2020年01月26日プレイリスト「スコット・ウォーカー特集 PART 1」
1. THE LIVIN' END / SCOTT ENGEL '58
2. WHAT DO YOU SAY / SCOTT ENGEL '62('66)
3. WILLIE AND THE HAND JIVE / MOONGOONERS '62
4. I ONLY CAME TO DANCE WITH YOU / JOHN STEWART & SCOTT ENGEL (THE DALTON BROTHERS) '63
5. LOVE HER / THE WALKER BROTHERS '65
6. MAKE IT EASY ON YOURSELF / THE WALKER BROTHERS '65
7. THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE / THE WALKER BROTHERS '66
8. (BABY)YOU DON'T HAVE TO TELL ME / THE WALKER BROTHERS '66
9. LAND OF 1000 DANCES / THE WALKER BROTHERS '66
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■内容の一部を抜粋
・近況
番組は前倒しで収録しているそうだ。1月はひたすら掃除とレコードの整理。仕事場の電気系統を少し変えたのでリニューアルをしなければならないとか。仕事場の整理がつけばモチーフをまとめて曲作りに入る予定だという。掃除なので個人的な時間があり、いろいろと映画を観たり、本を読んだりしているそうだ。「充電期間としてなかなかよかった1月です」と達郎さん。サンデー・ソングブックの仕込みも時間をかけてできたとか。
・スコット・ウォーカー特集 PART 1
昨年2019年3月22日に亡くなったスコット・ウォーカー。特集をしたかったがツアーがあって延び延びになっていたという。ようやく準備をしてスコット・ウォーカーの特集ができるようになったが、スコット・ウォーカーは「一筋縄では行かない」という言葉があるけれど、二筋三筋通ってるので、3週間使って徹底的にやることにしたそうだ。今週は「スコット・ウォーカー特集 PART 1」。まずスコット・ウォーカーが本名のスコット・エンゲルでやっていた時代の活動を中心に、そして後半はウォーカー・ブラザーズ時代の活動の前期まで。来週の「スコット・ウォーカー特集 PART 2」はウォーカー・ブラザーズ時代の後期からソロ活動へという時代を特集。再来週はショー・ビジネスに疲れて隠遁して、いきなりアバンギャルドな道を歩むその途中まで。全部やると4週間、5週間かかるので、達郎さんが聴いていて、いちばんスコット・ウォーカーのピークの時代、ウォーカー・ブラザーズ時代を中心に骨太な特集をするそうだ。
・スコット・ウォーカー
達郎さんの世代だとスコット・ウォーカーはウォーカー・ブラザーズのリード・シンガーとして一世を風靡した人。本名はノエル・スコット・エンゲル。1943年1月9日生まれ。達郎さんより十歳年上。オハイオ州の生まれでお父さんが石油関係のマネージャーをやっていたので、オハイオ、テキサス、ニューヨーク、いろんなところに転勤を繰り返したが、1959年にカリフォルニアに定住することになった。十代の頃から芸能界に興味があり、子役や、それから歌手としてレコードを作ることになる。当時の歌手で自分のテレビ番組を持っていたエディー・フィッシャーに可愛がられて、テレビ・ドラマに出る傍らで歌手に憧れるようになった。14歳でレコード・デビューを果たす。
・THE LIVIN' END
1958年、15歳の頃のレコーディングでスコット・エンゲル名義のシングル「THE LIVIN' END」。ディスコグラフィーとしては2枚めの作品になるが曲を書いてるのはロッド・マッゲンとヘンリー・マンシーニのコンビ。ロックンロールに憧れていたのでこの曲はロックンロール・サウンドだが、ブロードウェイ・ミュージカルに出ていた頃はティン・パン・アレイ系のスタンダード・ナンバーを歌っていて、そのようなのがクロスオーバーしている。スコット・ウォーカー時代にスタンダードやメロウな作品を歌っていても、その後ろにロックンロールの存在があるのはスコット・ウォーカーの大きな特徴だといえる。十代の頃、たくさんシングルを出しても全然売れなくて、そのうちに年を取ってきたので、少しずつ方式が変わってくるようになった。ロックンロール・テイストが影を潜めて、スタンダードを歌うクルーナー・シンガーの色合いが強く出てくるようになる。
