・特集『月と専制君主』
1月26日にリリースされるセルフ・カヴァー・アルバム『月と専制君主』の特集。今週はレコーディングに参加したホーボーキングバンドを招いてのトーク・セッション。
・古田たかし(ドラムス)
1958年7月6日、東京生まれ。10歳の頃からドラムをはじめる。15歳のときにカルメン・マキ&オズに参加してプロ・デビュー。その後、原田真二&クライシス、佐野元春&ザ・ハートランド、ストレンジラブなどに参加して、多くのミュージシャンのサポート・メンバーとして活躍している。
元春「最近の仕事では、僕以外の仕事では、どんな仕事があるんですか?」
古田「Charと一緒に去年は『Trad Rock』という企画をやって、それはエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、ジミヘン、ビートルズ、ヴェンチャーズの、それぞれのカヴァー・アルバムを6枚、CDとDVDのセットで...」
元春「楽しそうな仕事だね」
古田「ええ。教則ビデオ的な色合いもちょっとある感じで、楽しい企画です。それは」
・Dr.kyOn(キーボード、ギター、ヴォーカル)
1957年生まれ。1987年からBo Gumbosのキーボード、ギタリストとして活躍。グループ解散後はザ・ホーボーキングバンドのメンバー、そしてプロデューサー、アレンジャー、セッション・ミュージシャンとして活躍している。Chabo、RIP SLIM、銀杏ボーイズといった新しい世代のレコード制作にも貢献しているし、古いところでは小坂忠さんといったベテランのミュージシャンからも信頼されているキーボードリスト。2004年からはリクオ、YANCY、斉藤有太らとピアノマンだけの音楽集団、クレイジー・フィンガーズを結成し、レコードを作ったり、ライヴを行ったりしてる。最近では3人だけのBo Gumbosのメンバーだけのライヴを行っている。
Dr.kyOn「そうですね。Bo Gumbo3という名前にして。書くと、遠くから見るとBo Gumbosにも見えるぐらいの(笑)、感じなんですけれどね(笑)。sのところが3になって。えへへへ。そうなんですよ、3人でバンドを組んだご縁を今も活かしつつ、今のBo Gumbosをやろうみたいな...」
元春「また、ホーボーキングバンドでギタリストである佐橋くんとも二人だけのユニット...」
Dr.kyOn「ダージリンというこれもまた(笑)、二人だけのユニットがあって」
・長田進(ギター)
1958年4月4日生まれ。22歳でプロとして活動をはじめた。1989年に佐野元春&ザ・ハートランドに参加して、その後、数多くのアーティストのバッキング。最近ではGRAPEVINEなど新しいアーティストのプロデュースも手掛けている。昨年、プロ活動30周年目に自分自身のソロ・アルバムを発表。
元春「僕のようにメインでやってるシンガーは、例えば30周年のアニバーサリー・ライヴなんかやったりするんだけれども、ミュージシャンなのに、なんか去年、アニバーサリー・ライヴをやったって話を聞いたけど?」
長田「(笑)。それはGRAPEVINEのメンバーのほうから、どうやら30周年みたいじゃないですかと。是非30周年記念やりましょうということで。僕は佐野くんみたいにCDデビューしてというようなアーティストじゃないので、セッション・ミュージシャンとしてはじまったので、あの30年といっても、30年くらいっていう(笑)」
元春「ほぼ30年というね...」
長田「いつだ? 出発点ということで(笑)。でも、まぁ、いいやということで。ひとつのけじめということだね」
・大井"スパム"洋輔
1974年4月1日生まれ。6歳からマリンバをはじめたことをきっかけに多様な楽器演奏をはじめる。
元春「スパムくんとは僕は4年前かな?」
スパム「そうですね」
元春「4年前に会って主にマニピュレーターとして僕の制作の下支えをしてくれてる。だから言ってみれば僕のレコード制作のABCを知ってる」
スパム「はい。そうですね」
元春「すべてのプロセスを知ってる...」
スパム「見していただきました。ヒヒヒヒヒ」
元春「はい(笑)。で、今はバンドに加入してもらってパーカッションをやってくれてるね。僕たちはスパム、スパムと言ってます」
・山本拓夫(サクソフォン、フルート)
1984年、サクソフォン奏者としてデビュー。サックス、フルート、クラリネットなどを駆使するマルチ・リード奏者。さまざまなミュージシャンのセッションにプレーヤー、アレンジャー、プロデューサーとして参加している。
