**********ストーリー************
ベルリンで天使業を営んでいたブルーノ・ガンツさんは、ある時、人間の女性に恋をしてしまいました。刑事コロンボの励ましなどもあって、天使をやめて人間になることを彼は決意したのです。
そして・・・目覚めると、そこは鍵十字がいっぱい飾ってある部屋でした。何故か鼻の下にチョビ髭がついています。軍人ぽい格好をした部下らしき人に喚ばれて隣の部屋に行くと、数人の若い女性たちが、憧憬とも畏怖ともとれる顔で出迎えます。人間と話ができると喜んだガンツさんは持ち前の優しさで女性たちと会話を交わしご満悦。
ですが、一つだけ判らないことがありました。何故か女性たちは皆、ガンツさんと話す時、語尾に必ず「ハイル総統」と訳の分からない言葉をつけるのです。さすがにウンザリしてきたガンツさんは、それはやめてくれ、と言ってしまいました。
おふざけ解説はこの辺で終わりにします(何書いてるか判らなかった方は「ベルリン天使の詩」を観るように)
************************
イスラエルの新聞かなんかが「ドイツは自国の歴史を美化している」と評し、でもユダヤ社会のハリウッドでアカデミー外国語映画賞候補になったり、ドイツ本国では、「ベルリン天使の詩」のヴィム・ベンダースが「ナチズムに対し何の意見も提示していない」と批判し、国内は賛否両論、けれども映画は大ヒット・・・と真面目な人たちの反応が興味深い作品である。
フマジメな私めの感想はと言うと・・・すげー面白かった、と言う他ないのですが・・・
しかしまあ・・・ヨーロッパでラモン・サンペドロの尊厳死や、ヒトラー~最期の・・の賛否が議論されているころ、日本では電車男の真偽が議論されていて、ほんと平和で呑気な国じゃのう。おっと、どうでもいいやこんな話は
************************
終戦近い時期のドイツの主要人物についての知識はあった方がいいかも知れない。
ヒムラーって?ゲーリングって?・・と戸惑うかもしれない。
重要そうに何度も語られる人たちは最初の方に出てくるだけで、特に説明もない。
でもその知識がないとさっぱり判らないような歴史オタク専門の映画ではない。
映画は主に地下室が舞台となり、壮大なモブシーンや激しい戦闘シーンがあるわけでない。ヒトラーというよりナチス・ドイツ最期の12日間を、国の代表たる狂った支配者たちがもがき苦しむ様に焦点をあててじっくり見せる。
一番おっかなかったのは、ゲッベルス夫妻の行動。とち狂った人間たちにはもう愛がなんであるかも判らなくなっている。ナチズムなんてものが無ければ、普通のお父さんとお母さんで子供たちもいい子に育っただろうに、と思うとやっぱ歴史を美化する意図はなかったように感じる。
けど権力を握り国家を牛耳ってきた者たちが、追いつめられ自決する様には、こういっちゃ何だが、ある種の「かっこよさ」があり、その辺が批判にも繋がっちゃうんだろうと思う。それから12日間に焦点絞っただけに、ナチズムがなんであるか、ナチが何をしてきたか、ヒトラーがなぜ支持されたか・・・という辺りは、この映画の中ではロクに語られない。そこはとても重要だったのに、という意見はわからんでもない。
************************
映画は、1人の女性がヒトラーの秘書として採用されるところから始まり、以降、基本的に彼女の視点で話が進む。
歴史教科書的マクロな視点でなく、国家の最中枢にスポット当てたミクロな視点。
狭い地下室の圧迫感もあって、一人一人の人間たち(しかもヒトラーはじめ国家の最重要人物)の生の感情が強く激しく映画を観る者たちに襲いかかってくる。
アップ中心のカット割りで人間たちの生の感情を焼き付ける・・・といえば「ヴェラ・ドレイク」もそうだった。あちらはフィクションだけに話がどう展開するかわからないサスペンスがある。
