茨城県は、全国3位の「にら」の生産地です。特に生産量が多いのが小美玉市です。市内
小美玉地区のJA新ひたち野 小川ニラ部会のメンバーが栽培するにらは、通称「小川のにら」
と呼ばれています。現在は年間を通して栽培を行っており、肉厚で葉幅が広く茎も太く、
甘みがあると人気です。露地で栽培され、元気良く育った小川のにらは、収穫後は予冷設備
ですぐ低温状態としているため、鮮度が良いのも特長です。部会では、土壌検査や栽培講習
会を定期的に行い、施肥管理の見直しや有機質肥料の投入など、環境と調和した農業に取り
組んだ結果、生産者全員がエコファーマーの認定を受けています。
他に、美野里地区では、ハウスなどの施設で栽培をしています。環境に配慮し、たい肥を活
用した健康的な土づくりを実践するとともに、土壌中に蓄積された肥料成分を診断してから
施肥量を決定。さらに、GAP(農業生産工程管理)を導入し、安全・安心な生産管理を実
施しています。近年は、できあがったにらのなかでも、特に品質に優れたにらを厳選し、
「美野里緑王」として出荷しています。小美玉市ではこうした各地区のブランドにらをより
多くの人々に美味しく食べてもらうため、日本語、英語、中国語の三か国語版のレシピ集を
作成し、国内外にPRしています。古来、にらはアジア地域を中心に栽培され、日本でも
「古事記」や「万葉集」に名前が出てくるなど古くから親しまれてきた野菜です。長らく薬
用として食されていたにらは、強い臭いの元となるアリシンをはじめ、βカロチンや各種ビ
タミン、葉酸など健康増進に役立つ栄養が多く含まれています。日本のにらは自給率100%
の野菜ですから輸入はしていません。今回は茨城県自慢のにらを紹介します。
<にらとは>
にらは野菜のなかでは数少ない多年草です。ニラのにおい成分の硫化アリルやアリシンは、
身体を温める効果や血行をよくする効果があります。にらはこうした生薬として使用され
るほど身体によい野菜ですが、ビタミンAを豊富に含む健康野菜でもあります。比較的寒さ
に強く、夏季、気温が高くなると生育は早くなりますが、葉が細く、薄くなります。土壌
はあまり選びませんが、酸性では生育が悪く、好適土壌pHは6~7です。花芽は長日・高温
条件で分化し、7~8月にトウ立ち・開花します。にらは冬、低温・短日で休眠に入り、地上
部は枯れます。花にらは比較的高温を好み、年中トウが立ち、それを食用にします。種まき
から収穫まで1年掛かりますが、一度植えれば数年収穫することができ、株分けして植え替
えるとさらにまた収穫できるので、家庭菜園に植えておくと重宝します。にらが全国に広ま
ったのは第二次世界大戦後からといいます。
<にらの生産量ランキング>(2020年)
1.世界の生産地ランキング
1 位は中国86万9,839トン(19.1 %)、2 位マリ68万4,653トン(15.0 % ),3 位は日本
51万2,934トン (11.2 % ),そして4 位韓国42万4,457トン( 9.3 %)です。
2.国内の生産量ランキング
1位高知(香南市)14,500 (t)(24.9%)、2位栃木(鹿沼市)10,900 (t)(18.7%)
3位茨城(小美玉市)7,780 (t)(13.3%)となっています。
<にらの品種>
食用のにらは葉にら、黄にら、花にらの3種類に大別されます。
(1)葉にら:緑の葉を食べるにら。一般にスーパーに並んでいる葉が緑色のにらを指
します。葉の太さによってさらに大葉タイプと小葉タイプに分けられま
すが、現在では大葉タイプが主流で、小葉のにらはほとんど作られてい
ません。
(2)黄にら:軟白栽培されたにら。岡山県産の黄にらが有名です。葉にらの苗に光を
あまり当てないようにし育てたものが黄にらです。光合成が阻害されて
葉緑素が作られにくくなるため、葉が黄色く見えるようになります。
葉にらに比べてにら特有のアクが少ないのが特徴で、ほのかな甘みもあ
ります。
(3)食用花にら:花茎を収穫したにら。茎だけでなくつぼみも食べられます。食感は
葉にらよりやわらかく、甘みがあります。火を通すと花にらの香りと甘み
がより強く引き出されるため、炒めものやスープなどに適しています。現
在では、マルイチポールやテンダーポールといった花にら専用の品種が開
発されています。
(4)行者菜:宇都宮大学農学部が「行者にんにく」とにらを掛け合わせて育成したも
の。にらのような食感と、行者にんにくのような風味を持つとのこと。
山形県や青森県、岩手県、北海道など、主に東北地方で栽培されています。
※ちなみに、同じ「花にら」の名前で別種の園芸品種が存在しています。私の散歩道で
も普通に見かけます。花茎の先に白や薄紫、水色の花を一輪ずつ咲かせます。毒を持
っており食用にはできません。
<にらの豆知識>
1.にらにも旬がある。
今では露地栽培やハウス栽培など1年を通して生産される葉にらですが、本来の旬の
時期は春の3月ごろをいいます。旬の時期に収穫する葉にらは香りが強く柔らかく栄
養価も高いので、春の季節に取り入れたい食材です。通年栽培をしていますから、
4月~10月にかけては夏にらが、11月~3月にかけては冬にらが出回ります。
2.お疲れ様にはにらのお粥・餃子がおススメ!