元春「僕から見るといちばん忙しいミュージシャンなんじゃないかとなと感じるんだけど」
山本「そんなことないと思います(笑)。みなさん、忙しいと思います」
Dr.kyOn「いやいや忙しいよねー」
元春「最近では自分自身を表現する仕事って何かあるんですか?」
山本「自分はセッションマンなので、どこでも表現できるようにと、心がけてますけどね、どういう状態でも」
元春「とにかく驚くべきことはサクソフォンだけじゃない、様々な楽器を吹きこなすという...」
山本「いやいやなかなか難しいです」
元春「自分で吹きこなせる楽器の数は数えたことありますか?」
山本「いや~。数えたくない楽器もあるんで(笑)」
全員笑う。
元春「まぁ、吹奏楽だけではなく、ときどき僕のレコードでもストリングスのアンサンブルをね、組んでくれたり」
山本「あ、そうですね。弦は好きで。弦カルの曲とか、自分で書いたりしてるんです。実は。そのうちまとめて出せたりしたらいいかなと思ってます」
元春「いいですね。そしてここには今いないんですけれども、井上富雄、ベース。ルースターズ、ブルートニックの元メンバー。'90年よりセッション・プレーヤーとして佐野元春や福山くんとか桑田くんなどのレコーディング、ライヴに参加している。プロデューサーとして、またアレンジャーとして活躍中ということですね。ベースの井上くんとも、ちょうどkyOnと会ったアルバム『Fruits』のセッションのときに一緒して、以来、そうですね、みんなと何年やってる? もう16年目にあたる? 1995年にホーボーキングバンド結成して...」
Dr.kyOn「そうですね」
元春「かれこれ16年ということですね。あっという間な感じがしますけれど」
Dr.kyOn「ふむ」
古田「ハートランド超えたね」
Dr.kyOn「ねぇ!」
元春「そして、ここには今いませんけれど、ギターの佐橋佳幸。佐橋くんもやはり『Fruits』セッションのときに出会った仲間で、今でも音楽的な交流はもちろん続けています。で、今夜はこのメンバーで僕の新しいアルバム『月と専制君主』、このレコーディングにみんな参加してくれたわけだけれども、このアルバムを巡る四方山話をしてみたいなぁという感じです」
・ヤングブラッズ
元春「この[ヤングブラッズ]の演奏はハモンド・オルガン、すなわちkyOnのプレーを中心に組み立てようというのがひとつと、個人的な趣味としてラテンロックとか...」
Dr.kyOn「むふふふ」
元春「マイアミロック的な(笑)、ああいう感じが好きだったので、それを折衷した中でね、いい、かっこいいサウンドができないのかなっていうのが最初にあったんですよ。で、ハートランドのメンバーとホーボーキングバンドのメンバーの合体バンドのいいところが本当に上手く録音できたという点で、すごく個人的にうれしかったんですね。確かこれ一発録りだったんじゃないかな」
Dr.kyOnはスパムのカウベルをずっと聴いて演奏したそうだ。スタジオでいろんなところに立ってるマイクに共通に響いていて、音がかぶってる状態だったという。同時に録音する場合は部屋を分けたり、ちょっとだけセパレートして、何かが起こった場合のことを考えるけれど、今回はそういうことをしないで、お互いの音やグルーヴを確認しあいながら演奏したことが、貴重な体験だったし、いい結果に出たと話す。
古田たかしは音がかぶってて、直しが効かないということが、緊張感を高め、ひとつになれたのだと話す。オリジナル・アレンジとのギャップは感じなかったそうだ。自然に新しいアレンジに入れたという。
元春は全くの新曲のつもりで取り組んだとか。ただ詩の持ってる意味合いだけは、自分の中にしっかりとあるので、それは崩すことなく、アレンジしたそうだ。
元春「この[ヤングブラッズ]、一発録りで参加してくれたミュージシャンの、それぞれの楽器演奏がしっかり見えてくる録音になりました、結果的にね。さっきも言ったんだけれども、ハートランドのメンバーとホーボーキングバンドのメンバーの合体バンドが、こうして作り上げた結果というのは、僕はとてもね、何ていうのかな... できたあとレコード聴いて、幸せな気持ちになる」
全員笑う。
元春「で、これは(笑)、ライヴであってもそう。7分ある曲で僕が担当しているヴォーカルなんか最初の4分間ぐらい」
全員爆笑。
元春「自分、歌い終わると、あとみんなの演奏(笑)」
古田「お客さんとして聴いてる(笑)」
元春「すごい幸せ(笑)。いいなぁって感じだね(笑)。うん」
・夏草の誘い
