茨城県は、冷蔵倉庫大手のヨコレイと協力して、那珂湊漁港のいけすでマサバの養殖を始めました。
情報通信技術(ICT)を活用して、脂肪量や寄生虫のリスクを管理し、年間を通じて高品質なマサバ
を生産することを目指し、半年前の令和5年12月15日、その養殖マサバの初出荷が行われました。
県内の飲食店に生食用や料理の素材として約500匹が無料で提供されたのです。餌やりは県立海洋高
校の生徒さんが担当しました。この出荷の様子は地元のテレビや新聞で報道されました。
この養殖マサバは、天然ものに比べて脂が乗っており、刺し身や寿司などで味わうことができます。
県の養殖産業の創出に向けて、今後もさらなる品質向上や流通拡大に努めていくとのことです。
今回は初出荷の養殖マサバを話題の中心に置いて、全国及び茨城県の海面養殖業を紹介します。
<海面魚類養殖の生産量の多い国>
海面魚類養殖とは、海面にいけすやネットを設置して、魚類を養殖することです。1位: 中国(70.48百万t、
57%)、2位: インドネシア(14.85百万t、12%)、 3位: インド (6.43百万t、5%)、 4位: ベトナム(4.18百万t、
3%)、5位: フィリピン(2.41百万t、2%)。海面魚類養殖は、世界の養殖業生産量の約8割を占めています。
<日本の海面養殖業漁獲量ランキング>
2022年の海面養殖業の収獲量は、全国で約920,000tでした。1位は北海道で約139,000t、2位は広島県
が約111,000t、3位が佐賀県で約80,000t、4位が茨城県でした。海面養殖業の主な魚種は、ホタテ貝
(18.7%)、カキ類(18.0%)、ノリ類(25.3%)、ブリ類(12.4%)、マダイ(7.4%)などです。尚、日本の養殖業は、
海面だけでなく、陸上や内水面でも行われています。陸上養殖では、ヒラメ、ニジマス、クルマエビ、
トラフグ、ウミブドウなど、内水面養殖では、うなぎ、マス類、アユ、コイなどが養殖されています。
<国内の食用魚種の養殖生産の割合(2023年)>
(1)マダイ➙養殖(81%):天然(19%)、(2)ブリ類➙養殖(55%):天然(45%)
(3)クロマグロ➙養殖(61%):天然(39%)、(4)クルマエビ➙養殖(86%):天然(14%)、
その他に、トラフグ、カンパチ、シマアジなども、養殖の生産量が天然よりも多いのです。
今や、養殖魚なしでは日本の食はまかなえません。
<魚の完全養殖の方法と魚種>
1.海面養殖
海上に網で隔離した筏を設けて魚を飼育する方法です。この方法は、海の自然環境を利用できると
いう利点がありますが、台風や赤潮などの自然災害に弱いという欠点もあります。海面養殖で生産
される魚は、日本の水産物の約3割を占めており、重要な食料源となっています。マダイ、カンパチ、
クロマグロ、トラフグ、マサバ、ヒラメ、ブリ、ハマチ、シマアジ、イシダイ、クルマエビなど、
様々な魚が海面養殖で生産されています。
2.陸上養殖(閉鎖循環式)
陸上に設置したプールや貯水槽などで魚介類を養殖する方法です。海水や人工海水を利用して、
ヒラメ、ニジマス、クルマエビ、トラフグなどを生産しています。メリットは、水質汚染や病気
のリスクが低く、土地の有効活用にもなることです。
3.内水面養殖(掛け流し式)
内陸部の川や湖などで魚介類を養殖する方法です。淡水域で、ウナギ、マス、アユ、コイなどを
生産しています。メリットは、淡水を利用して和食文化に根付いた魚介類を生産することが多い
と言えます。
<茨城県の養殖漁業の現状>
令和4年の海面養殖業の収獲量は全国で92万t。そのうち、茨城県は8万6,870t(9.5%)で全国4位です。
このうち、貝類の収獲量は3万7,900t(43.6%)で全国で2位。茨城県の貝類の収獲量は全国の11.2%で
す。内訳は、ほたてがいが1万7,200t(45.4%)、かき類が1万5,400t(40.6%)、しじみが3,100t(8.2%)、