生のまま食べると少し辛味を感じると思いますが、あの辛味のおかげで体が温かくな
ります。ですから、胃の弱い方にはにらのお粥がお勧めです。冷房で体が冷え、夏バ
テで食欲が湧かない時は、にらを食べることで体を温めて血行も良くなり、胃腸の働
きも高めてくれます。アリシンはビタミンB1の吸収を高めることが知られていますの
で、豚肉と一緒に摂取すると疲労回復に効果的です。コロナ禍と長梅雨で、心身共に
疲弊している方も多くいらっしゃると思いますが、ぜひ餃子などでたくさんのにらを
食べて、これからの猛暑の時期を健康的に乗り切りましょう。
3.大量消費県が遠い高知県が生産量1位のわけとは!
パーシャルシール包装技術により遠方へもいきいきと新鮮なにらを届けられることが
可能になりました。この技術はにらやネギの鮮度を保つ高知県農業技術センターの特
許技術です。空気をわずかに通す微細な透き間の空いたシールで、袋内を低酸素・高
二酸化炭素状態にすることで、にらの呼吸作用を抑制し、長期間高い鮮度を保持する
ことができます。
4.にらの栄養と効果
切ったときにツンとする独特の香りが、にらの最も注目すべき栄養素であるアリシンで
す。硫化アリルのアリシンは、糖質代謝に必要なビタミンB1の吸収を促進し効果を持続
させます。そのためビタミンB1を豊富に含む食べ物と相性がよく、エネルギー代謝を活
発にして疲労回復やスタミナ増強効果が期待できます。また血行を促進するので、体が
温まり冷え性改善や肩こり解消につながります。抗酸化作用のあるβカロテンやビタミン
Cを含むのに加え、強い殺菌作用を持ちます。ナチュラルキラー細胞を活性化させること
で免疫力を高め、発ガン防止効果があると言われています。カリウムも含まれており、
余分なナトリウムを排出して血圧を降下させる野菜です。加熱すると香りは和らぎますが、
栄養・味が共に下がるのでさっと加熱して食べるのがよいでしょう。アリシンは根元に豊
富に含まれるので、よく洗い除かずに食べることが大切です。花粉症にも良いという報告
も出ています。
6.にらの選び方
先ずは根元を持ったときにピンと立つのが上質です。そして葉先がピンと張りみずみずし
く、葉の緑色が濃く色鮮やかなものを選びましょう。葉先から水分が抜けていくので、古
くなればしおれて元気がなくなります。また茎の部分が変色しているものや、葉先が濡れ
て色が変わっているものは収穫から時間が立った証拠です。
7.にらは冷凍保存すると栄養素が9倍にアップする。
湿らせた新聞紙でくるんで、冷蔵庫の野菜室で保存すれば、2〜3日ほど日持ちします。
しかし、冷凍保存するとにらに含まれるアリインという栄養素が、なんと9倍にもアップ
するのです。アリインは、ニンニクやニラ、ネギに含まれる成分で、イオウを含むアミ
ノ酸の一種。血液をサラサラにし、疲労回復の助けになる効果が期待されています。にら
を冷凍保存する方法はとっても簡単!ニラを料理に使いやすいように葉先、根元といっ
た具合に切り分け、チャック付きの保存袋に入れるだけ!その際、袋内の空気を抜くよ
うに平らに入れるのが上手く冷凍保存するポイントです。
※冷凍したにらは生の状態に比べると多少味や風味が落ちてしまうので、解凍して生の
まま使用せず、冷凍したまま料理に活用してください。
8.にらは部位によって栄養価が少し異なる。
葉先にはビタミンA、C、Eが豊富で、根元には先ほどご紹介したアリインが豊富です。
根元に関しては、なんと葉先の約4倍もアリインが含まれており、糖度も高いので甘みも
感じやすいです。また、根元に多く含まれるアリインは、切る、潰すなどでアリシンへ
と分解されます。このアリシン、にら特有の食欲をそそる匂いの元となっているため、
細かく切って使うとお料理の良い風味づけになってくれるかと思います。アリシンはア
リイン同様、疲労回復や血液サラサラ効果に加え、ビタミンB1の吸収率もアップしてく
れるので、疲れにくい体作りにも役立ちます。葉先にはビタミン類が豊富なので、根元
とは違いザックリ大きく切って栄養の流出をなるべく防ぐようにしましょう!