けど「ヒトラー~最期の12日間~」は、みんなそれなりに知っている歴史的人物で、結末などは判りきっている。逆に表情だけの画面とドロドロした感情のうねりという映画自体の力に、見るもの一人一人の知識が付加されて、物語に深みが生まれる。繰り返しになるけど、その深みは観客が勝手に膨らませたもので、映画自体が持っていた力ではない。そういう意味では監督オリバー・ヒルシュビーゲルの演出力は、マイク・リーほどではないと言えるが、観客の反応も計算に入れての演出と考えると、やっぱすごい人なんだと思う。
けれども、この映画、意外と一筋縄でいかない。ヒトラーは割と早い段階で死んでしまう。エンドクレジットまでたっぷり30分以上残して。正直、ゲッベルスとかの末路について自分は知識が無かったので、ここからの展開は知識の補完機能もあまり働かず、サスペンスとして引き込まれる。それでも歴史上に名を残す(悪名)人物だけに、先の展開がわからなくても、「歴史の重み」という漠然としたものが支えになる。
ところがところが、そのゲッベルスも死ぬ。残ったのは歴史的に無名な人たち。主人公の秘書が死ぬ筈ないのは判るけど、それ以外は予測不能。ここからは純粋にサスペンス。これがまた面白い。ソ連軍に完全に包囲されたドイツの敗残兵とその中に混じる主人公。ある者は死を選び、ある者は生き残り、絶望的な状況の中浮かび上がる人々の本性が明暗を分ける。そして主人公は何としても生き延びようと、勇気を振り絞ってソ連兵たちの間を抜けていく。緊張感とそして最後に垣間見える希望。
「ヒトラー~最期の12日間~」というタイトルな割に、最期の12日間の後の何日間かがこの映画のキモだったりする。
************************
ラストに本物の秘書(の晩年のビデオ映像)が挿入される。
ヒトラーの秘書となった事を恥じ、「若さは言い訳にはならない。目を開けていれば気づいた筈だ・・・」と。
これは、ナチスを支持し、結果として未曾有の惨劇を引き起こしてしまった当時のドイツ人たちを批判しているわけではない。今を生きる我々に、しっかりと目を見開いていなさい、二度と繰り返さないために・・・という映画製作者のメッセージなのだ。
ただ、ナチは悪い悪いと、過去の人物や出来事を批判するだけの映画にはない、現代を生きる映画人たちの未来を見据えた使命感がある。これも、ただ僕が勝手に自分の中で膨らませただけのカンソーでしかないかもしれんけど・・・
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
ベルリンで天使業を営んでいたブルーノ・ガンツさんは、ある時、人間の女性に恋をしてしまいました。刑事コロンボの励ましなどもあって、天使をやめて人間になることを彼は決意したのです。
そして・・・目覚めると、そこは鍵十字がいっぱい飾ってある部屋でした。何故か鼻の下にチョビ髭がついています。軍人ぽい格好をした部下らしき人に喚ばれて隣の部屋に行くと、数人の若い女性たちが、憧憬とも畏怖ともとれる顔で出迎えます。人間と話ができると喜んだガンツさんは持ち前の優しさで女性たちと会話を交わしご満悦。
ですが、一つだけ判らないことがありました。何故か女性たちは皆、ガンツさんと話す時、語尾に必ず「ハイル総統」と訳の分からない言葉をつけるのです。さすがにウンザリしてきたガンツさんは、それはやめてくれ、と言ってしまいました。
おふざけ解説はこの辺で終わりにします(何書いてるか判らなかった方は「ベルリン天使の詩」を観るように)
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イスラエルの新聞かなんかが「ドイツは自国の歴史を美化している」と評し、でもユダヤ社会のハリウッドでアカデミー外国語映画賞候補になったり、ドイツ本国では、「ベルリン天使の詩」のヴィム・ベンダースが「ナチズムに対し何の意見も提示していない」と批判し、国内は賛否両論、けれども映画は大ヒット・・・と真面目な人たちの反応が興味深い作品である。
フマジメな私めの感想はと言うと・・・すげー面白かった、と言う他ないのですが・・・
しかしまあ・・・ヨーロッパでラモン・サンペドロの尊厳死や、ヒトラー~最期の・・の賛否が議論されているころ、日本では電車男の真偽が議論されていて、ほんと平和で呑気な国じゃのう。おっと、どうでもいいやこんな話は