・WHAT DO YOU SAY
1962年の「WHAT DO YOU SAY」はウォーカー・ブラザーズの頃に近い歌い方をしている。リバティーでレコーディングされたが、当時発売されずに、ウォーカー・ブラザーズの人気が出た1966年に本人の意志とは関係なく発売された。でもとってもいい出来の作品。スコット・エンゲル名義。この曲の作曲にはバリアントのバリー・ディボーゾが関わってるので、ウエスト・コーストに行けばそうした作家のコネクションで作られている。
1990年代のスコット・ウォーカーのインタビューでは、十代の頃にカリフォルニアに移ってから、ジャズとかいろんなヨーロッパ文学、美術、映画に興味が出たと話している。ベルイマンとかフェリーニとかブレッソンの名前が出てくるそうだ。フェリーニの『8 1/2』が63年、ブレッソンの『ジャンヌ・ダルク裁判』が1962年、ベルイマンの『沈黙』が1963年。アメリカのロックンロールからヨーロッパ映画に耽溺しはじめたのが、ウォーカー・ブラザーズからソロになる伏線になっている。
・WILLIE AND THE HAND JIVE
スコット・ウォーカーは二十歳前後の頃にベースを弾いていてセッション・ミュージシャンとかクラブバンドの活動もしている。そういうレコーディングは想像以上に多く残していて、宮治さんとの新春放談で何曲かオンエアしたが、今週も一曲だけ。1962年にムーングーナーズという名義で「WILLIE AND THE HAND JIVE」を出している。ジョニー・オーティスの曲で、この曲を聴くといろいろあってもロックンロールをやっているというのがよくわかる。後にスコット・ウォーカーはインタビューで「自分はサーファーの文化的な敵だった」というようなことを言ってるが、この時代の作品を聴くとロックンロールが嫌いじゃなかったということが証明されている。いくら仕事だといっても、この時代のレコーディングが少なからずあるので、嫌いではできないはず、と達郎さん。
・I ONLY CAME TO DANCE WITH YOU
スコット・ウォーカーの若い頃からの知り合いでジョン・スチュワートという人がいて、この人と組んでいろいろと作品を出している。「I ONLY CAME TO DANCE WITH YOU」(邦題は「太陽と踊ろう」)という曲も、ウォーカー・ブラザーズでスコット・ウォーカーが有名になったので、海外でも日本でも彼らの作品が出た。当時はザ・ダルトン・ブラザーズという名前で作品を作っていた。ジョン・スチュワートはウォーカー・ブラザーズのジョン・マウスや、「DAYDREAM BELIEVER」を作ったキングストン・トリオのジョン・スチュワートだと言われたが、どちらも違うそうだ。この頃からウォール・オブ・サウンドの片鱗が見える。この曲はゴールドスターのレコーディングだと言われている。
クラブバンドやルーターズのステージでベースを弾いていた時代に(ルーターズは実態のないバンドで、ステージは寄せ集めでやっていた)、スコット・ウォーカーと同じようにチャンスを窺っていたジョン・マウスというギタリストと出会う。これがウォーカー・ブラザーズの結成につながっていく。ジョン・マウスは歌手でギタリスト。いちばん有名なエピソードは、ビーチボーイズの近所に住んでいたので、カール・ウィルソンやデヴィッド・マークス(ビーチボーイズの創設のメンバー)のギターの先生をやっていたこと。ほかにもジェフ・ベックにエスクワイアという自分のギターを売ったということで知られている。ギタリストとしては優秀であったが、ウォーカー・ブラザーズ以降、そういう評価はなくなってしまった。ジョンとスコットがいろいろなことをトライしてるときに、もうひとりのメンバー、ドラムスのゲイリー・リーズがメンバーに加わる。ゲイリーがイギリスはよいところなので、イギリスに行かないかと声をかけて、ウォーカー・ブラザーズはイギリスに行くことになる。その直前にウォーカー・ブラザーズはアメリカで契約して2枚レコードを作っている。1枚目は泣かず飛ばずだったが...