あさりが1,000t(2.6%)などです。茨城県は貝類の養殖が盛んなのです。比べて、養殖魚の方は貝類
ほどのシェアはありませんが、ブリ類やマダイが主力で、「チダイ」、「カンパチ」、「イサキ」、
「クロマグロ」などが養殖されています。そこに今回紹介する「マサバ」が加わりました。全国のシェ
アは約13.0%です。尚、茨城県の県の魚は「ヒラメ」なのですが、ヒラメは自然産のものが多く、養殖
はほとんど行われていません。
<養殖魚の豆知識>
1.海面漁業養殖されている魚種たち
(1)生産量No.1養殖魚:ブリ・ハマチ。この魚は適水温が広い(18~27℃)ことと種苗(モジャコ)
が安定して確保できることから、静岡県以西の各地で養殖が盛んに行われています。鹿児島県
がトップです。
(2)生産尾数No.1養殖魚:マダイ。この魚は適水温(20~28℃)が広く、しかも天然種苗に比べ成
長が早い養殖用種苗(人工種苗)が安定して確保できることから、これも静岡県以西の各地で
盛んに養殖が行われています。愛媛県がシェア57%です。
(3)太平洋沿岸で育つ:カンパチ。この魚の養殖はブリ同様、天然種苗を利用していますが、養殖生
産量の増加に伴い、近年では中国の香港や海南島から種苗を輸入して養殖しています。この魚
の適水温(20~31℃)はブリに比べると高いことから、我が国では黒潮分流が流れ込む三重県
以西の太平洋沿岸に限られています。長崎県、鹿児島県が上位です。
(4)若魚(よこわ)が主体:クロマグロ。現在、この魚の養殖は人工種苗生産が行われていますが、
技術が確立されていないことから、曳き縄釣りやまき網で捕らえた若魚が主体となっています。
酸素の消費量が他の魚に比べはるかに多かったり、体に似合わず非常にデリケートな魚で直接人
間の手で触れることが出来ないなどの課題を抱えています。又、この魚は養殖魚の中では泳ぐ速
度が最も速いスピード王であり、体重も最も重い500㎏にまで達する魚ですが、実際の養殖では
取り扱い、作業性などを考慮して体重50~60㎏程度まで育てて販売しています。
養殖ものは天然ものに比べ脂の乗りが良い、いわゆる”全身がトロ”で人気商品の一つです。
長崎県、鹿児島県が1,2位です。
(5)厄介な魚:トラフグ。この魚の養殖は「噛み合う」、「膨れる」、「鳴く」などの他の魚にはみら
れない特性をもつ魚であり、仲間の体を傷つけたり、飼育網を破るなど、養殖にあたっては厄介
な魚と言えます。フグの代表的な特徴でもある膨腹習性(ふくれる)はフグを水から取りあげた
り、つかんだりする強い刺激に対し、防御や威嚇のため、水や空気を胃に吸いこむことで起こり
ます。又、怒った時には上下4枚の歯を噛み合わせて「グゥーグゥー」と鳴くこともあります。
長崎県が約5割で九十九島トラフグが有名ですね。
(6)陸上での養殖が可能な魚:ヒラメ。この魚は海面養殖と陸上養殖の2つの方法で養殖しています。
酸素の消費量が比較的少ない(動き回らない)魚であり、適水温(18~24℃)が比較的一定して
いることから、近年では後者の陸上での養殖方法が主流を占めています。大分県、鹿児島県が
1,2位を占めています。
魚種養殖だけに絞ると、日本で1,2位を占める盛んな県は長崎県と鹿児島県です。
2.養殖魚には、天然の魚にはない特徴や問題もあります。例えば、養殖魚は遺伝子組み換えやホルモン
投与などの技術を用いて、早く大きく育つように改良されることがあります。また、養殖魚は病気
や寄生虫に感染しやすく、抗生物質や殺菌剤などの薬品を使用することがあります。これらの技術
や薬品の使用は、養殖魚の生産性や安定性を高める一方で、消費者の健康や環境への影響について
も慎重に検討する必要があります。
3.危うし!!日本の魚介類自給率
昭和50年以降急落した自給率はこの20年間低位水準で推移しています。現在、魚介類の約半分は
輸入物なのです。
4.海面養殖のメリットとデメリットとは?