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終戦近い時期のドイツの主要人物についての知識はあった方がいいかも知れない。
ヒムラーって?ゲーリングって?・・と戸惑うかもしれない。
重要そうに何度も語られる人たちは最初の方に出てくるだけで、特に説明もない。
でもその知識がないとさっぱり判らないような歴史オタク専門の映画ではない。
映画は主に地下室が舞台となり、壮大なモブシーンや激しい戦闘シーンがあるわけでない。ヒトラーというよりナチス・ドイツ最期の12日間を、国の代表たる狂った支配者たちがもがき苦しむ様に焦点をあててじっくり見せる。
一番おっかなかったのは、ゲッベルス夫妻の行動。とち狂った人間たちにはもう愛がなんであるかも判らなくなっている。ナチズムなんてものが無ければ、普通のお父さんとお母さんで子供たちもいい子に育っただろうに、と思うとやっぱ歴史を美化する意図はなかったように感じる。
けど権力を握り国家を牛耳ってきた者たちが、追いつめられ自決する様には、こういっちゃ何だが、ある種の「かっこよさ」があり、その辺が批判にも繋がっちゃうんだろうと思う。それから12日間に焦点絞っただけに、ナチズムがなんであるか、ナチが何をしてきたか、ヒトラーがなぜ支持されたか・・・という辺りは、この映画の中ではロクに語られない。そこはとても重要だったのに、という意見はわからんでもない。
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映画は、1人の女性がヒトラーの秘書として採用されるところから始まり、以降、基本的に彼女の視点で話が進む。
歴史教科書的マクロな視点でなく、国家の最中枢にスポット当てたミクロな視点。
狭い地下室の圧迫感もあって、一人一人の人間たち(しかもヒトラーはじめ国家の最重要人物)の生の感情が強く激しく映画を観る者たちに襲いかかってくる。
アップ中心のカット割りで人間たちの生の感情を焼き付ける・・・といえば「ヴェラ・ドレイク」もそうだった。あちらはフィクションだけに話がどう展開するかわからないサスペンスがある。
けど「ヒトラー~最期の12日間~」は、みんなそれなりに知っている歴史的人物で、結末などは判りきっている。逆に表情だけの画面とドロドロした感情のうねりという映画自体の力に、見るもの一人一人の知識が付加されて、物語に深みが生まれる。繰り返しになるけど、その深みは観客が勝手に膨らませたもので、映画自体が持っていた力ではない。そういう意味では監督オリバー・ヒルシュビーゲルの演出力は、マイク・リーほどではないと言えるが、観客の反応も計算に入れての演出と考えると、やっぱすごい人なんだと思う。
けれども、この映画、意外と一筋縄でいかない。ヒトラーは割と早い段階で死んでしまう。エンドクレジットまでたっぷり30分以上残して。正直、ゲッベルスとかの末路について自分は知識が無かったので、ここからの展開は知識の補完機能もあまり働かず、サスペンスとして引き込まれる。それでも歴史上に名を残す(悪名)人物だけに、先の展開がわからなくても、「歴史の重み」という漠然としたものが支えになる。
ところがところが、そのゲッベルスも死ぬ。残ったのは歴史的に無名な人たち。主人公の秘書が死ぬ筈ないのは判るけど、それ以外は予測不能。ここからは純粋にサスペンス。これがまた面白い。ソ連軍に完全に包囲されたドイツの敗残兵とその中に混じる主人公。ある者は死を選び、ある者は生き残り、絶望的な状況の中浮かび上がる人々の本性が明暗を分ける。そして主人公は何としても生き延びようと、勇気を振り絞ってソ連兵たちの間を抜けていく。緊張感とそして最後に垣間見える希望。
「ヒトラー~最期の12日間~」というタイトルな割に、最期の12日間の後の何日間かがこの映画のキモだったりする。
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ラストに本物の秘書(の晩年のビデオ映像)が挿入される。
