ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

一面真っ白なソバ畑の中に、一輪の真っ赤なバレーシューズ

2020-10-19 07:44:06 | 日記

国内で消費されるソバの内、約7割が外国産で残りの約3割が国産です。やっぱり国産は

貴重なのだと感じますね。国産ソバは国内のどこでも栽培されていますが、国産3割の

で北海道がその42%でダントツ1位、2位は茨城県で7.3% 3位は長野県で6.9%と続き

ます。

 

私の住むソバどころ茨城県で生産しているのはほとんどが「常陸秋そば」という品種で

す。ソバは他家受粉植物のため品種の交雑が起こりやすいので、常陸秋そばの品種を守

るためには、近くで他の品種を栽培することはご法度です。ですから、私が散歩道で見

ている大きなソバ畑は全て「常陸秋そば」なのです。今は大きな白いじゅうたんのよう

に見えるソバの花畑(花びらに見えるが実はガク片)ですが、結実は順調に進んでおり

11月上旬にはソバの実の収穫が始まります。常陸秋そばは芳醇な香りとほんのり甘さを

感じる豊かな味わいが特徴です。

 

<常陸秋そばの受粉>

栽培種としてのソバは「普通ソバ(普通種)」と「ダッタンソバ(ダッタン種)」に大

別されますが常陸秋そばは前者に属します。普通種の花は長柱花と短柱花の2種類が存

在します。長柱花とはメシベが長くオシベが短い。逆に短柱花とはメシベが短くオシベ

が長い花をいいます。長柱花と短柱花の比率は半々です。よって、そば畑一面に広がる

そばの花の半分は長柱花、残り半分は短柱花ということです。結実のためには花の構造

の違いだけにとどまらず、受粉の方法も大きな関係をもっています。通常の作物が1種

で受粉を行って結実するのに対し、そばはこの2種を昆虫などによって受粉させる、

「適法受粉(同じ型の花からの花粉を受け取らないが、異なる型の花の花粉を受け取る

仕組み)」という方法でなければ結実できない仕組みになっているのです。花粉の運搬

は昆虫や風に頼ることになりますので、気候などによってその受粉率が大きく左右され

ます。さらに、結実するための受粉の組み合わせが限られるため、そばの受粉率は花の

2割以下とかなり低いです。開花時に訪れる昆虫が少ない場合は、受粉しない、いわゆる

「無駄花」が多くなり、収穫量に大きく影響しますから、蝶や蜂などの昆虫が多く集ま

る環境づくりがとても大切なのです。

 

<常陸秋そばの結実>

常陸秋そばの花が受粉すると、まず薄緑色の三角形の、ぺしゃんこの形(乳熟期の外果

皮という)ができます。そしてしだいに、この中に乳白色の中身が形成されていくので

すが、この外果皮の色は薄緑色です。しかし稀に真っ赤なものが1万本とか10万本に1本

くらいの割合で出ることがあります。この赤い外果皮を文学的には「とうろう(灯籠)」

「ちょうちん(提灯)」と呼んだりするとの記述もありましたが、私は初めて見た時の

視覚の印象から、ここでは「赤いバレーシューズ」と呼ぶことにします。直感的に可愛

らしい赤いバレーシューズに見えたのです。結実して熟した実は、茶褐色から黒色の外

皮色になりますから、こうなると区別はつきにくいです。

 

<赤いバレーシューズとの出会い>

私が初めて「赤いバレーシューズ」を見たのは過去に1回だけです。岐阜県在住当時にド

ライブした信州のソバ畑で偶然に見つけました。見つけた時は上述した知識を持ってい

ませんでしたので、希少価値だとは知らずに、ただきれいだ、可愛い、バレーシューズ

のようだなと思いながら写真を撮っていました。その時も丹念に他にもないかと周りを

見回して、探しましたが見つけられず、見つけたのは写真に残した1本の茎だけでした。

その時に写した写真の出来栄えが良く、我が家の写真コレクションのトップ5に今でも

入っています。この時の印象が強烈に残っているために、そば生産地である茨城県に転

居してからも、もう一度あの「赤いバレーシューズ」を見つけたいと思い続けていて、

ソバの実ができ始める時期になると、ソバ畑を丹念に探し回っていました。しかし、

10年以上見つけることができないで今日に至りました。当然ですよね。広いソバ畑があ

っても、私が探せるのは道路際から見られる範囲内なのですから。1万本とか10万本に

1本しか見つからないものが目に留まるのは奇跡としかいいようがありません。ソバ畑

の中に入って探し回ったら叱られてしまいますしね。

 

<赤いバレーシューズとの奇跡の再会>

先週、その「赤いバレーシューズ」を常陸秋そばの真っ白な花のソバ畑の中で見つけま

した。

奇跡です!ラッキー!うれしい!

