

昔、布教と修行のため、托鉢をしながら全国を行脚している六人の僧がおりました。
ある日のこと、急に周囲が暗くなり、叩きつけるような雨が降り出しました。
雨宿りをする場所を探しながら歩を速めようとした途端、ピカッ!ドカ~ン!
あまりの衝撃に、耳を塞いで地面にしゃがみました。
ところが、その後はカミナリの光も音もせず、深い霧が立ち込めているではありませ
んか。
一の僧:いつの間に、こんな霧の中に迷い込んでしまったのだろう?
二の僧:全く何も見えないな。それに頭の中がボヤ~ンとしているぞ。
三の僧:おや?少しずつ霧が晴れてきた。目の前にあるのは橋のようじゃな。
四の僧:それも立派な橋だ。なんとなく見覚えのある景色だが、勘違いかな?
五の僧:ワシにも見覚えがある。もしかしたら江戸ではござらぬか?
六の僧:江戸じゃと!人っこ一人おらぬではないか。お江戸であるはずがない。
五の僧:シッ、向こうの辻で人の気配がする。取り敢えず身を隠したほうが良さそうだ。
六人の僧が橋から一番近いところにある家の軒下に滑り込んだ時、タッタッタと駆け足
で数人の子供たちがやってきて、橋の上でおしゃべりを始めました。
子供A:この橋は日本橋っていう名前なんだってね。
子供B:そうだよ。ドラマの「水戸黄門」や「仁」で見たことがあるだろ?
子供A:うん、あるよ。♪ お江戸日本橋 七ツ立ち~ ♪ の日本橋だよね。
子供C:岸辺につないである、あのお舟に乗ってみたいな。
子供B:ダメだよ。撮影用なんだから。ここは見て楽しむだけの場所だよ。
子供C:ああ、そうだったね。
四の僧:あの子たち、日本橋と言わなかったか?
五の僧:確かにそう言った。やはり、ここはお江戸でござるぞ。
二の僧:しかし、あの子たちの着物は変だな。履物も背中の袋も見たことがない形の
ものだ。
六の僧:話の内容も理解しがたいし、どうも様子がおかしいぞ。
その時です。三の僧が被っていた笠が風に煽られて、橋の方へ飛ばされてしまったの
です。
子供D:アレッ!何か、飛んできたよ。これって、時代劇で見たことがあるよね。
子供B:ウン。ネェ、あそこを見てごらん。あの家の陰で黒いモノがヒラヒラしているよ。
子供A:ホントだ。何だろう?
子供たちは興味津々な面持ちで、僧たちが隠れている場所にやって来ました。
子供A:なんだ、お坊さんじゃないですか。コンニチワ!
一の僧:コ、コ、コンニチワで、ござる。
子供C:今日は撮影?なんていうドラマなの?
二の僧:サツエイ・・・ドラマ・・・???
子供B:リハーサルは終わったの?衣装がすっかり板についてるね。
三の僧:リハーサル・・・どうも、言っていることが理解できぬな。
子供D:時間があるなら、僕たちと一緒にお城に行こうよ。皆で写真を撮りたいな。
四の僧:シャシン?よくわからないけど、行ってみるとするか。
五の僧:オ~、城だ!しかし、お堀がいささか狭いようじゃな。
子供B:ゼイタクを言っちゃあイケナイね。ここは「ワープステーション江戸」だよ。
ロケ用に作った建物なんだから。
六の僧:ロケヨウ???ワシ等の知らない言葉がどんどん出てきて、意味がわからん。
六人の僧たちはひとかたまりになって相談しました。
そして、この子たちと行動を共にしながら、状況を把握することにしたのです。
子供B:ネェ、お坊さんたちは俳優さんではないんじゃないの?
六の僧:ハイユウ?またしても意味がわからないけど、ワシ等は本物の僧じゃよ。
子供A:エ~ッ、本物のお坊さんなの?だったら何をするために、ここへ来たの?見学?
五の僧:それがな、ものすごいカミナリの光と音がしたことは覚えておるのじゃが、その
あとの記憶が無くて、気付いたら、さっきの橋のたもとに立っておったのじゃ。
子供C:ヘ~、ちょっとしたミステリーだね。
子供B:お坊さんたちは大人なのにロケとか、リハーサルとかドラマっていうのが理解で
きないようだね。もしかしたら、現代人ではないのと違う?
四の僧:現代人?どういうことじゃ?
子供B:今は平成26年、2014年だよ。
一の僧:ヘイセイって何だ?
子供C:平成を知らないの?やっぱり変だ。もしかしたら、時空間を飛び越えちゃった
の?
子供B:まるで「仁」の世界みたいだな。そうだとしたら、急がなくっちゃ。
三の僧:何を急ぐのかな?
子供D:早く元の時代に戻る方法を考えなきゃいけないんだよ。
四の僧:一体、どうすれば良いのかな?
子供B:困ったな。僕にもどうすればいいのか、わかんないよ~。
さあ、困りましたね。六人の僧は無事に元の時空間に戻ることができるのでしょうか。
この続きは、また後日。