元春「オリジナルは'80年代『Cafe Bohemia』というアルバムに収録した曲で、原曲はもっとアッパーなポップチューンだったんだけれども、[夏草の誘い]が持ってる詩の世界をもう一度感じてみると、もう少し牧歌的でいいのかな、それからサウンド的にもフォーキーで、そして使う楽器もエレクトリックなものじゃなくて、ストリングスとか、特にホルンとか、やわらかなエッジの丸い音を中心に組んでみたらどうかな。それで富雄くんが弾くウッドベースと...」
古田「ウッドベースが効いてますね」
元春「それとたかしくんのドラムスと、それがまずリズム隊としてあって、そして僕と長田くんが弾くアコースティック・ギターをL-Rに置いて、それぞれに違うことを弾いてるんだけれども、アコースティックがいて、そして外側に包むものとして、まずホルン、それからストリングス、これが拓ちゃんがストリングスのアンサンブルを組んでくれたし、ホルン奏者に指示してくれた...」
山本「フリューゲルですね」
元春「あっ、フリューゲル、ホルンを指示してくれた」
山本「弦もカルテットで成功したと思ってます」
スパムはある本の中で今回のレコーディング・セッションで個人的にこの[夏草の誘い]が「いちばん好き」と発言している。ヴォーカルを全て包み込む空気感、歌を完全に引き立てる演奏、サウンド、歌詞を全部プッシュしている演奏になってると話す。長音符が少ないのでストリングスやホーンが活きて、馴染んでいるようで、色分けされていて、そのトータルのものが全部、歌詞を押し出してる気がしたそうだ。
元春「すなわち、言葉と、それから演奏が本当に意味を持って合体している」
スパム「はい。その感がいちばん強いのがこの曲と思って、それでこの曲が今回の中では僕は一番好きだったっていう...」
元春「そうだね。僕もそれは同感で、出来上がりがとても自然。うん。これは確かね、ダビングで仕上げて行きましたけれども、まるで、ずっとこの曲を演奏しているバンドが、ふらっとスタジオにやってきて、レコーディングするよって、言って録ったかのような、そうした温かみとか、リラックス感とかが出てる。そして歌手が前にいて、その歌手がのびのびと歌ってる、そういう図が思い浮かびましたね」
スパム「そうですね。いちばん録音するときに、そこを心がけたっていうか、音像を録音するときに、この曲がそこにいちばん気を使ったところが、僕はあったので、エンジニアさんといろいろ話をして、その距離感作りを、いちばんこの曲は慎重にしたと思います」
中略
元春「まぁ、しかし、みんなはね、僕のレコーディングの現場では(笑)、解き放たれたようにいろんなことやるね(笑)」
Dr.kyOn「そうですね(笑)」
・クエスチョンズ
元春「今、僕たち話したんだけれども、個人的には今回のレコーディングでいちばん楽しくて、スリルがあって、いちばんクリエイティブだったと思いますね。最初、自分のスタジオで考えてたのはこんなのじゃなかった(笑)」
全員笑う。
元春「こんなんなっちゃいましたっていう感じだね(笑)」
スパムはこの曲に関して、みんなで、あーでもない、こーでもないと、ワイワイがやがやとした雰囲気が印象に残ってるという。最終的にピアノとギターの合わさったときの感じにグッときたのだそうだ。最後に上がっていくところが、抑揚して、我慢した感じがすごく出てて、解き放たれたときの開放感にもグッきたという。
元春「基本はこれはブルースですけれども、ビートがツービートでずっーとやっていくという、バース、コーラスが禁欲的な感じなんだけれども、最後にたかしくんのドラムが倍で叩き出すところから、少し解放されて、で、最後に向かって、どんどん解放していくっていう、バンド演奏の醍醐味がちゃんと録音されたなという感じがありますよね」
スパム「その最後の抑揚感がこの曲もまた歌詞を押し出していくっていうか、そこが僕もういちばん...」
元春「スパムの視点は面白いと思う。歌詞と演奏のマッチングというのは、僕もプロデューサーとしてよく思うんだけれども、この楽曲でいうと、"希望ー 絶望ー"とくるんですよ。で"希望ー"まではそれまでの長調なんだけれども、"絶望ー"でちょっと転調感を出すんですね。このときに"希望ー"でターンタ、ターンタタと受けてくれる、ギターとピアノが。次の"絶望ー"でも受けてくれるんだけれども、そこを少し半音でクラッシュさせてたのを覚えてる。そのときに(笑)、この"希望ー 絶望ー"の詩の感じが、あっ、ちゃんと表現できたなって思った瞬間があって、すごくうれしかったんだけれども。あれ、どうだった(笑)」
古田「おもしろかった(笑)」
