ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

成虫で越冬する蝶

2015-01-26 08:33:47 | 日記





厳しい寒さが続いたために、しばらく散歩を敬遠していた夫婦。運動不足が気になり
始め、大寒が近いある日の昼食後、久し振りに近所の里山を歩くことにしました。
時折吹く風が冷たいものの、やはり太陽の光を浴びながら、ゆったりと散歩するのは
気持ちがいいものです。落葉樹の美しい幹の姿に見とれたり、モズらしき鳥を見つけ
て喜んだりしているうちに、妻が突然立ち止まりました。
常緑樹の葉の裏に何か気になるものがあるようです。

妻 :ネェ、これは何かしら?真っ白い蝶のようなものが葉の裏でジッと動かずに止
    まっているのよ。

夫 :どれどれ、ホントだ。真っ白だね。蛾か蝶のどちらかだろうけど、こんな真冬に
    成虫の姿で大丈夫なのかな?羽根を広げて見たいけど、そんなことをしたら
    カワイそうだよね。

妻 :去年、成虫の姿で越冬している「ホソミオツネントンボ」を初めて目撃したわよね。
    あの時はビックリしたけど、考えてみたら成虫で越冬する蝶がいても、おかしく
    ないんじゃないの?

夫 :そうだね。成虫で越冬するトンボはイトトンボの仲間の「越年(おつねん)トンボ」
    だけだって、あの時に教えてもらったね。これも面白そうだから写真を撮ってお
    こうよ。

それから数日後、月に一度だけ開催される「里山の観察会」に出席した夫婦は、雑木
林の中で落葉樹の冬芽の様々な形態を教わっていました。すると、参加者の一人が
「ホラ、あそこにウラギンシジミがいますよ。」と常緑樹の葉裏を指差しました。参加者
全員の眼が一斉に注がれたその先には、ほんの数日前、夫婦が目にしたあの真っ白
い蝶のようなものがいたのです。

妻 :アラッ、これは数日前に見たのと同じものよ。ウラギンシジミ・・・っていうんだ。

園長:それはシジミチョウの仲間で、成虫の姿で越冬する蝶なんですよ。

夫 :やはり、成虫の姿で越冬する蝶が存在するんですね。

園長:いますよ。モンシロチョウと同じ仲間のキチョウなんかもそうですね。成虫で越冬
    するのは、かつて南の方から渡ってきた蝶に多いようです。

植物観察会の進行を邪魔してはいけないと思い、それ以上の発言を控えていた二人でし
たが、観察会終了後に、先程、ウラギンシジミを見つけた女性との立ち話が始まりました。

女性:実は私、成虫で越冬する蝶に関心があって調べてみたんですよ。そしたら、蝶の
    仲間の1割ほどが成虫の姿で越冬するらしいんです。

夫 :そんなに多いのですか。知らなかったです。もう少し詳しく教えてくださいよ。

女性:日本にいる約270種の蝶の大半は「卵」「幼虫」「サナギ」で越冬します。でも、さっ
     きの「ウラギンシジミ」のような「成虫越冬型」が約1割いるそうですね。

夫 :成虫越冬型の蝶はオツネントンボのように特別な種類に限定されているのですか?

女性:キタテハ、テングチョウなどのタテハチョウ科の一部が半数以上を占めており、次
     いでムラサキシジミ、ウラギンシジミなどのシジミチョウ科の一部、そしてキタキ
     チョウ、ツマグロキチョウなどのシロチョウ科の一部が越冬します。このように科
     をまたいでいますので、特別な種類に限定されているわけではないようです。
     でも先程、園長先生が説明されたように、越冬するのはかつて暖かい南から来た
     ものが大部分だと考えると、科をまたがっている理由も納得できますね。
     それにしても、成虫の姿で冬を越すのはかなりのリスクがあると思いますよ。

妻 :そうですよね。

夫 :成虫で越冬するのは雌雄両方なんですか?

女性:その辺の観察記録も調べてみたのですが見つかりませんでした。冬眠前に交尾し
    て雄は死に、雌だけが卵を抱いて冬眠または休眠して、食料が手に入る春に産む
    のか、それとも雄雌共に冬眠または休眠して春に交尾してから卵を産むのか、ど
    ちらかでしょうね。私も確認したいんですよ。

妻 :ウラギンシジミは葉っぱの裏に止まっていたけど、他の蝶たちはどんなところで越
    冬しているのかしら?あまり見かけませんよね。

女性:私の田舎では薪ストーブを使っているのですが、積んである薪の束の間には色々
    な成虫越冬昆虫がいます。蝶たちもその中にいますよ。温度変化の少ない北側の
    場所が多いと思います。たぶん、越冬をする目的で、どこか遠くへ移動する種類は
    少ないと思いますよ。見つけにくいのは危険を避けているからでしょうね。

夫 :日本で唯一の渡り蝶である「アサギマダラ」は越冬という形を取らずに、渡りという移
    動方法で冬をやり過ごしているんですよね。

妻 :ところで、成虫の姿で越冬する蝶の寿命は秋から春の期間になるのですか?