~メリット(長所)~
「海面養殖」のコストは餌代が約70%、稚魚代が約10%で、合計80%を占めております。水槽はもと
もとの自然環境を網で仕切っただけなので、ほどんど費用が掛かりません。そのため、イニシャル
コストとランニングコストが低く、「割安で生産できる」のが最大のメリットです。
~デメリット(短所)~
海面養殖は水槽を自然環境の中で作成するため、環境のコントロールができません。台風や赤潮、病
気の流入等外部からの影響を受けやすく「安定生産が難しい」のが問題です。また、新規で養殖ビジ
ネスを始めたい方にとって海面養殖は新規参入のハードルが高いことも大きなデメリットとなります。
海には漁業権があります。そのため、養殖可能なスペースも限られているので新規参入が難しいです。
※漁業法の改正により、民間業の新規参入促進も行われてきてはいます。
<茨城県の海面漁業>
茨城県では野菜や果物とともにおいしいと思うのが魚介類です。2020年の海面漁業生産量は全国2位。サ
バの水揚げは1位でしたが、そんな水産県にも海を超えて様々なリスクが忍び寄っています。直近ではウ
クライナやイスラエルの戦争です。輸送ルートの迂回や燃油高の影響で値上がり傾向、更にチリ産などへ
の代替が増え、輸入魚種の卸値は全般に平年より3~4割高いそうです。
ただ水産品の品薄は今に始まった話ではないのです。コロナ禍に伴う世界的な金融緩和が株高などを招き、
富裕層の購買意欲を刺激した面も見逃せません。世界的なカネ余りと供給不安は原油高も加速させました。
燃料油のほか漁業用の網や発泡スチロールも値上がりしました。円安も重なり、国内漁業の経営環境は厳
しさを増しているのです。
そんな中、茨城県は冷蔵倉庫大手のヨコレイと組み、マサバの養殖を22年度に始めると発表しました。情
報通信技術(ICT)を活用し、漁港のいけすで養殖します。サバの養殖は西日本で多く、湾や入り江が少な
い茨城は不向きとされますが、「海の状況に応じ、いけすの網を浮沈させるなどの新技術が登場したため
挑戦する」(水産振興課)ことにしたのです。なぜサバかというと、クロマグロやカニほどではないが、
大衆魚のサバにも買い負けの懸念がくすぶるのです。輸入品のサバは平年比3~4割高いそうです。缶詰大
手ではサバ缶の値上げが相次ぎ、資源量や気候変動に影響されにくい漁業の育成は必要なのです。隣県の
福島県浪江町でも常磐線浪江駅でエビの養殖実験を始めた。
<茨城県初の養殖マサバ>
茨城県は漁港内のいけすで、マサバの稚魚1万300匹を養殖して、検討してきました。アニサキスの寄生リ
スクが低く、刺し身で食べられるなど、高い収益性を見込んでいるのです。餌で脂肪量を調整できるため、
脂が乗った良質なマサバを年間を通して提供できることがもくろみです。
いけすは海洋高水産クラブの生徒が管理。部員9人がタブレットやスマートフォンで日々観察し、自動給餌
器への補充やいけすの見回りなどを担ってきました。初出荷を控えた談話で、1年生の生徒さんは「自分た
ちが育てたマサバを多くの人に食べてほしい。地域活性化に貢献できたらうれしい」と話していました。
実は、茨城県のサバ類の漁獲量は全国トップクラスなのです。農林水産省によると、2021年は7万3800トン
で全国1位、22年は3万3000トンで2位だったのです。県水産試験場によると、23年は茨城県沖への到来が遅
く、サイズは小さめなのだそうです。県はこうした気候などによる漁獲量の変動に備えるため、海面養殖業
を発展させたい考え、マサバ養殖の実証事業を成功させて、将来的には民間業者と協力し、特産化を目指し
ているのです。
すでに来年度の出荷を目指し、新たなマサバの稚魚2万5000匹の養殖を始めています。県水産振興課では
「茨城の新たな特産品として定着させたい」と期待を込めています。昨年末12月の初出荷分は、県内で水揚
げされた魚介類やその加工品を扱う「いばらきの地魚取扱店」のうち、希望した26店舗に計約500匹無料で
提供され、今年の1~2月には小売店に計約1500匹が出荷されて販売されました。
茨城県の養殖魚介類にもご注目を頂き、是非ご賞味あれ!