日本での伊勢エビは黒潮系暖水域を主な生息域としており、茨城では平成の初期までは
ほとんど漁獲されていませんでした。ところが近年、茨城県でも大量の伊勢エビが取れ
るようになりました。今では隣の福島県でも南部のいわき市で漁獲されています。水温
が上がり南の魚介類が北へ生息地を拡大しているのを感じます。具体的には、常磐沖で
は平成13年以降に、漁獲量が急増し、近年は年間8~10トンで推移しています。ちなみ
に、この区域で増加した要因としては、「黒潮の流れが強い年に南から運ばれた幼生が
茨城県に定着した」、「水温上昇による来遊幼生の増加」、「稚エビの生き残りの増加」
などが考えられますが、詳細は明らかではありません。近年水揚げされるようになった
茨城県産の伊勢エビは南方のものより、色鮮やかで、目を奪われるほど豪華。そして、
透明感のある身はプリっと肉厚でほんのりと甘みがあります。美味しさと華やかさを兼
ね備えた、まさに才色兼備の伊勢エビは、首都圏への近さと高鮮度、そして、他の産地
と比べて手ごろな価格で提供されているので、じわじわと知名度を高めています。主な
漁獲地域はひたちなか市沿岸です。禁漁期間は産卵期の5月~8月で、美味しさの旬は
冬の波が荒れる時期の10 月~1月です。今回は常磐沖の伊勢エビを紹介します。
<伊勢エビとは>
伊勢エビは水深40メートルまでの浅い海に生息。大きいものだと体長40cmほどにもな
り、市場には20~30cmほどのものが多く出回ります。伊勢エビの触角は硬い殻で覆わ
れ、付け根の付近にはとげが無数についているのが特徴です。親エビは浅海の岩礁域に
生息し、主な分布域は福島県沖以南の太平洋沿岸、長崎以南の東シナ海沿岸です。夜
行性のため、夜間に周辺を歩いてエサを探します。エサは貝類、カニ類で、殻をガリ
ガリかじって中身を食べます。天敵はタコ。(タコの天敵はウツボ・・・ご存じでし
たか)オスとメスの見分けはつきにくいのですが、メスはオスに比べはさみが小さく、
触角と歩脚が短くなっています。産卵期は4月~10月で、産卵の盛期は5月~8月。
卵は雌がしっぽに抱え込んで、外敵から卵を守り、1ヶ月~1ヶ月半でふ化します。
卵からふ化したものは、沖合いに流されて、1年くらい海中をプランクトンのように
プカプカ浮遊しています。ふ化した翌年の5月~9月に、また沿岸にもどって底性生
活に入るのです。この底性生活に入ったものをプエルルス、またはガラスエビ(体が
透明なため)と呼びます。体長は2㎝ほどです。ふ化してから親エビ(体長13㎝)
になるのに通常2年から3年はかかります。ちなみに、ガラスエビから15回ぐらい脱
皮を繰り返して親エビとなります。
<伊勢エビの漁獲量比較>(2019年)
漁獲量の日本一は三重県(25.8%)、2位の千葉県(17.7%)、3位和歌山県(12.4%)で
3県あわせて、国内漁獲量の約56%を漁獲しています。新参者の茨城県は10位で2.1%
と健闘しています。
<伊勢エビの豆知識>
1.伊勢エビの禁漁期間:期間は繁殖期と産卵期の間で、各県が条例で決めています。
これは一般の釣人にも適用されます。禁漁期間は5月~8月が多いですが、設定
されていない県もあります。解禁日が一番早いのは、茨城県、千葉県で8月で
す。プランクトンの豊富な海で成長が早いためです。次いで九州が8月下旬~
9月、三重県、和歌山県は10月となっています。産卵直後は身が少し痩せてい
るため、美味しさの旬は冬季だと言われています。
2.伊勢エビは100%天然物:東南アジアやアフリカなどからの輸入物もありますが、
伊勢海老は全て天然のものです。養殖は研究されていますが成功しておらず、
市場に出ているのは天然物のみのため、非常に高値で取引されています。
3.伊勢エビはなぜ赤い?:海老類の赤い色素は「アスタキサンチン」です。藻や
コケに含まれるアスタキサンチンを、パワーの源として体内にため込み赤く
発色します。特に大切な目に集中して、多くのアスタキサンチンが蓄えられ
ています。近年では、アスタキサンチンは化粧品にも使われるほどのアンチ
エイジングの有効成分として注目されています。
4.選び方:選ぶときは生きているものが一番望ましいです。体が大きく腹周りが
太いものが美味しい伊勢エビです。鮮度が落ちると胴と腹の境目などが黒く
変色していきますので、冷蔵のものを選ぶときはこの点から鮮度を見極めま
しょう。
5.食べ方:伊勢エビは身だけでなく殻も余すことなく使います。家庭での調理に
おすすめの方法が茹でる・姿焼き・生・調理です。身を食べたあとの殻は、
濃厚な出汁をとることができます。
(1)茹でる:伊勢エビ料理の中でもっともシンプルなのが、「茹で」です。触角
を切り落とし、沸騰したお湯に入れ、お好みで塩を茹でます。頭と尻尾の
部分を持って折るように分け、尻尾は切り込みをハサミで入れることで、
簡単に剥くことが可能です。背中の背わたを取り、好みの大きさに切った
ら完成です。ぷりっぷりの食感になり、頭の部分の海老みそをつけて食べ
るのも外せません。茹で汁を使って、味噌汁や雑炊をしても美味しく食べ
られます。