女性:簡単に寿命といっても種によっても違いますし、同じ種でも成虫になる時期だとか、
    生息する地域によっても違いますよ。成虫の姿で寿命が長いのはテングチョウで
    す。6月頃に羽化して越冬し、翌年の春に卵を産むまで約1年間の間、成虫でい
    ます。普通のモンシロチョウなどは成虫でいるのは2~3週間で、1年に何度も世
    代交代を繰り返します。そして、北海道の大雪山に棲む高山蝶は夏が短いので、
    2年かけて成虫になるそうです。

夫 :いろいろと教えていただいて、ありがとうございました。

こうして、成虫の姿で越冬する蝶がいることを初めて知った夫婦。自然界で生命をつなぐ
手段は様々です。懸命に生き抜く昆虫たちの営みに気付くのも、散歩をする楽しみの一
つです。これから先、どんな出会いや発見が待っているのでしょう。今後の散歩では、観
察眼をどんどん磨いていくことになりそうですね。


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ウォーキング会の下見も楽じゃないぜ!

2015-01-19 08:33:21 | 日記



ある企業の定年退職者で構成するウォーキング会の幹事役が回ってきたメンバー
の二人。経験者の勢井さんと幹事初体験の孫さんはテーマを「日本橋周辺の歴史
散歩」に決めて、その下見をするために東京・日本橋の橋上で待ち合わせることに
しました。

勢井:ちょっと古いけど、今度の企画にぴったりのガイドブックを見つけましたよ。
    孫さんさえよかったら、この本にそって今日は歩いてみたいのですがどうで
    しょうか?

孫 :私は初めてなので、お任せします。今日の下見のポイントを教えてくださいよ。

勢井:参加人数はいつものように20名前後と考えましょう。ポイントは歩く時間、歩数、
    トイレの場所確認と集合写真の撮影適地を探し、食事処の予約といったところ
    です。

孫 :わかりました。歩数計と時計は持ってきましたよ。ところで街の案内はガイド協
    会の方に頼むのですか?詳しい人から学ぶのは勉強になりますからね。

勢井:いや、孫さんは歴史が大好きだと聞いていますので、今回のガイド役を引き受
    けていただけると嬉しいのですが。

孫 :エッ、僕にできるかな~。だけど、面白そうだからやってみようかな?このガイド
    ブックを参考にして、今日の下見で確認した建物や石碑などの説明をまとめた
    ガイド用の原稿を作ってみますよ。だけど、初めてなので補佐をお願いしますね。

持参したガイドブックには日本橋の北側ルートと南側ルートが記載されていますが、体
力的にも時間配分から言っても両方は無理なので、今回のウォーキング会は北側ルー
トのみに決めました。

勢井:集合場所は地下鉄のB6出口から地上に出た横にある乙姫広場にしましょうか。
    「日本橋魚市場発祥の地」の表示がありますね。スタートはこの日本橋の橋そ
    のものの解説からスタートですね。

孫 :日本橋は江戸開府とほぼ同時に架けられ、現在19代目なんです。この橋のそば
    には「日本国道路元標」、「日本橋魚河岸跡の石碑」がありますし、橋自体につ
    いては「花崗岩製の二連アーチのフォルム」「橋頭を飾る獅子と麒麟の像」を説明
    できますし、「運河巡りの観光船」などを紹介すれば、ここだけでも話どころが一
    杯ですよ。

勢井:いい調子です。原稿は必要なさそうですね。私はこの麒麟の像を見ると東野圭吾
    の推理小説「麒麟の翼」を、そして魚河岸跡の石碑では中村錦之助の映画「一心
    太助」が思い浮かびますよ。

孫 :いいですね。こんな役割分担でガイドをしましょうか。きっと喜ばれますよ。

二人は橋をあとにして、創業100年を超える老舗のお店が軒を並べる「むろまち小路」を
巡った後、中央通りを横断し、江戸桜通りに入って日本銀行の前に来ました。

勢井:日本銀行は事前予約すれば見学できるので私が予約をしておきます。ここは今
    回の目玉にしましょうね。ちょっと残念なんですが、向かいの貨幣博物館は今年
    の秋まで改修中で見学できないんですよ。そのあたりの説明だけはしておくとい
    いですね。

孫 :了解です。日本銀行の見学を終えたら12時になりそうですね。この辺りには食事
    をするところがないようですが、どうしますか?

