動物村の住民たちが広場に集まって、緊張した面持ちで長老の話に耳を傾
けています。
長老 :山の見張り番から連絡が入った。東の空から我々の姿に似たもの
たちが一直線に並んでユラユラとこちらに向かって進んでいて、
それがどうやら、この村の広場に降りて来る恐れがあるようだ。
もうすぐ、ここからも見えるらしい。
ミミ :見て!アレじゃないの?ホラ、あそこ!
コン太:でも、僕たちは空を飛べないじゃないか。仲間なんかじゃないよ。
ポン吉:何か嫌な予感がする。戦いにならなければいいけどな~。
長老 :今はまだ、何も言えぬ。正体が分かるまでは外出禁止だ。3人組も
すぐに家へ帰れ。家から出るとお仕置きだぞ。ワシと村の役員た
ちは木の陰から様子を見守る。安全が確認できたら、みんなに知
らせるから戸締りをして待っていなさい。
3人組は大急ぎで家に向かい、長老と役員は木の陰に隠れました。謎の飛
行物体の姿が徐々に、はっきりと見えてきました。
ポン吉:あれ?先頭は俺と同じタヌキだぞ。それにしても、ブヨブヨだ。
体は大きいのに軽そうで、しかも弱そうで、怖くなんかないぞ。
コン太:キツネもいる。僕にそっくりだ。本当に空から降りて来た!
ポン吉:何だ、コン太も来ていたのか。見つかったらお仕置きだぞ。
コン太:お前だって来たじゃないか。気になるから、家に引っ込んでな
んかいられないさ。
ミミ :私もいるわよ。抜け駆けしようたって、そうはいかないわよ。
二人の考えることなんて、お見通し。三番目はウサギよね。で
も私は、あんなに太ってないわ。誰も武器なんか持っていない
し、柔らかそうで、なんだか可愛く見えちゃうわ。
キツネ・タヌキ・ウサギのほかに、シカ・サル、リスなどの動物の姿をし
た飛行物は静かに広場に降りてくると、ユラユラと体を揺らしながら地面
に降り立ちました。
しばらく様子を見ていた長老と役員たちがユックリと近づき始めた、その
時です。最初にキツネの姿をした飛行物がフワッと浮き上がりました。続
いて他の動物たちも浮き上がり、一列に並んで、まるで踊るように空中で
ユラユラし始めたのです。
突然浮き上がった大きな動物の飛行物に長老たちはビックリ仰天「ウワ~
ッ!!」と大声を出して退散してしまいました。
少し離れた場所で、その様子を見ていた仲良し3人組も一瞬ひるみました
が、いち早く冷静さを取り戻したミミは、周囲を観察し始めました。そし
て、村で一番高い木の枝先だけが不自然な揺れ方をしていることに気付い
たのです。
ミミ :よく見て!木の上に誰かいるわよ。あれは風の精の風太郎さん
じゃないかしら。
ポン吉:そうだよ、間違いない。風太郎だ。呼んで見よう。
コン太:待て!大きな声を出すと長老たちに気づかれてしまうぞ。大き
な声じゃなくても風太郎には僕たちの声は聞こえるよ。
オ~イ、風太郎く~ん。
風太郎:オヤ、仲良し3人組の声が聞こえたぞ。や~、みんな久し振りだ
ね。面白いお土産を持って遊びに来たのに、誰もいないのでがっ
かりしていたんだ。君たちはかくれんぼでもしているの?
ミミ :ちょっと~、ビックリさせないでよ。面白いお土産って、アレの
こと?
風太郎:大きいけど可愛いだろう。君たちの姿に似せて人間たちが作った
もので、子どもたちがお正月休みに空へ飛ばして遊んでいた風船
というものなんだ。君たちの体の特徴がよく出ているだろう?
空に上がったものを集めてここまで引っ張って来たんだ。途中で
隊列が崩れないように、ここまで引っ張ってくるのは大変だった
んだぞ。君たち、喜んでくれたかな?
ミミ :そういうことだったのね。危険なものじゃなくて良かった~。
ポン吉:アレは人間の子どもが遊ぶおもちゃなの?触っても大丈夫?
風太郎:もちろん大丈夫だ。とても軽いから手で放り投げるとしばらく浮
かんでいるよ。でもね、風船を膨らませているものが中から抜け
てしまうと、どんどんしぼんで小さくなり、やがてペチャンコに
なるんだ。そうなると、もう元には戻らないよ。あの風船で遊べ
るのは今だけだ。
コン太:アララ、長老たちが竹ざおを持って風船に近づいている。おもち
ゃだから、怖くないって教えてあげたいな。
ミミ :ダメ!私たちがここにいることがバレちゃうわ。後でお仕置きさ
れるのは嫌よ。
風太郎:オヤオヤ、仲良し3人組と同じ姿だから喜んでくれると思ったの
に、村の住人を怖がらせてしまったようだな。すぐに風船を引き
連れて、この村を出ようか?
ポン吉:ウ~ン、ちょっと待ってね。3人で相談する。
相談したあと、風太郎に耳打ちをしました。その間、長老たちは竹ざおを
持って風船ににじり寄って行きました。でも、かわいいキツネやタヌキの
姿をした風船たちに襲いかかることができずにためらっています。
すると、長老たちの目の前で風船が急激にしぼみはじめ、やがてペチャン
コになって横たわってしまいました。その様子をキョトンとしながら見て
いた長老たちは、事情が分からないままながら、ホッとひと安心。
風太郎:風船をペチャンコにして、いかにも長老たちが村を守ったように
してくれという、君たちの注文には驚いたよ。3人組が風船で遊
べなかったのは残念だけど、ペチャンコの風船を風で巻き上げて
持ち帰ることにするよ。後で、長老たちがみんなに何と言って報
告するのか、見ものだな。
ミミ :確かにどう説明するのかな?せっかく風太郎さんが私たちのため
に持ってきてくれた風船なのに、とんだことになってしまったね。
コン太:今回はゴメンな。でも風太郎の気持ちは嬉しかったよ。
ポン吉:本当のところ、一時はスッゴク緊張したよ。今度来るときには、
みんなを怖がらせないものを持って来てくれよな。
風太郎:分かった。それではみんな、また会おう。
じゃあな。ヒュルル~~~
3人組:さようなら~、また来てね~。
長老と役員たちが住民に向かって、広場に集まるように大声で呼びかけて
います。仲良し3人組も素知らぬ顔で広場に向かいました。それにしても、
風太郎はどんな手を使って風船をペチャンコにしたのでしょう?
いくら考えても、3人組には解けない謎でした。