ソバの実になるための成長過程である乳熟期は短いです。今回見つけたのは乳熟期の後

半のようで、写真の構図を考えるといまいちの姿、形、数の感がありますが、見つけた

だけでも奇跡的な出来事です。これ以上の贅沢は言っちゃあいけません。よくぞ道路際

に出てきてくれたと感謝しなければいけません。

 

<調べて分かった後日談>

旧長野県中信農業試験場(現野菜花き試験場)で開発され、平成21年度に農水省の農林

認定品種に指定された、「タチアカネ」という希少な新品種があります。現在、長野県

の青木村だけで限定栽培されています。名前の由来は茎が太くて栽培中に倒れにくいこ

とから「タチ」、茜色の花が実るので「アカネ」、合わせてタチアカネです。 そばの白

い花と赤い外果皮が特徴で、写真で見ると姿、形が常陸秋そばの「赤いバレーシューズ」

とそっくりです。ここがポイント。なんとほとんど(90%以上)が真っ赤なバレーシュ

ーズになるのです。熟した実は、茶褐色から黒色の外皮色になりますので区別はつきに

くくなります。

お蕎麦としての風味は「さわやかな香り」と「ほのかな甘み」が特徴です。もともとは

現在の佐久市で収集した在来種の個体選抜、系統選抜により育成した、といいます。長

野県内に広く普及している信濃1号の変化型、とも見なされるようです。栽培実験を重

ね、ようやく品種登録が出来たもので、これから普及がはかられるはずです。

 

実はこうした真っ赤な実は、信大で開発された「高嶺ルビー」という赤花ソバでも見る

ことが出来ます。でも私は赤い花の中の赤い実より、白い花の中で赤い実がぎっしりと

並ぶ光景は、すごく刺激的であり、衝撃的だなと思います。

 

言いたいのは、この珍しい赤いバレーシューズを見たかったら、青木村に行けば探さな

いでも必ず見つかることを知ったということです。これは新知見です。コロナ禍が静ま

ったら、景観も含めて、じっくりとタチアカネが咲き誇る現地に行きたいと思っています。

 

 

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雲に乗った「カエル」

2020-10-05 07:42:06 | 日記

 

大きな池に冒険好きな小さなカエルが住んでいます。彼が夢中になっている遊びは木の葉

に乗って、風に押されながらの池めぐりです。木の葉への乗り方にはこだわりがあります。

水面に長く突き出している枝を見つけ、その枝先の葉まで移動します。そして、大きく息

を吸い込み、体を大きく膨らませてから、枝先をゆっくり二度、三度と揺らして反動一番、

手足を大きく広げて、水面に浮かぶ葉っぱに向かって飛び込むのです。葉を沈まらせずに

柔らかく着地できたら成功です。体を膨らませることで空中に長く浮かんでいられて、柔ら

かく着地に成功する確率が上がると実感しています。今日も大きな葉っぱが、眼下の水面に

流れてくるのを枝先の葉の上でジッと待っています。すると、水面に大きなフアフアとした

白い塊が現れました。

 

「これは何だ。葉っぱも面白いけれど、これは葉っぱよりもフアフアとしていて、飛び移っ

 た時に優しく受け止めてくれそうだな」

 

そこで、いつもの要領で白い塊に向かって反動一番飛び込みました。しかしどうしたことで

しょう、水の中にポチャンと沈んでしまいました。なぜ着地できないのか理解できません。

その後も挑戦しましたが失敗ばかりです。水面に見える白い塊はカエルに挑戦を促すように

動かないでその場で留まっています。カエルは悔しくて仕方ありません。

 

「葉っぱの上ならちゃんと飛び移れるのに、あの白い塊の上には着地できないで、すり抜け

 てしまう。これ以上同じことを繰り返しても飛び移ることはできないな」

 

カエルは腕を組んで考え込んでしまいました。そしてふっと空を見上げると、水面に見える

白い塊と同じものが浮かんでいるのが見えました。

 

「分かったぞ、白い塊は空にある雲だ。水面に見えているのはあの白い雲の影だな。そうい

 えば枝先の葉が重なっていて、その影が水面に映っていたのを、大きな木の葉だと間違え

 てポチャンと沈んだことがあったな。あれと同じだ。」

「ということは、あの雲に乗らなければフアフアした感じを体感できないんだな。よ~し、

 この池にある一番大きい木に登って、てっぺんまでいこう。あの白い雲が繋がっているか

 もしれないぞ」

 