・LOVE HER
ウォーカー・ブラザーズの2枚めのシングル「LOVE HER」。プロデュースをしているのはニック・ベネットで、もともとはビーチボーイズのプロデューサー。アレンジはジャック・ニッチェ。曲はバリー・マンとシンシア・ワイル。なかなかいい出来のシングルだったがアメリカでは全然ヒットしなかった。アメリカではスマッシュというレーベルから発売されていたので、イギリスに渡った後、同じ系列のフィリップスから1965年に「LOVE HER」をリリースしたら、全英20位のヒットになった。ここからイギリスでウォーカー・ブラザーズの人気が出ていくことになる。シングルなので当然モノラル録音なのだが、2000年に出たシングル集『THE SINGLES PLUS』に入ってる「LOVE HER」はリアル・ステレオ・ヴァージョンだったとか。今日はリアル・ステレオでオンエア。ジャック・ニッチェ得意のゴールドスター・スタジオ。
スコット・ウォーカーはインタビューで、ジャック・ニッチェには多くのことを教わった、とりわけウォール・オブ・サウンドというものに体現して、自分もそれをやりたいと、イギリスに行ってもそのようなものを再現できたのはジャック・ニッチェのおかげだと話している。イギリスでレコーディングされたウォーカー・ブラザーズはフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドの忠実な、ある意味ではそれ以上のエコーを持ったサウンドが満載だった。
・MAKE IT EASY ON YOURSELF
「LOVE HER」に続いてリリースされた1965年の「MAKE IT EASY ON YOURSELF」は全英NO.1。アメリカでも全米16位のヒット。ここからウォーカー・ブラザーズの世界的な名声が広がっていく。バート・バカラック / ハル・デイヴィッドの名曲。邦題は「涙でさようなら」。ウォーカー・ブラザーズの出世作。
・THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE
翌1966年の「THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE」はウォーカー・ブラザーズの人気を決定付けた。達郎さんは中学二年のときにフジテレビの「ビートポップス」でフィルム(PV)を観たという。スコット・ウォーカーは歌いながら右手を差し上げるが、それが本当にかっこよくてレコード屋に飛んでいったそうだ。1966年、全英NO.1、全米13位の代表作。邦題は「太陽はもう輝かない」。オリジナルのエンディングにはファルセットが入っていたが、'80年代の終りにCD化されたときその部分が消えたとか。どのCDを聴いてもそうなのでマスターが変わっちゃったと思って、番組ではアルバムに入ってるステレオ・ヴァージョンをこれまでかけていたそうだ。しかし2007年に日本のユニバーサルから出た紙ジャケのシングルのモノラル・ヴァージョンはオリジナルより長くシンガロングまで入ってるので、今日はそのCDからオンエア。今回スコット・ウォーカーを特集するにあたり、家中のCDを全部聴いていちばんいいテイクを選ってるという。その作業が資料を調べるより大変だったとか。
ウォーカー・ブラザーズはイギリスでは1965年、1966年超絶な人気を誇った。音楽的なバックグラウンドを紐解くとライチャス・ブラザーズのコンセプト、フィル・スペクターがウエスト・コーストのレッキング・クルーでやっていたウォール・オブ・サウンドより、イギリスのミュージシャンもそれに勝るとも劣らない技量があるし、イギリスのエンジニアリングはエコーの処理がものすごく優秀で、ある意味ではフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドを超えた、しかもリアル・ステレオのエコー感が快感原則として、強烈に押し寄せてきて、「THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE」でもそれが十分に聴くことができる。あとウォーカー・ブラザーズの成功の要因は選曲の妙。ウォーカー・ブラザーズのヒットはほとんどがカヴァーで、アルバムではどこから持ってきたかわからない曲をカヴァーしている。イギリスで出た1枚目のアルバムと2枚めのアルバムを一緒にして日本では『THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE』というアルバムが最初に出た。捨て曲が一曲もないのでみんな虜になった。その選曲を誰がしていたのか長いこと論争になっていた。いずれにしろ選曲の妙とそれのオーケストレーション。「THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE」のドラムは誰かというのも長い間謎だった。今ではそれがイギリスのスタジオ・ミュージシャンのロニー・ベレルだということがはっきりとしている。
・(BABY)YOU DON'T HAVE TO TELL ME
ウォーカー・ブラザーズのウォール・オブ・サウンドの極地が「THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE」の次のシングル、1966年の全米13位の「(BABY)YOU DON'T HAVE TO TELL ME」。ホビー・コールマンの1966年のシングルのカヴァー。「LOVE HER」はエヴァリー・ブラザーズのシングルのB面、「THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE」はフランキー・ヴァリのファースト・ソロ・アルバムの収録曲。「持って来方がエグいというそういうものでございます」と達郎さん。
・LAND OF 1000 DANCES
日本で大ヒットした「LAND OF 1000 DANCES」はスコット・ウォーカーのロックンロール的なもしくはR&B的な側面が垣間見れる曲。邦題は「ダンス天国」。
■リクエスト・お便りの宛て先:
〒102-8080 東京FM
「山下達郎サンデー・ソングブック」係
2020年02月02日は、「スコット・ウォーカー特集 PART 2」
http://www.tatsuro.co.jp