葉先ザックリ、根元は細かく、にらを切る際はぜひ切り方を変えて楽しんでみてください♪
<にらの栽培>
にらの産地として有名な1位の高知県から4位の宮崎県まで一年中生産をされており、5位の群
馬県は主に12月下旬から6月上旬までを主な生産期間にしています。にらは一度植えると年3回
程収穫できる野菜です。主な生産地では通年をとおして出荷できるよう体制をとり生産をして
います。ハウス栽培は3回から4回収穫ができて、露地栽培は2回から3回収穫を目安に生産され
ています。にらは一年中作れるので、安定した収入が得られることから専業農家が多くいるこ
と、そして100%自給率も自慢ですね。
「JA新ひたち野 小川ニラ部会 」の農家さんが紹介しているにらの栽培です。
1.種まき
にらは株分けしたものを植えて増やしてくのが一番簡単で確実な方法ですが、種から育て
る場合は3月下旬から4月上旬に箱蒔きし保温しながら育てます。10~15日ほどで発芽しま
すので3ヶ月ほど育てたら苗を畑に植え付けます。
2.植え付け
植え付けは5月下旬から7月までの間に行い、事前に1㎡あたり100g~150gの苦土石灰を施し、
堆肥を蒔いて土作りを済ませます。1ヶ所に4~6本まとめて植え株間は20~25㎝とします。
また植え付け時には水をたっぷりと与えておくと根付きが早まります。
3.追肥・土寄せ
苗の植え付け後、2週間もすると大きく成長してきますので、追肥をし軽く土寄せしておき
ます。その後は収穫後を目処に追肥を行います。肥料分が不足すると生育も遅れるため、
かたく筋っぽいニラとなります。
4.収穫
夏を越すと一年目の苗でも大分体力を付けていますので収穫が可能となります(ただし植
え付け2年目から収穫した方が株は元気に大きく育ちます)。収穫は新葉が20㎝ほどに成長
した株を根元から包丁などで刈り取って行います。根を残しておけば収穫後も数週間もす
れば再び葉が生い茂り収穫することができます。大まかな目安としては年4,5回収穫するこ
とが可能です(プロの農家の方は品質を確保する為、収穫を年1,2回としている方が多いです)。
2年目以降は春先から収穫すことができますが、葉の勢いが弱まってきたら追肥をしたり、
掘り起こして株分けをします。株分けの大まかな目処は3~4年です。また夏が過ぎた頃に収
穫を控え、株を休ませ来年に向けて体力を蓄えさせると来年元気に葉を茂らせてくれます。
なお秋口には白いきれいな花を咲かせますが、花が咲くとそちらの方に体力を消耗してしま
うので株が弱ってしまいます。花茎が出たら早めに刈り取るようにします。
5.株分け
株分けは植え付け3年目を目処に行います。こうして株を新しく更新することで、元気で美味
しいにらを収穫し続けることが可能となります。
(にら栽培のポイント)
①一番は土作り:にらの土作りにはチッ素成分がたくさん必要です。小美玉市は養鶏場が多く鶏糞
にはチッ素が多く含まれているので、地元の鶏糞たい肥を使って土作りをしています。
②生産工程管理:栽培履歴などは全てタブレットで一括管理している。
③にら農家の悩み:機械化(手作業が多い)したい。現在にらの収穫は全て手作業です。その理由は、
どうしても黄色い葉の部分が出てしまうので、そこの部分は人の目でしっかりチェックして選
別しながら収穫しているからです。
④袋詰め作業も手作業です。収穫されたにらはまず100gごとにテープで縛って包丁で切ります。それ
を十派にして秤で1kgを測ってから袋詰めします。すべて手作業な上に再度黄色い葉が混じって
いないか人の目で確認ししています。
現在、葉物野菜類の飲食店納品は減っているのです。しかし、スーパーなど小売り、流通は増産要
請が出ている環境なので安定生産が求められています。現状のニラの市場価格は、冬場の価格が高く、
春から夏場は半値以下になります。「にら農家は、冬場の2ヶ月で稼いで、あとは、トントンか赤字
の経営といわれています。にら栽培の機械化によるコストダウンは必須の課題」なのだそうです。
是非茨城県自慢のにらをご賞味あれ!