こうして小さなカエルは池の周りを見渡して、一番背の高い木を見つけて登り始めました。

 

「木登りは得意だから、どんなところでも大丈夫だけど、こんな高い木のてっぺんには行っ

 たことがないな。どんな場所なのだろう」

 

小さなカエルはどんどん木を登って行きました。でも、登れども、登れども、なかなかてっ

ぺんには行きつけません。でも、そんな努力が実を結ぶ時が来ました。

 

「やったぞ!青空が見えてきた。もうすぐてっぺんだ。頑張ろう。」

「てっぺんに着いたぞ。これ以上は枝がない。おかしいぞ、白い雲と繋がっていないじゃ

 ないか」

「あっ、見つけた。白い雲はもっと上だ。でもこれ以上は上に行けないぞ。どうしたらい

 いのだ。」

 

カエルは高い木のてっぺんまで登ってきましたが、そこで立ち往生してしまいました。そ

れでも何とか空に浮かぶ白い雲にたどり着く方法はないかと一生懸命考えました。

 

「そうか、僕の体が浮かべば、あの白い雲まで運んでくれるかもしれないな。どうしたら、

 浮かぶことができるようになるのかな」

「そうだ、空気をいっぱい吸って大きくお腹を膨らませ、手足を大きく広げるのだ。ここ

 は高い木のてっぺんだから、池の近くとは違って風の流れに乗れて浮き上がって、あの

 フアフアした白い雲まで連れて行ってくれるにちがいない」

「白い雲に上がれたら、これまで経験をしたことがない大冒険ができるぞ」

 

小さなカエルは大きく息を吸い込んでお腹を膨らまし始めました。そして、苦しくても、

どんなに苦しくても空気を吸い込み続けました。とうとう、カエルの執念が実を結びま

した。お腹が体以上に大きく膨らみ、ちょうど地上から吹き上げてきた風に乗って体が

フアっと浮き上り、白い雲に向かって上がり始めたのです。

 

「やったぞ、このまま上に浮かんで行けば、あそこに見える白い雲に着けるぞ。もっと

 お腹を膨らまそう」

 

風に乗ったカエルの体は、ドンドン白い雲に近づいていきます。そして、とうとう白い

雲に到着し、カエルは白い雲によじ登ることができたのです。

 

「やったぞ。本当にフアフアしている。気持ちがいいな!それに雲の上から見える景色

 は、これまでに見たことがない別世界だ。素晴らしい。池から見えていたあの高い山

 が下に見えるぞ」

「これから大冒険の始まりだ。知らないことをいっぱい見て、仲間たちに教えてあげよう」

 

小さなカエルは雲の上で大はしゃぎです。だが、残念ながら楽しい時間は瞬く間に過ぎて

いきます。時が経つとカエルはお腹が空いて家に帰りたくなりました。雲の隙間から下を

見ると自分が暮らしていた大きな池がとても小さく見えます。今いる場所はこれまでに体

験したことがない高さです。うまく池の中に飛び込める自信がありません。失敗すれば固

い地面に叩きつけられてしまいます。早く家に帰りたい気持ちと、怖くて飛び降りること

ができない恐怖が同時に襲ってきました。カエルは我慢ができずに、とうとう泣き出して

しまいました。

 

「家に帰りたいよ! お腹も空いたよ!」ケロ、ケロ、ケロ~ン!

 

カエルが流した大粒の涙が白い雲の上に落ちました。雲はカエルの涙がかかるたびに黒く

濃く変色して広がっていきました。泣くだけ泣いて、泣きはらして、とうとう涙が枯れ果

てたカエルは、急にお腹が空いてきました。食べ物はないかと見回しましたが、周りは黒

く変色した雲だけです。仕方がありません、手元の黒い雲をちぎって少しだけ口に入れま

した。たっぷりとした湿り気があって、森の香りも感じます。これならいっぱい食べれば

お腹の足しになりそうです。カエルは夢中になって食べ始めました。すると、食べるたびに、

一度は涙が枯れ果てた目から、新しいきれいな涙がとめどもなく出始め、その涙は地上に向

かって雨となって落ち始めました。

 

このお話が起源となって、雲に乗って雨を降らせた、この小さなカエルを「アマガエル」と

名付け、そして雨を降らせた黒い雲を「雨雲」と呼ぶようになったということです。

 

信じるか否かはあなたさまのお心しだいですよ。

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