ヒトラーの秘書となった事を恥じ、「若さは言い訳にはならない。目を開けていれば気づいた筈だ・・・」と。
これは、ナチスを支持し、結果として未曾有の惨劇を引き起こしてしまった当時のドイツ人たちを批判しているわけではない。今を生きる我々に、しっかりと目を見開いていなさい、二度と繰り返さないために・・・という映画製作者のメッセージなのだ。
ただ、ナチは悪い悪いと、過去の人物や出来事を批判するだけの映画にはない、現代を生きる映画人たちの未来を見据えた使命感がある。これも、ただ僕が勝手に自分の中で膨らませただけのカンソーでしかないかもしれんけど・・・
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
美化していない…、同感です。
本人に美化する気がなくても、勝手に美化されたととられちゃうのが、戦争ものの欠点なんでしょう
私は地方から出てくるので、リザーブシートとって見ました。ほぼ満員たったからとって正解でありました。
シネマライズって前の方の席が、すごい上向きで、ゆったりしてて好きだけど、寝るにはもってこいな感じがちょっと良くないです。
虐殺シーンを描かなかったのは、観客の興味がグロに向かうのを
(作る側が)嫌ったからではないでしょうか。
勿論、ヒトラーがやったことは決して許させる筈もないんだけど、
ならば、“何が”彼をそうさせてしまったか、という観点で描いたのが
この映画なんだと思います。
当時は“ファシズムという思想”が、ドイツだけじゃなく、
他の欧州の国々も、そして日本も…、世界中すべてを支配していた。
憎むべきは、“人間”としてのヒトラーじゃなくて、
“ファシズムという思想が生んだ怪物”ヒトラーなんだと思います。
ヒトラー総統がテーマなので重く暗い話ですが、ヒトラー総統を冷酷な独裁者でも狂人でもない、亡国の指導者として描いていたのが新鮮でした。
歴史認識の違いですね。
保身を図る腹心や、自決する忠臣等、リアルさもありいい作品でした。
ドイツ女性の強さがにじんでいました。
ドイツ空軍は翼がもがれたのにそれでも飛んでいるハンナ・ライチェ嬢やゲッペルス以上にゲッペルスしていたゲッペルス夫人など、ドイツ女は鋼鉄の女なのですね。
ドイツ女性だけでなく、日本女性も「本土決戦」
になれば、竹槍で米兵と戦っていたのでしょう。
歴史認識の違いというより、いつの時代でも
どこの国にでも起りうることなのではないかと
思います。
その、"ファシズムとは何たるかが全く描かれておらん"という批判がドイツ本国では多かったようです
>zattchiさま
ただの人間に権力もたせたら、ロクなことにならんというか、ヤケクソ感全開なガンツさんの演技か凄かったですね
>健太郎
亡国の指導者として描いたのか、12日間限定のストーリーゆえ、ヒトラーのいろんなエピソードが無く、そう見えてしまうのか?
その辺議論呼ぶ事も計算して作った映画なのかもしれません
>RINさま
上の健太郎さんへのコメントに対する回答かと思いますが、健太郎さんはドイツ人の歴史認識から悪人ではないヒトラーの映画が撮られたということを言いたいのではないかと
つまり戦争の話でなくて映画のスタイルがってことですね
ま、もっとも人間東条を描いたとのたまう映画も色々あるし、「最期の12日間」のヒトラーも相当、冷酷な独裁者の部分も出てたと思うのですが
で、まあ、たしかに日本政府も「さあ、本土決戦だ!!」と吠えまくってたわけで、あの状況は十分起こりえたし、それでなくても東京なんてすでに丸焼けだったし、沖縄に広島に長崎・・・戦争ってほんとロクなもんじゃないです。
でもタイトル的にはやっぱり、ヒトラー最後の12日間でいいのかな。
実際の秘書の言葉が一番胸に突き刺さります。
ヒトラーとその周りの人たちの描き方がお見事な作品だったのですが、
こういう風に組織が崩壊していくのは時代と場所を問わず同じかもしれませんね。
不況のあおりを食って倒産していく会社、伝統だけある斜陽のプロ野球チームなどなど、
「組織論」としての見どころもあると思います。
これを見て、みんなが平和を考えるきっかけになればいいですよね。