勢井:中央通りまで戻るしかなさそうだな。戻って、再びここまで返って来るのは悔しい
    けど、周辺には見当たらないから、常盤橋の向こうまで探しに行きますか?

孫 :でも、ここで食事場所を探しに行けば、時間経過や歩数計の数値がむちゃくちゃに
    なってしまいます。それに直ぐには見つかりそうもありません。宿題として残しま
    しょうよ。「急いては事を仕損じる」と言いますからね。

勢井:座布団1枚! ハハハ、我々のことですね。「勢井ては孫する」ですか。うまいな。

二人はその後「3つの常盤橋」、「震災復興小学校として有名な常盤小学校」、昭和初
期の「近三ビル」を確認して中央通りに戻ってきました。

孫 :江戸城の常盤橋御門跡に続いている「めがね橋」が工事中なのは残念でした。
    コンクリート造りで公園が併設されている常盤小学校は関東大震災後の国の防
    災意識を強く感じさせる建物で、貴重なものなのですよ。

勢井:三越のある中央通りは昔から賑やかだったのでしょうね。

孫 :この辺りは「十軒店」と呼ばれ、5代将軍綱吉に招集された十人の雛人形師が店
   を構えた人形店街があったところです。そういえば、あそこにある長崎屋跡は将軍
   に拝謁するオランダ人の定宿だったところです。

勢井:ここにいると、シーボルトなどの一流の医師や蘭学者と交流していた解体新書の
    杉田玄白やエレキテルの平賀源内が行き来していた頃がイメージできますね。

二人はさらに「時の鐘通り」を歩き「ヘヤーサロンくぼた」の看板建築の傑作を見て、復
興小学校の一つである旧十思小学校に隣接する十思公園に着きました。

孫 :時の鐘通りには「石町・時の鐘撞き堂」がありましたが、その鐘はこの十思公園に
   移設されましたね。ここから「江戸伝馬町処刑場跡」の石碑が見えるでしょう。当時
   は広い敷地だったようで、安政の大獄(1859年)では吉田松蔭ら50余名が収容さ
   れていたんです。今年のNHKの大河ドラマにも登場することでしょう。

勢井:ウォーキングルートとしてはかなり、いいんじゃないですか。日本橋そのものに、
    日本橋三井タワーなどの最新のビル群と老舗の共存、関東大震災後の復興事業、
    昭和初期のビルディング建造物、さらに江戸時代の様子などが伺われる石碑の
    数々がある。私は「できた!」と思いますよ。

孫 :同感です。できましたね。今回は運河巡りの船には乗りませんが、次回はこの運
   河巡りと南側ルートのウォーキングを提案しましょうよ。

この日は約8,000歩。当日は日本銀行内を歩くので1万歩は超えるでしょう。しかし、今
回の下見では食事処が宿題として残ってしまいました。日本橋のど真ん中で20名以上
の人間がサラリーマンの昼食時間帯に、一堂に会して食べられる食事処を探さねばな
りません。難題が残りました。こうした企画は一回の下見で終わることは希です。
下見って楽じゃないんですよね。
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新年の初散歩

2015-01-12 08:28:44 | 日記





連日の冷たい寒風が少し収まった午後、新年になって初めての散歩に出かけた夫婦。
いつもの里山を歩こうとしたのですが、分かれ道で立ち止まっています。

夫 :右に向かう狭い道を歩いたことはまだ無いよね。今日はこの道を歩いてみようか?

妻 :そうね。どこに出るのか分からないけど、たまには冒険してみましょうよ。

夫婦は初めての道に足を踏み入れ、緩やかな登り坂を歩き始めました。しばらく登ると
峠らしい場所に出て、その先は下り道が続いています。( 結局、いつもの道に戻るんだ
ろうな)と思いつつ、めぼしい写真の被写体を探しながら、ゆっくりと下り始めました。

夫 :オヤ、あんなところに放置されて山の粗大ゴミ状態になっている家があるよ。こん
    なところに家を建てて、どうやって住んでいたんだろうね。

妻 :日常生活が大変そうで、私だったらこんな所には住めないわ。ボロボロの家には興
    味がないから先に行くわよ。

夫 :僕はなんとなく気になるから、ちょっと覗いてみるよ。

その家に近づいた夫は、外からソッと中を覗きました。柱と屋根はかろうじて残っている
ものの、入口や窓には外気を遮る戸やガラスなどはなく、木枠だけの障子や畳は雨風
にさらされ、見る影もありません。床下がむき出しになっている部屋もあります。
それでも、各部屋には照明器具がぶら下がり、食器類が残されていることから、かつて
はこの家にも一家団らんの時があったことを想像させる余韻が残っていました。

