漁業大国日本においては、「海老を食べる」といえば多くの場合、クルマエビや伊勢
エビ、ブラックタイガーなど、いわゆる「海の海老」をイメージする方が多いでしょうね。
でも、内陸部の人たちの中には「川エビ」と呼ばれる、テナガエビの仲間(より小型で
腕が短いスジエビも含む)が、最初に思い浮かぶ方も多く、川エビの食文化は今も健在です。
茨城県ではこうした川エビの食文化を満たすために、川エビを海エビと共に、重要な
水産資源として漁獲しています。ここでは内水面漁業として漁獲される、霞ヶ浦・北浦
の「テナガエビ(ざざえび)」の美味しさを紹介します。テナガエビは、居酒屋メニュ
ーで出てくる「川エビの唐揚げ」というと馴染みがあるかも知れませんね。
食材としての川エビ類は小ぶりであるがゆえ、唐揚げやかき揚げ、釜揚げなどにして殻
ごとサクサクとやるのが主な食べ方になりますが、これが実に美味いのです。川エビの
漁獲量ランキングは、茨城県が全国シェア62%で断トツの1位です。2位の青森県(6%)、
3位の千葉県(3%)の3県あわせて、国内漁獲量の71%を占めます(2019年)。
尚、洋食で使われる「テナガエビ」は基本的にヨーロッパアカザエビ(海産)の別称な
ので要注意。イタリアンでいうスカンピ、フレンチで言うラングスティーヌです。です
から、塩焼きやエビフライといった殻をむく工程が必要となる調理は「海のエビ」の大
型海産エビ軍が一手に担うわけです。
<霞ヶ浦・北浦のエビ漁>
霞ヶ浦・北浦の特徴は、漁獲高が1位のワカサギ、2位のテナガエビ(エビ類)をはじめ、
白魚、鯉、ゴロ(ハゼ類の総称)などが主体の漁場であることです。現在の漁獲量はピ
ーク時から大幅に減少はしてはいますが、今でも全国で上位を占める淡水魚の一大産地
です。漁師達は、ワカサギやテナガエビ、白魚などを動力船の後方につなげた網で曳く、
「トロール漁」という漁法で漁獲しています。狙う魚種に合わせて、曳く層や網の目合
いなどを使い分けて、取り決めにより船首に青色灯、船中央に白色灯を点灯して操業し
ています。尚、テナガエビに関しては横曳き網といった底びき網、小型定置網などでも
漁獲しています。
テナガエビの話ではありませんが、昔の霞ヶ浦ではワカサギ漁や白魚漁は風力を利用し
た帆びき網漁業により漁獲されていました。この帆引き船による漁獲光景は霞ヶ浦の風
物詩(現在でも観光用として運行中)でしたが、昭和42年以降は漁獲効率の良いトロー
ル漁に転換が進み、現在に至っています。
<「鮮度」と「資源」を守る!>
テナガエビの産卵時期は5月下旬~9月頃で、オスは成長に伴い手が長くなることから、
名前が付きました。体長は10㎝程度です。食性は、雑食性でユスリカの幼虫やイトミミ
ズ、プランクトン等を食べています。霞ヶ浦・北浦の漁師達は「トロール漁」について、
これまでよりさらに厳格なルールを定めることで、魚やエビの命ともいえる「鮮度」と、
「資源(霞ヶ浦北浦に生息する魚介類)」を持続的に利用しつつ、買い手のニーズに合わ
せた漁業を行っていこうと、平成22年(2010年)に「霞ヶ浦地区トロール部会」を設立し
ました。こうして漁獲された「テナガエビ」は、霞ヶ浦北浦で佃煮や釜揚げなどの原料
として利用され、そのほとんどが地元で消費される重要な水産資源です。
<万能食材、テナガエビの稚エビ「ざざえび」>
テナガエビの稚エビ(体長5㎝~10㎝)を地元では「ざざえび」と呼んでいます。夏に
生まれた稚エビを秋に獲るものです。実は霞ヶ浦・北浦のテナガエビ漁とはこの「ざ
ざえび」漁が中心なのです。ですから、テナガエビ漁=ざざえび漁と言ってもいいくら
いなのです。ざざえび漁は9月上旬から10月下旬にかけて行われ、期間中漁師たちは、
深夜2時30分頃から出港し、午前6時頃に帰港します。漁師の起床は2時、就寝は8時頃
だと言います。1時間ほど網を曳いてから網をあげ、これを1日に3~4回繰り返します。
平均水深が4メートルと浅い霞ヶ浦で、湖底近くにいるエビを狙いながら、泥や砂が混
じらないように「湖底に網が着かないギリギリのところ」を曳くには、高度な操船技
術が必要です。ざざえび漁で最も大変な仕事といえるのが、選別作業。水を張った大
きなタルに、漁獲したエビ等を1箱ずつ入れ、手作業でエビの大小とエビ以外の魚とを
選別していきます。水揚げ直後のざざえびは無色透明でとてもきれい。釜揚げにする
とほんのり桜色に染まります。これこそが香り際立つ万能食材!「ざざえび」です。
<テナガエビの豆知識>
1.日本在来種のテナガエビの養殖に高知県の養殖業者が、世界で初めて成功。
養殖に成功したのは、四万十川に生息するミナミテナガエビ。テナガエビの近縁
種で、高知県では高級食材です。養殖の大きな課題は「共食い」でした。エビの
大きさで選別して、水槽を分け、隠れ家をたくさん作ることで、共食いが激減し
たそうです。現在は量産化にも成功し、地元の味として人気です。
2.エビを加熱すると赤くなるのはなぜ?
エビの殻と身に含まれる、アスタキサンチンという赤い色素によるものです。生き
ている状態の時は、本来の鮮やかな赤色は隠されています。しかし加熱することで、
含まれているタンパク質が熱によって変化し、アスタキサンチンの赤色が現れるよう
になるのです。ちなみに、アスタキサンチンは「自然界で最強の抗酸化物質」といわ
れています。
3.テナガエビは釣って、飼って、食べて良し!
釣って、飼って面白く、食べても美味しいテナガエビ。なかなか3つも楽しみがある
対象魚はありませんね。テナガエビは都市部の河川でも気軽に楽しめるターゲット
です。家族で、晩ごはんのおかずを採りにテナガエビ釣りに出かけましょう。
4.テナガエビの栄養価:高たんぱく&低脂肪の優れたナチュラルフードで、エビ類全
般に含まれる栄養素となる、ビタミンB群、ビタミンE、葉酸といったビタミンをは
じめ、リンやカルシウム、カリウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウムなどのミネラル
が豊富に含まれています。特筆すべき栄養成分として、テナガエビは他のエビ類と
比べて、EPA、DHA、カルシウムが、ずば抜けて多く含まれていることです。
ざざえびは、調理法によって様々な食感や風味を楽しめるのが魅力。釜揚げや佃煮、素
揚げ、かき揚げはもちろんのこと、揚げ物をそばやうどんに入れても良し、洋食、中華
料理のアクセントに使っても良しで、出番の多い食材です。特に揚げたては風味が濃厚
で大変美味です。道の駅での一番の売れ筋商品は「ざざえびの釜揚げ」です。
地元に来ないと食べることは難しいですが、近年は通販で入手できます。
ぜひ、皆様も「ざざえび」の味わいをご堪能あれ!