以下は前章の続きである。
大失策だったドイツとの同盟
ここで日本国家の行動を反省したい。
連合国は軍国日本についてまるで知らなかった。
日本が極東のドイツに擬せられたのは、日本がナチス・ドイツと同盟したからだ。
先の大戦でわが国の大失策は、ユダヤ人全滅を図った国と同盟を結んだことだ。
しかし日本はドイツがそんな是非を弁えぬ人種政策を実行するとは、同盟を結んだ近衛文麿も松岡洋右も知らなかった。ドイツで日夜精勤していた父もわからなかった。
それはいま大陸に勤務する日本人技術者や商社マンがチベット人弾圧の詳細を知らないのと同じだろう。
そんな平川家は親独派で、一族は父も兄も義兄も私も旧制高等学校は理科でドイツ語を学んだ。
和独辞典を擦り切れるほど使ったのは父だ。
戦争末期にドイツから潜水艦で運ばれたというロケットの設計図の青写真が父のもとへ届けられた。
敗戦後、屋根裏に隠したが後で焼却した。
朝鮮についてはどうか。
「本国にもない大工場を植民地に建設した国が日本の他にあるか。あるなら言うてみい」と父は怒って言った。
鄭大均編『日韓併合期ベストエッセイ集』(ちくま文庫)はいい本で、そこに父も建設に参画したらしい硫安の工場の話が出ている。