(2)姿焼き:焼くと曲がるため、あらかじめ尻尾の腹部分に串をさしておきます。
あとはそのまま中火から強火で焼くだけです。布巾などで頭と胴体を持ち、
ひねりながら身を出します。腹に縦にハサミで切り込みを入れ、殻を剥い
たら完成です。伊勢エビを縦に半分に切ってから焼くと、見た目も豪華に
なります。伊勢エビの香ばしさと甘みのある味が、口の中に広がります。
(3)生でお刺身:活きた新鮮な伊勢エビを堪能するなら、外せないのがお刺身で
食べることです。跳ねることがあるため、さばく前に真水に約5分浸けて
おくとおとなしくなります。頭を押さえて胴体との境目に包丁の先を入れ
込み、甲羅を半周して薄皮を切ります。とげなどがあるため、切る際は軍
手を着用してください。裏返して包丁の先で切り離し、スプーンなどで身
と殻をはがします。頭までしっかりと身が入っているため、胴体をゆっく
りひき抜き、抵抗が強ければスプーンで剥がすとよいです。剥がしたら内
臓を抜いて氷水に浸すと、身が締まります。お好みの大きさに切って、盛
り付けたら完成です。ぷりぷりの食感と、甘い味わいを楽しめます。
(4)炊き込みご飯など:茹で伊勢エビを堪能した後は、茹で汁を使って炊き込み
ご飯や味噌汁を作るのがおすすめです。具材に伊勢海老の身を入れると、
さらに贅沢なひと品を楽しめます。作り方はいたって簡単で、水を入れる
工程の部分を茹で汁に変更するのみです。伊勢エビの旨味が凝縮され、深
い味わいになります。
<伊勢エビの栄養価と効能>
- タウリンが豊富:タウリンは血圧を正常に保ち、血栓や心筋梗塞を予防する働
きや血液中の悪玉コレステロール(LDL)を減らし、善玉コレステロール
(HDL)を増やす働きがあるとされ、脳卒中、高血圧、心臓病の予防に有効と
されています。
- 抗酸化力が強い:強い抗酸化力があるビタミンB1が100g中8mgも含まれてい
ます。ビタミンB1の抗酸化作用は活性酸素を抑え体内の不飽和脂肪酸の酸化
を防ぐ働きがあるので、動脈硬化や心筋梗塞などの生活習慣病の予防に有効
です。
- 赤い色素のアスタキサンチンが豊富:強い抗酸化力があり、発がんを抑制し、
血液をサラサラにする効果があると言われています。
- 高タンパク、低脂肪で身体に優しい食材:高タンパク低脂肪。エビ特有の甘味
は脂肪によるものではなく、このたんぱく質に含まれるグリシンやアラニン
などのアミノ酸によるものです。
<伊勢エビ釣りはどこでもできるのか?>
伊勢エビ釣りは基本的に禁漁であることをご存知ですか。関東圏では唯一、茨城県
の鹿島港、大洗港、日立港の指定された場所だけです。その他では漁業権侵害とな
りますので、注意が必要です。尚、どこでも蟹網の使用は禁止されています。
<伊勢エビ漁>
漁法は主に刺し網漁と潜水漁(海女がもぐって手づかみ)、蛸脅し漁(天敵のタコ
を使って獲る)があります。茨城県では通常刺し網で捕獲しています。伊勢エビが
海底を歩いているときに、網目にしっぽから刺さるか、網にからまるかして捕獲す
るのです。
刺し網漁は、昼間の1時~3時に網を仕掛ける為に出港していきます。伊勢エビは夜
行性なので、夜中の午前2時頃に網を引き上げるため2度目の出港をします。まだ
まだ夜明けには遠い午前3時頃には作業をするための明かりが点きます。港に戻っ
てきた後は伊勢エビの活力低下を防ぐため、すぐに陸で手際よく一尾一尾、丁寧に
網から外す作業を行います。実はこれで漁の終了ではなく、その後に、網が岩など
ですれて切れてしまうので、午前中に網の修繕をします。網の長さは船の乗組員の
人数で決められており、例えば、3人乗りの船で2,400mまでとなっており、網目も
9.3㎝以上と決められています。このように、たくさん獲りすぎないように、 また、
小さいエビを獲らないように工夫しています。
網を入れる場所は漁獲を左右する最大のポイント! 魚群探知機などで底の形状を見
ながら、潮の流れなどを考えて、 根をはずさないように網を入れていきます。まさ
に長年の経験と最新の科学技術機器を駆使して 伊勢エビを漁獲します。
<県内で伊勢えびが食べられる店・買える店>
(1)海鮮どんぶり亭:大洗駅から車で7分。大洗の海鮮市場併設の海鮮料理屋さん。
新鮮な魚介類で作ったどんぶりをメインに、お店こだわりの魚料理をより美
味しく堪能できる、大洗ならではのグルメを提供しています。
(2)魚売場 森田水産 那珂湊魚市場前:那珂湊漁港の隣にある魚問屋。TVでもし
もしツアメンバー一行が伊勢エビを求めて訪れていました。那珂湊漁港に水
揚げされたばかりの新鮮な魚介が豊富に揃っているとのこと。森田水産の2
階は食事処。新鮮な伊勢エビの料理が堪能できます。伊勢えび:1300円/匹
(3)グリーンパークホテル:伊勢エビ料理が食べられるプランがあるホテル。
(4)飯岡屋水産 大洗 海・山・直売センターいきいき店: 大洗駅から車で5分。大洗
漁港で水揚げされた、獲れたての魚介類が販売されているショッピングセン
ター。
茨城県で水揚げされる特大伊勢エビは、伊勢産より美味しいと都内高級店でも使われ
ています。
是非、茨城県沖の伊勢エビをご賞味あれ!