きっと、ダメな映画なんだ。
以下のようなことを言われる映画ではないだろうか?
「感覚が古くさい」、「しょうもない」、「通俗的」、「空虚」、「後ろ向きのノスタルジー」、「王道」、「予定調和」、「よくある話」、「何の変哲もない映像」、「使い古された題材」、「シンプルすぎる、もっと遊べ」、「血を吐く想いで映画を作れ」、「教科書通りの演出」、「コーラスは奇麗だったが内容は・・・」、「こういう映画だったら『・・・』の方が良くできていたね」
思いつく限りの悪口を言ってみた。きっとどれも当たらずも遠からず。
しかし・・・
どうして目頭が熱くなるんだろう?
ただのハゲチャビンおやじ(ジェラール・ジュニョ)がコーラスを指導するだけで
どうして、涙がぶわぁぁっと流れ落ちるんだろう?
日記を読み終わってしわくちゃのジャック・ペランが写ったところで
必ずしもシンプル・イズ・ベストとは思わないが、下手に小細工を労するより、素直にストーリーだけ追いかける方がいい場合もある。
無駄が全くない、ワンシーン、ワンシーンが全て後々に繋がり、必要以上に長い時間を裂かない。
『門の前で父を待つ少年』も、『紙飛行機遊びに興じる校長』も
ストーリーは王道だけど、演出はベタベタではない。先生と子供たちは完全に一体にはならず、どこか冷めたように微妙に距離をとりつつ、距離を縮めようと努力し続ける。
先生は生徒全員を救ったり導いたりしたわけでなく、コーラス指導もそれほど大きな変革を呼んだわけではない。この辺の現実的なストーリーに真実味がある。
もちろん胆であるコーラスは最高級に素晴らしい。ジャン=バティスト・モニエ少年。彼の天使の歌声無くしてこの映画は成立しえなかっただろう。単に美しい歌声というだけでなく、夢をあきらめた大人が夢を知らない子供に教えるというシチュエーションを設定することでより美しくなる。
こんな映画、技術的には大したことないさ。おっしゃる通りありがちな映画さ。勝手に感情移入しすぎただけさ。これより優れた映画なんて沢山あるよ。でも、はげちゃびんとクソガキどものコーラス通じた優しさに包まれたコミュニケーションの時間は、まぎれもない至福の時間だったよ。最高の映画さ。生涯ベストでも今年のベストでもないけど、事あるごとに良かったなあって幸せそうな顔して思い出せる映画なのさ。
************************
最後に、キャスティングの妙について・・・
学園や、軍隊などは、映画や小説に格好の題材となる。しかし、小説はともかく映画の場合、ちょっとした危険性が伴う。
みんな同じ服装をしているから、誰が誰やらわからなくなる。それでなくても群像劇というやつは、多くのキャラに個性を与えなくてはならず、難しい。
キャラクターの性格設定や、個々のキャラ毎にエピソードを準備といった、シナリオ的苦労と同時に、ビジュアル的に明確な違いをつくり出す必要がある。例えば、一人は黒人女性、一人は東洋人男性、一人は耳のとがった異星人・・・といった具合に。
(正直に言いまして、「クーリンチェ少年殺人事件」も「今を生きる」も似たような顔と同じ服装のため、誰が誰やら判別できませんでした)
さて本作も危険な、学園もの(問題児たちの寄宿舎で厳密には学園ではないが)である。見る前は心配でした。
しかし、この映画は相当思い切ったキャスティングのおかげで、キャラ判別不能という事態は避けられました。
下図を見てくれよ(この解像度ではわからんかも知れんが・・・)
主人公以外、これでもかっっ!!!というくらい、個性的なブサイク揃い。
だいたい主人公だって、目と目が近すぎてそんなにいい男ではないと思うのだが、一人だけ髪型がまともだし、あの醜男集団の中にいれば、どうしたって印象が強くなる。「天使の容貌」と形容されていたが、それは褒めすぎだ。だが、比較対象で考えるとたしかにこいつが問題の「天使」なんだな、と判ってしまう。
主人公以外も単なるブサイクではなく、それなりに出番と台詞がある奴は、一目見れば忘れられない個性を持っている。
美男(あるいは美女)ばかりの集団というものは現実的にはめったにない。アルコールおよび性的興奮と引き換えにお金をとることを目的とした集団を除いて、めったに存在しない。にもかかわらず映画に出てくる「集団」は嘘みたいに(嘘なんだけど)美男美女がそろい、視覚的享楽と引き換えにキャラ判別を困難にし、ストーリーテリングの障害となることが多い。
ひたすらに素晴らしいストーリーを伝える事に腐心した監督や制作者たちの誠意は、このキャスティングからも窺い知ることができるのである。
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
以下のようなことを言われる映画ではないだろうか?
「感覚が古くさい」、「しょうもない」、「通俗的」、「空虚」、「後ろ向きのノスタルジー」、「王道」、「予定調和」、「よくある話」、「何の変哲もない映像」、「使い古された題材」、「シンプルすぎる、もっと遊べ」、「血を吐く想いで映画を作れ」、「教科書通りの演出」、「コーラスは奇麗だったが内容は・・・」、「こういう映画だったら『・・・』の方が良くできていたね」
思いつく限りの悪口を言ってみた。きっとどれも当たらずも遠からず。
しかし・・・
どうして目頭が熱くなるんだろう?
ただのハゲチャビンおやじ(ジェラール・ジュニョ)がコーラスを指導するだけで
どうして、涙がぶわぁぁっと流れ落ちるんだろう?
