動物村の夏は異常な高温気象が続いたために、住民に体調不良者が続出、これではまもなく
始まる秋の収穫祭の準備が心配です。収穫祭は動物村の最大の行事、これを終えないと冬の
支度が始められません。長老はこの難局を解決するために、仲良し3人組を呼び寄せました。
彼らの持つ不思議な力を借りることにしたのです。
長老 :フクロウ博士に村の現状を話して、解決のための知恵を借りた。博士は人間たちが
使っている冬虫夏草が体を回復させてくれると教えてくれたが、見つけるのは難し
いとも言っていた。そこでじゃ、お前たちにその冬虫夏草を探してきてもらいたい
のじゃ。ここはお前たちに頼るしかない。頼むぞ!
ミミ :お父さんも力が出ないと言っていたわ。だから頑張る。ところで冬虫夏草って、初
めて聞くけど、どんなものなの?どこへ行って探せばいいの?
長老 :フクロウ博士の話によると、冬虫夏草とは冬の間に生きているセミやクモなどの幼
虫の体に寄生したキノコの菌糸が、春から夏にかけてその体から栄養分を奪い取っ
て成長して、地上に顔を出すキノコだそうだ。かなり恐ろしい話じゃが、命を奪わ
れまいとする昆虫と奪おうとするキノコの戦いから、体を守ったり、体を強くする
成分が作られるのじゃそうだ。だからそれを体に取り込めば体力は回復するのだと
言っている。昆虫を餌にしているキノコだから、昆虫とキノコがくっついた形をし
ているそうだ。キノコは寄生する相手の昆虫によって、種類が違うからどの昆虫で
も良いわけではなく、動物村のみんなには、地中に住む土蜘蛛に寄生したキノコの
冬虫夏草が良いと言っていた。
ポン吉:土蜘蛛の体からキノコが生えているなんてかなり気持ちが悪いね。大体、生きてい
る蜘蛛を餌にするキノコがいるなんて信じられないよ。本当にいるのかな~。
コン太:去年、台風の後の倒木の場所で出会ったキノコの妖精たちが、私達の仕事はこの倒
木を土に戻してあげることだと言っていたね。キノコたちが土をつくっているなん
て知らなかった。だから、キノコの中には仕事として昆虫に寄生するのもいるのだ
ろうな。
ミミ :土蜘蛛がどんな蜘蛛か知らないけれど、キノコに食べられて嬉しいはずがないわよ
ね。そのキノコは悪いヤツなの?何の目的で土蜘蛛に寄生するのかしら。
動物村には溶岩流の岩が永い年月をかけて苔で覆われた樹海と呼ばれている場所がある。長老
の話では、苔で覆われた岩同士がぶつかった隙間の穴倉にいる可能性があるというのです。
ミミ :着いたわ。この森ね。広いからどこから探していいかわからないわね。岩の穴倉を探
せと言っていたけど、周りは穴倉だらけ、一番大きな穴倉から入りましょうか。
ポン吉:土蜘蛛がどの穴倉にいて、穴倉のどの辺りにいるのかもわからない。見つけるヒント
はないのかな。
コン太:集まってくれ!苔の上にあるこれを見て!これは死んだセミにキノコが絡まっている。
そうか、これだ。間違いない、これはセミの冬虫夏草だよ。こりゃ、幸先が良い、土
蜘蛛の冬虫夏草も探すのは簡単かもしれないぞ。
ミミ :このセミは体が残っているけど、体の中は食べられちゃったのね。かわいそう。セミ
からキノコが出ているなんて、やっぱり冬虫夏草って気味が悪いわ。でも、これは大
発見よ。このセミを土蜘蛛に置き換えれば、どんな形なのか、大きさなのかの想像が
つくわ。探すのに大きなヒントになるわね。
3人組はそれぞれが一つ一つ、苔むした岩と岩の間の穴倉に潜り込んでは、土蜘蛛を懸命に探し
ましたが見つかりません。
ミミ :モ~疲れた!土蜘蛛はいないわ。このままやみくもに穴倉を探してもダメね。フクロ
ウ博士が探すのは難しいと言っていたことを思い出したわ。
ポン吉:この辺りにキノコの妖精たちがいないかな。いたら教えてもらえると思うけどな。
コン太:苔の中にも、土の上にもキノコは生えているのが見えるけれど、話しかけても返事が
ないキノコばかりだ。ここにはキノコの妖精はいないね。
3人組は話し合ってこの樹海から離れて、台風で激しく倒木した森へ移動することにしました。
キノコの妖精がここにある倒木を土に戻すには、長い年月がかかると言っていたことを思い出
したのです。きっとまだそこで働いているはずです。
ミミ :着いた。絶対にこの場所でまだお仕事を続けているはずだわ。キノコの妖精さ~ん!