長田「この曲の持ってるリフが、ありそうで、ないというか、すごくワクワクしたのを覚えてる」
元春「うん。しかも譜面では表せないタイミングというか、だから僕も口で伝えるしかない、フレーズを。ちょっと三連を含むような。で、これは、このレコーディング・セッションにスタジオ・ミュージシャンのかたがやってきて、その人がひじょうにスキルの高い人であっても、そのセンス、その感覚を持ってない人だったら言いにくいよね。こうやってくださいというのは言いにくい。長年一緒に演奏してるみんなだから、気楽にこんなタイミングでやってみたらはどうかって提案できる。で、それに応えてくれる。というのが僕にとってはいちばんうれしいことだね」
長田進はテイクワンの素晴らしさについて話す。テイクワンは不完全で、テイクをいくつか重ねると完成度は上がるけれど、失うものもあると。
元春「その通りだね。インスピレーションの全てはテイクワンにあると、こういう言い方でいいと思うんだね。だから自分もテイクワンは絶対捨てないで、必ず迷ったときに戻る指針としてね、テイクワンはいつも取っておくんですけれどね。[クエスチョンズ]、とにかくこの曲は、今回のレコーディング・セッションでいちばん楽しかったのを覚えてます」
・レインガール
元春「これもライヴ・レコーディングの良さが本当によく出てるよね。フレーズも繰り返しが多いんだけれども、バンド演奏に感情がこもってるので、ちっとも飽きないというか、繰り返しが逆にドラマを作ってるというかね、kyOnの弾いてくれてるピアノのソロなんて、タタタンタン、ターン、ターン、ターンの繰り返しでしょ。だけれども単調に聴こえないというか、それを包んでる和音は違うんだけれども、なんかそこに感情が感じられる。だから何というか、聴いていて飽きないんだよね。[レインガール]はオリジナルは'90年代、ハートランド、ストレート、エイトビートのロックンロールだよね」
古田「そうですよね。全然違いますよね」
元春「4拍子が3拍子になっちゃった。これは(笑)、ホーボーキングバンドの時代、やったんだよ、それを(笑)」
長田「あっ、そうなんだ」
元春「うん。だから長田くんや、たかしくんが知らないあいだに(笑)、[レインガール]は3拍子になってた。覚えてるのは20周年記念のツアーのときに[レインガール]をやろうということになって、僕がアレンジに困っていたときに、kyOnが3拍子にしたらどうですか(笑)」
Dr.kyOn「へへへへへ」
元春「で、スタジオの隅に行きまして、ギターを持って。本当に3拍子になるのかどうか。特に歌ですよね。4拍子でハマってる歌を3拍子にして本当にハマるのかよ、思いながらやったら、見事にすっと3拍子でも歌えるんだよね」
山本「知らないと4拍子のが想像つかないですよね」
全員笑う。
長田「逆に自然だよね、すごく」
元春「僕はそのとき学びましたね。4拍子でちゃんと言葉が機能している曲は何拍子でもいけるんだ(笑)」
全員笑う。
元春「僕が思い浮かんだフレーズ、言っちゃっていい?(笑)。あの、ドイツ人がビール飲んで、ソーセージ食ってるような(笑)」
全員爆笑。
古田「はいはいはい(笑)」
元春「なんかシング・アロングな感じ。みんなで肩組んで歌っちゃうみたいな、左右に揺れちゃうみたいなね。それは例えだけれども、そういうなんというか、ユニティ、団結感というか、温かい団結感っていうか、それをね、僕はこの3拍子にときどき感じますね。こうしてホーボーキングバンドとセッションする喜びというのは、これはかけがえのないものだし、僕はソングライターとしては、僕の言葉をみんな大事にして演奏してくれるというのが有り難いし、また小さなライヴハウスから大きな球場まで、僕たちは経験を共有しているということですね、これはほとんど人生を共有してるのと同じ感覚。その仲間たちが長い時を経て奏でる音というのは、必ずそこに滋味というか、何かがあるはずだって信じてるんですね、だから、その喜びを今年もまたライヴで分かち合えることが、僕は本当にミュージシャンとして幸せだなぁという感じですね。今夜本当にどうもありがとう。また、今年さ、30周年でいま僕たちツアーを続けてるけれども、これが終わったら新作レコード作るつもりなんで、またよろしくお願いします。どうも、ありがとうございました」
全員拍手。
・番組ウェブサイト
「番組ではウェブサイトを用意しています。是非ご覧になって曲のリクエスト、番組へのメッセージを送ってください。待ってます」と元春。
http://www.moto.co.jp/MRS/
・次回放送
2月1日オンエア。