画しています。最近は、「邦楽ノート」という毎回テーマを掲げて邦楽関係の何かをクローズアップし、邦楽の様々な音・形を紹介する企画をたくさんやってます(くわしくはこちら)。
 で、今日はそのノートジャパンの邦楽ノートvol.3が、広島市文化財団東区民文化センター主催で開催されました。今回、クローズアップされたのは「三味線音楽の現在」。野澤哲也さんという、長唄三味線を得意とするプロの方を招いてのコンサートでした。私が三味線(正確には「地唄三絃」)および純邦楽曲の作曲をやっているのは、ご存知の方もご存知でない方もいらっしゃるでしょうが、三味線の現在と聞いて行かないわけがありません。東京出張前なので準備など忙しかったのですが、広島でプロの演奏が聴けることなどめったにないので、予定を繰り合わせて行ってきました。
 感想は、やっぱすげーや、です。三絃演奏を研究片手間にやっている自分とは比較にならないのは当然のことですが、世界でも長唄三味線を野澤さんほど弾ける人はそう多くはないでしょう。また、野澤さんは1974年生まれのまだお若い演奏者ですが(しかもイイ男で背も高いときた)、特に同じ年代の作曲者に委嘱して三味線の曲を作曲し、初演するという活動も行っているそうです。今回、当然初演曲はありませんでしたが、初めて聴く曲・作曲家もあり、「おお」と野澤さんの演奏力だけでなく曲として感嘆する曲もありました。三味線の曲(もしくは三味線が含まれる合奏曲)というのは、ただでさえ数少ない邦楽曲の中でも多くはありません。私は邦楽振興の鍵は「イイ曲」がたくさん増える、ということだと思っていますから(こちらを参照)、いい活動されてるなあと感嘆しました。
 コンサートを聴きに行っていつも思うことは、「自分の音楽の幅が広がったような気がするなあ」ということです。ストレスが解消されて癒される、という決まり文句のような効果も感じますが、やはり教育に関係しているからでしょうか、どうも演奏表現や作曲に役立つという実際的な効果ももちろん、心の受け皿が広がるというか感受性が増すというか、そういった教育的効果の方に関心がいきます。教育の観点からコンサートを捉えると、いわゆる社会教育・生涯教育、明治時代には「通俗教育」といった分野に入ります。帝国教育会では文部省から通俗教育振興のため補助金をもらい、通俗教育調査やコンサート・寄席・映画試写会などを大々的に主催していました(『帝国教育』によると観客が1,000人を超えることはザラだったようです)。そのコンサートでは、西洋音楽が半分、邦楽(箏曲・三曲など)が半分、だったように思います。明治の時代から、邦楽のコンサートも教育的意義を見いだされていたのです。
 最近仕事が忙しいという理由で、毎日が仕事場と家の往復になっている人はいませんか?(私はそうです) 教育的意義とかはほとんどの人には興味ないでしょうが、たまには癒され目的でコンサートなど行かれてみてはどうでしょうね。
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