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秋はまだもう少し先・・・と思っていたら、家の近所で赤トンボに出会いました。赤トン
ボを見かけると「あ~、秋がやってきたなぁ」って感じます。
そう言えば、今年7月10日のNHKニュースで「赤トンボがどうして赤くなるのかが解明さ
れた」という産総研(産業技術総合研究所・つくば市)の研究発表が流れました。
そこで私は興味をもち発表された産総研のデータを読み直しました。
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<赤トンボは酸化還元反応により赤くなるという産総研発表データーの抜粋>
(1)特定の色素の酸化還元状態の変化という、動物体色の制御機構を新たに発見。
赤トンボから抽出した色素は酸化剤や還元剤を添加すると、酸化剤によって黄色
へ、還元剤によって赤色へと可逆的に変化した。
さらに、生きている赤トンボに還元剤であるアスコルビン酸(ビタミンC)を注入
したところ、未成熟オスだけでなく成熟メスも、成熟オスのような赤い体色に変化
した。そして、還元型オモクローム系色素含量を測定した結果、成熟オスだけ顕著
に高かった。
これらの結果から、赤トンボの黄色から赤色への体色変化は、オモクローム系色
素が還元型に変化することが主要な原因であることがわかった。
(2)生物の体色だけでなく抗酸化状態を維持するしくみの解明にも期待
赤くなったトンボは細胞内が抗酸化状態となっており、標本にした赤トンボでも
かなりの期間にわたって赤色が保たれることから、色素の還元型の状態を維持
する何らかの機構をもっているものと思われる。
<私的考察>
1.赤トンボの体色変化メカニズムが見つかった。
レポートに「従来、多くの赤トンボ類でオスだけが赤くなるのは、婚姻色とし
て性的に成熟したオスの識別やアピールに機能をもつと考えられてきたが、オス
の赤トンボが日の当たる場所に留まって縄張りをつくる際に、紫外線による酸化
ストレスを軽減するという別の機能も考えられる」と書かれていました。
確かにアピールだけなら抗酸化状態にする意味は薄いと思いますので、紫外線
から体を守るために抗酸化状態にするという推測は理解できますね。
2.抗酸化状態を永く維持する仕組みの解明が待たれる。
「還元型の状態を維持する何らかの機能があるのではないか」という推測が
解明されるとその応用は広いと思います。
私たちはストレスや紫外線などの影響により、体内で活性酸素種(Reactive
Oxygen Species)が過剰に産生され、老化、細胞死、生活習慣病、がんなど
の様々な要因となります。
この過剰活性酸素から防御するには体を抗酸化状態に維持することが大切で
す。投与や塗り込まれた抗酸化製剤が体内で分解されたり、不活性化されな
いで、長期間有効に働くようになると、効果の向上や副作用の抑制などに役
立つでしょう。
3.オモクローム系色素について。
オモクローム自体は昆虫の体表や翅、眼などに見られる茶、紫、赤の色素
であり、すでに知られている既知物質です。節足動物以外に軟体動物にも存
在します。
今回見つかった色素はオモクローム系色素の中のキサントマチン
(Xanthommatin)という黄色から茶色までの変化を担う物質です。
オモクローム系色素はアミノ酸の一種であるトリプトファンから合成され、
中間体「3-ヒドロキシキヌレニン」が酸化縮合して合成されます。
4.不思議が解明されることは嬉しいけど、寂しさも感じます。
これから赤トンボが山から下りてきますので見る機会がふえるでしょう。
「赤とんぼ」は夏の暑い間は涼しい山で過ごして、山の気温が10度を下回る
ようになるとふもとに下りてきます。田んぼの上で夕焼けの茜色の空の下、
群れて飛んでいる赤とんぼは、まさに秋らしい日本の情景ですよね。
でもこの研究で、赤トンボは秋になると何故真っ赤になるの?という疑問が
解明されてしまいました。
これでまた一つ、私が神秘だなと思っていたベールが剥がされました。
チョッピリ寂しいです。