筑波山麓にある桜川市真壁は良質な御影石が産出される石材の里で、土蔵などが残る風情豊か
なところだ。寒い中、真壁に来てくれた人をもてなそうと始まった「真壁のひなまつり」は
今年、第14回を迎える一大イベントで、160軒を越える家が自前の雛人形を飾り、間近で見せ
てくれる。展示されるひな人形は江戸時代から現代までのものや石で作った変り種などで、来
訪者を飽きさせない。パンフレットには「いばらきの里蔵都(リゾート)桜川市」と紹介され
ていた。うまいキャッチフレーズだ。
夫: 先日、「石の芽」のブログの中で御影石の産地として真壁の町に触れたけど、こんなに
早くここに来るとは思わなかったよ。ブログに書いたことで呼ばれたのかな?
妻: それはどうかしら?車でこの街に入ってから、たくさんの石材店を目にしたわね。周り
の山肌には削られている箇所が見受けられるから、今でも採掘しているみたいよ。
夫: 筑波山・加波山周辺で採掘されている御影石は「真壁石」というブランド名で市場に出
ているんだってさ。機会があれば採掘現場の近くに行ってみたいね。
妻: 会場への駐車場案内が出ているわよ。2012年に来た時は東日本大震災による被害で、崩
れた蔵の壁や屋根が目立っていたけど、今はどのくらい復興しているのかな?
ひなまつり会場となっているエリアを散策し始めた二人。蔵の復旧は進んでいたが、白い土壁
が木の壁に変わっているところがあり、修復にかかる費用の多大なことや職人さん不足などが
理由かもしれないと思った。平日なので混雑はなく、ゆっくりとひな飾りを観賞できそうだ。
妻: これは江戸時代のお雛様ですってよ。ひな飾りの風習は江戸時代からあったということね。
ただ愛らしいだけじゃなくて、女の子の健やかな成長を願う親の思いが伝統の儀式となっ
て今日まで続いていることを改めて実感するわ。
夫: ひな祭りは室町時代に紙で作った人形を川に流した「流し雛」が始まりで、戦国時代にな
って人形を作る技術が確立し、流すのはもったいないからと飾るようになったらしい。
江戸時代になって3月3日の桃の節句、5月5日の端午の節句が決まってから、今のひな壇
飾りが定着したそうだ。つるし雛は、ひな壇飾りが庶民には高価で高嶺の花だったことか
ら、江戸後期に庶民の知恵として生まれたと聞いた事があるよ。
会場地図を片手に、一軒一軒、丁寧にひな飾りを見てまわっている二人に、ひな壇を飾る店舗
では、そこのご主人たちがいろいろと説明をしてくださった。
主人A: ここに飾ってある左右2セットのお雛様ですが、左側が京雛です。男雛は公家さんの
衣装で刀を差さず、頭には烏帽子を被っています。一方、右側は江戸雛で男雛は殿様。
武士ですから刀を差しています。大きな違いですね。
主人B: これはお雛様が屏風の前ではなく、御殿の中に座っています。御殿飾り雛といいます。
主に関西を中心に江戸末期から昭和の初期まで飾られていました。京都の御所を模し
たものでしょうね。今では、ほとんど作られなくなった形式です。
主人C: 関東では、男雛が右(向かって左)。これは右が上位という考えなんですね。
「(私の)右腕」「右に出るものはいない」「左遷(位を下げる)」など、今もその
考えが残っています。体の左側に差している刀を抜くときに右側に誰かが座っている
と不都合ですしね。関西では逆に男雛が左(向かって右)です。これは公家さんの立
ち位置に合わせていると聞きました。でも今では、どちらでも良いようですよ。
こうして回っているうちに、明治初期の内裏雛を含め3世代のひな人形が飾られている店の女主人
とお話をする機会がありました。
妻: 以前、訪れた時には浄瑠璃人形が飾ってあったと思うのですが・・・
女主人:あれは着物が日焼けしてしまいまして、今年は飾っていないのです。こちらにある初・
茶々・江の3姫の人形はペットボトルを利用した私の作品です。
夫: 素敵ですね。人形浄瑠璃は真壁の街とつながりがあるのですか?
女主人: この家の裏にある真壁伝承館で人形浄瑠璃の公演をやっています。かつて真壁は人形
浄瑠璃が盛んでしたが戦争の影響で、すたれてしまいました。それが文化庁の支援を
得る事が出来て復活したのです。今年で10回目の公演です。私は浄瑠璃人形も作りま
すが、ペットボトルと粘土を使った人形作りを小学校で教えています。
真壁に人形浄瑠璃が復活したのが嬉しくて、お人形とその衣装作りでお手伝いをして
います。
夫: それは素晴らしい!
女主人: 人形浄瑠璃は東京でも千代田区の国立劇場で定期公演されていますよ。真壁も伝承館が
できて復活に弾みがつきました。来月、3月13日(日)に行なう定期公演の案内チラシ
を差し上げますから、是非見に来てくださいね。小学生も「こども三番叟」を演じま
すよ。
妻: 「太夫の語り」「三味線」「三人で操る人形の動き」が一体となるのだとか。
女主人: そうです。今回の公演には一流の人たちも出演するので、見ごたえがありますよ。
夫: 一旦途絶えたものを復活させた真壁町の方たちの想いには感動しますね。
妻: 真壁といえば「石」と「ひなまつり」しか思い浮かばなかったけど、これからは「人形浄
瑠璃」を付け加えなくちゃ。
女主人: 嬉しいですね。今年の公演日は筑波山の梅祭りと重なるので素敵な一日になりますよ。
お待ちしています。ところで、真壁は「すいとん」も名物なんですよ。各店舗が工夫
を凝らしていますから、ぜひ召し上がってみてくださいね。
地方の街で、伝統芸能の復活と継承に尽力しているグループがあることを知り、お内裏様とお雛
様の座り位置やいでたちについても教わり、思わぬ知識の拾い物をさせていただいた「真壁のひ
なまつり」だった。それにしても、地元の皆さんは説明がお上手!