日記を読み終わってしわくちゃのジャック・ペランが写ったところで
必ずしもシンプル・イズ・ベストとは思わないが、下手に小細工を労するより、素直にストーリーだけ追いかける方がいい場合もある。
無駄が全くない、ワンシーン、ワンシーンが全て後々に繋がり、必要以上に長い時間を裂かない。
『門の前で父を待つ少年』も、『紙飛行機遊びに興じる校長』も
ストーリーは王道だけど、演出はベタベタではない。先生と子供たちは完全に一体にはならず、どこか冷めたように微妙に距離をとりつつ、距離を縮めようと努力し続ける。
先生は生徒全員を救ったり導いたりしたわけでなく、コーラス指導もそれほど大きな変革を呼んだわけではない。この辺の現実的なストーリーに真実味がある。
もちろん胆であるコーラスは最高級に素晴らしい。ジャン=バティスト・モニエ少年。彼の天使の歌声無くしてこの映画は成立しえなかっただろう。単に美しい歌声というだけでなく、夢をあきらめた大人が夢を知らない子供に教えるというシチュエーションを設定することでより美しくなる。
こんな映画、技術的には大したことないさ。おっしゃる通りありがちな映画さ。勝手に感情移入しすぎただけさ。これより優れた映画なんて沢山あるよ。でも、はげちゃびんとクソガキどものコーラス通じた優しさに包まれたコミュニケーションの時間は、まぎれもない至福の時間だったよ。最高の映画さ。生涯ベストでも今年のベストでもないけど、事あるごとに良かったなあって幸せそうな顔して思い出せる映画なのさ。
************************
最後に、キャスティングの妙について・・・
学園や、軍隊などは、映画や小説に格好の題材となる。しかし、小説はともかく映画の場合、ちょっとした危険性が伴う。
みんな同じ服装をしているから、誰が誰やらわからなくなる。それでなくても群像劇というやつは、多くのキャラに個性を与えなくてはならず、難しい。
キャラクターの性格設定や、個々のキャラ毎にエピソードを準備といった、シナリオ的苦労と同時に、ビジュアル的に明確な違いをつくり出す必要がある。例えば、一人は黒人女性、一人は東洋人男性、一人は耳のとがった異星人・・・といった具合に。
(正直に言いまして、「クーリンチェ少年殺人事件」も「今を生きる」も似たような顔と同じ服装のため、誰が誰やら判別できませんでした)
さて本作も危険な、学園もの(問題児たちの寄宿舎で厳密には学園ではないが)である。見る前は心配でした。
しかし、この映画は相当思い切ったキャスティングのおかげで、キャラ判別不能という事態は避けられました。
下図を見てくれよ(この解像度ではわからんかも知れんが・・・)
主人公以外、これでもかっっ!!!というくらい、個性的なブサイク揃い。
だいたい主人公だって、目と目が近すぎてそんなにいい男ではないと思うのだが、一人だけ髪型がまともだし、あの醜男集団の中にいれば、どうしたって印象が強くなる。「天使の容貌」と形容されていたが、それは褒めすぎだ。だが、比較対象で考えるとたしかにこいつが問題の「天使」なんだな、と判ってしまう。
主人公以外も単なるブサイクではなく、それなりに出番と台詞がある奴は、一目見れば忘れられない個性を持っている。
美男(あるいは美女)ばかりの集団というものは現実的にはめったにない。アルコールおよび性的興奮と引き換えにお金をとることを目的とした集団を除いて、めったに存在しない。にもかかわらず映画に出てくる「集団」は嘘みたいに(嘘なんだけど)美男美女がそろい、視覚的享楽と引き換えにキャラ判別を困難にし、ストーリーテリングの障害となることが多い。
ひたすらに素晴らしいストーリーを伝える事に腐心した監督や制作者たちの誠意は、このキャスティングからも窺い知ることができるのである。
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誰でも大音楽家になると、最後は指揮者になるのかな~?よくわかりませんが。
そんなことはどうでもいいのです。
あの映画を見て、あの歌声を聴いて、かわいいペピノ君を見れただけでも十分満足できました!!
斬新な感想、とてもおもしろかったです。今から「トムから半径50M以内の戦争」という題名が気になったのでそちらにお邪魔してみます。昨日宇宙戦争見てきたばかりなので。では失礼いたします。
シンプルで無駄が無くて、正攻法でストレートな映画って、不作な年には相対的に順位が上がります。
批判の余地ない優等生な映画で、いってみればそこが欠点なのかもしれないですね
>ルーシーさま
声変わりでソプラノを奪われた男の子。楽器が上手かったわけでもなく、作曲の才があったわけでもなく、となると指揮者って、一番あり得る道なのかも・・・と思えないこともない?
この映画をみて、そう思いました。
大好きな映画です
紙ヒコーキのシーンと、先生を追ってきたペピノのシーンが大好き
今頃になっても、また観たい気持ちでいっぱいです
こっちゃん
紙飛行機・・・みんな飛ばす練習しててよかった
もしかして、あれを見越して遊んでいたのか?
>chishiさま
そうですね。確信犯的シンプルだったのか?単に素だったのか?でもコーラスが中核になることは初めから判ってただろうから、物語とか演出とか凝る必要なしと判断したんでしょうね。バランス感覚がいいってことかな、と。
私も泣きました、あーなんでこんなに?って言うくらいに。
おっしゃるとおり、キャスティングも絶妙ですね。