ポン吉:・コン太:キノコの妖精さ~ん!顔を出して!そして僕たちを助けてください。
暫くすると、倒木の上にキノコが1本、そして又1本とキノコの妖精たちが顔を出してきました。
3人組は村の実情を話して、土蜘蛛の冬虫夏草を探していることを伝えました。
キノコの妖精:話は分かった。土蜘蛛さんたちは沢の近くの湿った場所にある穴倉にいる。
これから案内をしよう。ミミの肩に私を乗せてくれ。持ち帰れるかどうか、土
蜘蛛さんたちの了解を得なければいけないからな。私が説得するよ。
ミミ :よろしくお願いします。私の肩に乗ってください。
こうして、一行は土蜘蛛が住むという沢の近くにある穴倉に到着しました。キノコの妖精は
穴倉の前で3人組を待たせて穴倉に入って行きました。そして暫くして、キノコの妖精が穴
倉から戻ってきました。
キノコの妖精:土蜘蛛さんたちの了解を得たぞ。これから冬虫夏草のある場所へ行こう。
ミミ :ねぇ、教えてください。キノコさんはどうして生きている蜘蛛を食べ物にしている
のですか?可哀そうじゃないですか。
キノコの妖精:それは土蜘蛛さんから依頼されているからなのだよ。
コン太:食べられることを依頼するってどういうことなの?
キノコの妖精:土蜘蛛さんはいっぱい子供を産むんだ。でも、子孫を残せる体力のある大人
になれるのは、その中でも選ばれたわずかな数なんだ。だから、子供同士で
生き残りをかけた争いが始まる。その争いを起こさせないために、キノコに
寄生してもらうのさ。すると子供同士の争いが起きなくなるんだよ。
ポン吉:でも、寄生された子供たちは大人になるとキノコに食べられちゃうんでしょう。
キノコの妖精:それは土蜘蛛さんが強い子孫を残すために選んだ生き方だとしか説明できな
いね。キノコたちも君たちのような動物に近い生き物なのだよ。草木の場合は、
太陽の光があれば生きられるけど、キノコは君たちと同じで何かを食べなけれ
ば生きられないのさ。ここではお互いが持ちつ持たれつの関係なのだ。
土蜘蛛はキノコが寄生した幼虫たちを広場の一ヵ所に集めていました。土蜘蛛の赤ちゃんの数は
とても多いようです。今は夏です。幼虫が集められた広場から、土蜘蛛の冬虫夏草の新鮮なキノ
コがニョキ、ニョキと辺り一面に顔を出していました。3人組は持ってきた籠に、「収穫だ、収穫
だ、長老が喜ぶぞ!」と言いながら、冬虫夏草を詰め込んで意気揚々と帰って行きました。
仲良し3人組にとって、今回の冬虫夏草探しの一番の収穫は、「生きる」ことの意味を深く真剣に
考えたことで、大人への階段をまた一歩上がったことかもしれませんね。
参照:本ブログ題名「キノコの妖精と仲良し3人組」2019年11月25日