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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

グラン・トリノ [監督:クリント・イーストウッド]

2009-05-05 10:16:35 | 映評 2009 外国映画
個人的評価: ■■■■■■
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

殺しの伝説を築いてきた自分に嫌悪を覚えていた男がついにその本性を受け入れた「許されざる者」から10数年。いつくたばってもおかしくないない年齢に達した巨匠にして大スター(もっとも、そう簡単にくたばりそうもないのだけど)は、本作で血塗られた自分のフィルモグラフィに対するケジメをつけにきた。
「お前ぐらいの若者を殺してもらった勲章だ。俺はそんな汚れた男だ。」みたいなイーストウッドの台詞に今作にかける覚悟が滲んでいる。
また、彼が懺悔をするシーンを観客は神父目線の映像で聴くことになる。我らファンに対する懺悔の告白のようであり、本作全体が彼の遺言ともとれる。
毎度のことだが彼の映画はあまりに美しく、そこに彼自身が写ることでユーモアも加わる。バカっぽさに片足つっこんだような怒りを表す”ワナワナプルプル”「ガウゥゥゥ」という犬っぽいうめき声も、浮いたりせずに映画を盛り上げるパーツとしてしっかり収まっている。映画館を出た後つい真似してしまう面白さは彼の伝説をより強固なものとしてしまう。
“映画の神”とは言いすぎかもしれないし、彼自身そのように呼ばれたらペっ!とツバを吐き出しそうだ。だが少なくとも映画というものを知り尽くした男と呼んで差し支えないだろう。
そんな彼がいままでやり残してきたことを自身の主演で描ききった覚悟の一作。今だから作れた最高のラスト。(10年前なら真逆のラストにしていただろう。)
完璧だ・・・と激しい感銘を受け、ラストのグラン・トリノの走る映像では、タオとともに一緒に風を受けているような爽快感を感じたのだった。タオとともに受け取ったよ、イーストウッドの心を。

*****
色んな人種のチンピラたちがイーストウッドにビビりまくる描写があまりに楽しい。その一方でイーストウッドよりお年を召していそうな隣家のばあさんがイーストウッドを恐れない描写にもまた笑いなしでは観られない痛快さがある。
登場人物全てがとても生き生きとしているのが本作の魅力だろう。
名前を覚えられなくても、その役柄で覚えられる。
イーストウッドの息子とその家族。神父。イタリア人。アイルランド人。モン族の若造。その姉。若造の恋人。モン族のばあさん。まじない師。黄色いチンピラ。黒いチンピラ。ヒスパニックのチンピラ。性格+性別+年齢+職業にさらにプラスして人種という要素も入る。あれ、こいつ誰だっけ・・・って思うことがまずない。移民の国アメリカならではのウンチャラカンチャラと知った顔して解説っぽくすることもできるが、もっと単純に、「お互いをわかること・知ること」自体がテーマだと考えた方がいいだろう。相手を知った上で、相手に合った言動をすることをイーストウッド演じるウォルトは、イタリア人の床屋でタオに教えていた。本作における人種はテーマではなく、テーマを表現するためのアイテムだったと思う。

[追記1]
それにしても、この10年はまさにイーストウッドの10年だった。
10年で9作。
スペースカウボーイ(2000)
ブラッド・ワーク(2002)
ミスティック・リバー(2003)
ピアノ・ブルース(2003)
ミリオンダラー・ベイビー(2004)
父親たちの星条旗(2006)
硫黄島からの手紙 (2006)
チェンジリング(2008)
グラン・トリノ(2008)

誰もがキャリアの最高峰だろうと信じて疑わなかった「許されざる者」(1992)が、ほんの序章に過ぎなかった。
この10年は映画界の伝説となるだろう。そして次の10年も楽しみでたまらない。


[追記2]
強いて残念なことを上げるなら、ラストの方でタオにイースウッドの何らかの台詞を反復させる場面を設けてほしかった。

[追記3]
時事ネタ。ウソ情報。
グラン・トリノを日本映画界がリメイク決定。
主演は麻生太郎。ラストシーンは燃費の悪いアメ車からエコカーに買い替えるシーンに変更される模様。

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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
満点ですね (Kei)
2009-05-08 00:00:05
こんばんは。
私もこれは今の所、本年ベストワンです。

>10年で9作
それも、「スペース-」「ミスティック-」「ミリオン-」「父親たち-」と、キネ旬ベストワンが4回!
本年も2本のどちらかがベストワン確定(1、2位独占するかも)でしょうから、9本のうち5本がベストワンという、おそるべき長打率です。(しかも全部70才超えてからですよ)
これからも、いろんな高齢者記録を次々塗り替えそうですね。
>次の10年も楽しみでたまらない。
まさに同意です。いつまでも頑張って欲しいですね。
返信する
コメントありがとうございます (しん)
2009-05-08 20:26:16
>Keiさま

10年で5回入選。5作品の順位全部足して6にしかならんという
アカデミーにも作品賞候補3回でうち1回受賞

昔は黒澤とかヒッチコックとかフェリーニとかジョン・フォードとかトリュフォーとかって人がおってのぉ・・・と遠い目をしながら語っているおじいちゃん評論家のようなことを、私も30年後くらいに、昔はイーストウッドっていう人がいてのぉ・・・などと語ったりするんでしょうなあ
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どうもです。 (sakurai)
2009-05-09 09:06:41
いい映画でしたね。悔しいほど。
あんまりうますぎて、なんかこのじい様が悔しくて、最高評価まで行ってません。
イーストウッドがやってるから、かっこええんですが、自分とは違うじい様を配置して、作ったのも見たかったです。
もうちっと年とったテレンス・スタンプなんかで見たかったかも。

いまでも知った風に「ダーティ・ハリーの時はねえ」なんて、ぶってますが、20年後(30年後はたぶんいない)には、私も知った顔で語ってるかと思います。
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Unknown (@)
2009-05-09 17:58:11
単なるナルシシズムに満ちた御涙頂戴映画に最高って・・・。
馬鹿が褒める映画なんでしょうね。ミスティックあたりからイーストウッドは駄作を連発しています。
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コメントどうもです (しん)
2009-05-10 10:22:22
>sakuraiさま
10年後くらいにトミー・リー・Jにやらせてみたい気もします
返信する
こんにちは (iina)
2009-05-11 11:23:48
しっくり観ることのできた映画でした。
なるほど、その一因に登場人物たちが分かり易いということもありますね。

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コメントありがとうございます (しん)
2009-05-16 13:48:52
>lina さま
キャラ立ちも含めてひたすらデキがいい映画なんだと思います。
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