老夫婦は岐阜県で「白鳥拝殿踊り」「郡上徹夜踊り」に参加、そして「通称:モネの池」で魅了されて今回の旅を
終えました。本日は帰宅の日。最終日は岐阜城のある金華山の麓、岐阜公園の散策と決めていました。
現在、「信長公の鼓動が聞こえる歴史公園」として再整備が進められています。
夫: 「板垣死すとも自由は死せず」の名文句を残した板垣退助の像が、なぜこの信長の公園にあるのかなと
思ったら、この場所で暴漢に襲われた時に生まれた言葉だったんだね。
妻: 信長公居館の発掘調査はまだまだ続きそうで、再整備が完了するのはまだ先ね。
公園めぐりを終えた二人は、何気なく長良川を見たいと川を見下ろす土手の道に出ました。そこで目に入った
光景は長良川の増水による濁流でした。
夫: 長良橋を見てごらん。増水で橋げたまで数mの水位の位置まで上がっている。昨夜の岐阜市内は雨が降っ
ていなかったから、川上の白鳥や郡上方面では昨夜はかなりの量が降ったんだよ。それがこの増水だろ
うね。
妻: 昨夜は白鳥で「白鳥拝殿踊り」で踊っていたけど、急な雷と大粒な雨で早めに切り上げて帰ったのは正
解だったわね。あのままあそこにいたらずぶぬれになっていたわ。
二人が橋げたの水位から手前の岸辺に目線を転じると、停留中の観光鵜飼い舟の陰から小船が出てきました。
小舟の前方と後方に若衆がいます。やがて後方の若衆が器用に小船を横向きに方向転換させると、前方にいた
若衆が船縁にかがみこみ、身を乗り出して川面をぺちゃぺちゃと、棒と板のようなもので叩き始める様子が目
に入りました。
夫: あの人は何をしているのかな?
妻: しばらく様子を見ましょうよ。
夫: わかったぞ。鮎を脅して追い込んでいるんだ。
妻: 「本日は鵜飼い中止」の看板が出ていたわね。こんなお休みの時は鵜に代わって、自分たち人間が鮎を
獲れるチャンスというわけね。この鵜飼い船待機場は引き込み用に作られている湾だから流れは無い
けど、本流とつながっているからすごく濁っているわ。こんな濁り水の状態で水面をたたいても効果
あるのかな?
夫: 見てごらん。あらかじめ網が仕掛けられてあったんだな。目印のペットボトルを掴んで持ち上げたぞ。
水の中の網が上がってきた。わっ、いる。鮎が網にからめ獲られている。獲れてるね。
妻: そうか。ここは鮎にとっても本流の激流から逃れられる避難場所になっているのね。だからこの狭い待
機場の湾には鮎がいっぱいいるんだわ。
夫: 水中に仕掛けられていた網はあの一ヵ所だけだったようだね。次は何をするのかな?
妻: わかった。大きな網だわ。折り畳み式で先端が横広な逆三角形の網を組み上げている。魚がいっぱい入
りそうね。
夫: 堤防岸に網を入れた。すくい上げた。すごい。鮎が入っている。大漁じゃないか。これには驚いた。
又、場所を移動して網ですくっている。おう、今度の網のなかにもいっぱい獲れている。すごい効率で
鮎を捕獲しているね。鮎を網ですくい獲る光景なんて見るのは初めてだよ。本流が増水しているときは、
どこに鮎が避難しているのかを熟知しているということだ。
妻: 私たち昨日、板取川の網元「おもだか」で奮発して、天然鮎のフルコースを頂いたけど、鮎一匹がいい
値段したわよね。天然鮎だからこれでも安いんじゃないかなと話していたけど、こんなにいっぱい目の
前で簡単に捕れている様子を見ていると、あの値段にはなんか複雑な感じが残るわね。
夫: そうだよ、長良川や板取川の両側に一列に並んだ釣り師たちが友釣りで一匹、一匹、鮎との知恵比べに
勝ちながら、丁寧に釣り上げるから値段が高いのだと思っていたから、網で大量の天然鮎をすくってい
るこの漁法は、私に言わせてもらうと、全く「ありえへん光景」だな。
妻: でも考えてみたら、今日のように鵜飼いができないほどの濁流が押し寄せた時だけにできる獲り方よね。
だから年に何回あるか知らないけれど、旅行者の私たちにすれば、貴重な光景に立ち会っていると思っ
た方がいいわね。
夫: 多分あそこで漁をしている人は鵜飼い船の関係者だと思うから、獲った鮎は料亭に行くんじゃなくて、
鵜の餌になるんだと思うよ。そう思えば、我々が食べた「おもだか」の天然鮎は決して高くいもので
はなかったんだよ。
妻: 確かにそうね。納得だわ。
夫: おっ、又、網の中に鮎がいっぱい入っていたぞ。このまま漁を続けたら軽く100匹を越えるんじゃない
かい。それにしてもよく獲れるな。それだけ長良川の魚影は濃いんだということだね。
鮎が網で簡単にすくい獲れているさまを見てかなり驚きました。鮎がこんなに簡単に獲れるなんて「ありえ
へん光景」だったのです。
二人は特別な川の環境の時だけに見られる、貴重な光景に偶然巡り合えたことで新しい知見を得たようです。