夫 :これは昭和時代の建物だろうな。オッ、五右衛門風呂があるじゃないか。懐かしい
   な。40年以上も昔、妻の実家でフタの使い方を教えてもらいながら、五右衛門風
   呂に初めて入ったけど、その時の感触が蘇ってきたぞ。お湯の上に浮かんでいる
   木のフタの中心に、狙いを定めて足を置き、少しずつ体重をかけてズブズブッと押
   し込んで体を沈ませて行った時の愉快な気分は今でも忘れない。新鮮な体験だっ
   たな。 あれっ!火鉢とチャブ台もあるぞ。そういえば妻のお婆ちゃんと火鉢を囲ん
   で、おしゃべりをしながら餅を焼いて食べたな~。アァ、亡くなってしまった妻の両
   親やお婆ちゃんの顔が鮮明に思い出されてきたぞ。
   私を受け入れてくれた人たちだ。これはいかん、涙がこぼれてきた。
   この家にはもっと何かがあるかもしれない。中に入ってみよう。誰もいないけど、挨
   拶だけはしておこう。「おじゃましま~す」。 オット、転んだ!イテテテテ・・・
              ・
              ・
イチ :痛い!痛いぞ!アレ~、ここはどこだ?あの人は健太のお婆ちゃんじゃないか。
    どうして?

婆さん:おや、イッちゃん、いらっしゃい。そんなところでひっくり返って、どうしたんだい?
     健太は庭でベーゴマの練習をしているよ。そうだ、お餅を焼いてあげよう。好き
     だろ。

イチ :ありがとう。ねえ、聞いてもいい?お婆さんは、とうの昔に亡くなったんじゃなかっ
    たっけ。健太が泣きながら俺のところに来たのを覚えているんだ。

婆さん:何を言ってんだい。ワタシャ、ホレ、ご覧の通りピンピンしているよ。おや、こんな
     時間だ。相撲が始まっているよ。ラジオをつけなくちゃ。今日は若乃花と栃錦の
     優勝決定戦だから聞き逃すわけにはいかないよ。

イチ :そういえば、健太とよく相撲をしたな~。「ハッキョイ、残った、残った」って。

婆さん:だから、「ハッキョイ」じゃなくて「ハッケヨイ」なんだって教えたろ?

イチ :ウン、教えてもらったけど、僕たちの間では「ハッキョイ」で通したんだよ。
    ネェお婆さん、あの柱のキズを僕は知っているんだけど、どうしてなんだろう?

婆さん:いやだね、イッちゃん。あんたと健太が背丈を記録する為に小刀で削った跡じゃ
     ないか。うちの大黒柱に大きな傷をつけたからといって、この間、イッちゃんが
     ご両親と一緒に謝りに来たのを忘れたのかい?
     私より先にボケちゃダメじゃないか。

イチ :いや、なんだか、う~んと昔のことのような気がするんだ。変な気分だな。

婆さん:このチャブ台の傷も、あんたがつけたんだよ。あの時は肝を冷やしたね。健太と
     一緒に工作をしていて、ナイフで指を切ってさ。ワタシャ、指を切り落としたんじゃ
     ないかと思って腰を抜かしそうだったよ。あの時の痛さは覚えているだろう?

イチ :痛みはとっくに忘れたけど、その時の傷跡は今でも残っているよ。それもやっぱ
    り、すご~く昔の話のような気がするな。

婆さん:今日のあんたはチョット変だね。まあいいか。あんたたちが大好きな五右衛門
     風呂を沸かしてあげるから、後でゆっくり入っていきなさいよ。

健太 :イッちゃんじゃないか。いつ来たの?また、ベーゴマの勝負に来たのかい?
     今度は負けないぜ。秘密の特訓をしたからな。

イチ :ウ~ン、どうしてここに居るのか?何しに来たのか?全くわからないんだよ。
    僕はどうして、ここにいるのかな~。

健太:何を言ってんだい。今日のイッちゃん、ちょっと変だな。今、お婆ちゃんがお汁粉
    を作ってくれているんだ。一緒に食べようよ。お餅入りだぞ。

イチ :大好きだから食べたいけど、僕は今どうなっているの?子供なの?大人なの?
    それさえ判らないよ。でも、健太のこの家は覚えているよ。一体どうなっているん
    だ?

健太:ほら、お汁粉ができたぞ。熱いからゆっくり食べような。

イチ :ウン、分かった。頂きま~す。熱い!・・・イテテテテ!
              ・    
              ・
夫 :痛い!痛いな~。転んじゃったよ。
   今、幼馴染みの健太と彼のお婆ちゃんに会ったような気がするぞ。どうしちゃった
   んだろう?それはそうと、ぶつけた膝が痛いのなんのって・・・トホホ。

妻 :ちょっと~、何してるの?あんまり遅いから戻ってきたわよ。こんなボロい家には
   見るものなんてないでしょ。アラッ、五右衛門風呂があるじゃない。形は違うけど、
   実家にもあったのよ。懐かしいわ。

夫 :火鉢やチャブ台もあるんだぜ。健太たちの話は内緒にしておこうっと。

妻 :何か言った?ネェ、あっちに冬枯れの渋い景色が広がってるのよ。早く行きましょ。

夫 :次にここへ来るまで、この廃墟風の家が残っていて欲しいな。
   「廃墟ぃ(ハッキョイ)残った、残った!」ってね。
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お姉さま事件です! <お正月編>

2015-01-05 08:25:36 | 日記



第1話 年賀状

 妹 :お姉さま、お正月早々、事件、事件!
    お母さんが「あなた宛よ。」と渡してくれた年賀状の中に、お姉さま宛のもの
    が一枚入っていたの。本文がチラッと見えちゃったんだけど、「性が変わりま
    した」って書いてあったのよ。事件でしょ。この方、男になったの?

 姉 :何を馬鹿なことを言ってるの。あら、秋に結婚した佳代子からだわ。
    フフフ、相変わらずオッチョコチョイね。「姓」と「性」を書き間違えたんだわ。
    でも、本当だったら事件よね。今年一番の傑作年賀状かもね。
    この人、どことなくあなたに似ているのよ。

 妹 :私を引き合いに出さないでくれる?今年から私、「物事は落ち着いて、よく考
    えてから行動する」を座右の銘にするんだからね。

 姉 :フ~ン、ちゃんと実行できるのかな~?あなたも年賀状に間違った字を書かな
    かったかどうか、思い返してごらんなさいな。

 妹 :大丈夫よ。辞書でしっかりと確認しながら書いたから、バッチリよ。

 姉 :そういえば、あなた、年賀状が足りなくなって、私の分を何枚か持っていった
    わよね。まだ差出人の欄を記入していなかったから、あなたにあげたんだけど、
    投函する前にちゃんと自分自身で差出人欄を記入したの?

 妹 :エッ、そうだったっけ。ウ~ン、書いたと思うけど、思い出せないわ。どうしよう。

 姉 :差出人の名前が書いてなかったら、誰から来たのかわからないじゃないの。

 妹 :どうしよう。お姉さんが描いたイラストの横にメッセージを書き添えたから、その
    内容で私からの年賀状だと分かってくれると思うんだけどな。ア~ァ、心配だ。

 姉 :「よく考えてから行動」と言ったけど、今年も相変わらずかもね。

 妹 :ムムッ、痛いところをついてきたナ。でも、年賀状を出したのは、去年だからさ・・・・


第2話  初詣

 妹 :お姉さま、事件です!すごい人出ね。こんなに混んでいるとは思わなかったわ。
    鳥居からこんなに離れた所に並んでいたんじゃ、お参りまでに1時間近くかかっ
    ちゃう。お友達と私の家で会う約束をしているのに、遅刻しちゃいそうよ。
    <このまま待つか?今日は諦めて帰るか?それが問題だ。>

 姉 :こんなところで<ハムレット>なんか、やってんじゃないわよ。答えはひとつ。
    お友達との約束は守らなくちゃダメ。今日は歩いてきたから、家に戻るのに
     30分はかかるのよ。あなたの分までお祈りしておくから、直ぐに帰りなさい。

 妹 :分かった。それじゃ~、お願いします。私は戻るわね。

 姉 :あなたのお賽銭は?

 妹 :お賽銭?そういえば、まだお姉さまからお年玉をもらっていなかったわね。
     だから、お金は持っていないの。ここでお年玉をチョーダイ・・マセマセ~。

 姉 :今度は<さだまさし>?あきれた子ね。私に出させるつもりで、始めからお金
     を持ってきてないんでしょ。魂胆、丸見えよ。

 妹 :見すかされちゃったか。スミマセン、いつも頼りになるのはお姉さまだけなので
     す。今年も、ど~か、よろしくお願い申し上げます。

 姉 :あなたの要領の良さだけは今年、更に磨きがかかりそうね。ウカウカできないわ。
    用心、用心。
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