我輩は藪の中に住む猫である。名前はボス。ここのリーダーだ。住猫の中にはかつて飼い猫だった
ものもいるが、そんなことを話題にするヤツはいない。なぜなら、ここでの生活が刺激に満ちてい
るからだ。折りしも、今日はプロレス興行の日。すでに会場では猫パンチポーズで試合開始を催促
している観客たちの声援で熱気ムンムンなのである。
リングアナ: レディース&ジェントルキャッツ、お待たせしました。試合を開始します。レフェ
リーは白猫のデン、コミッショナーはボスです。試合に先立ち、歌姫の三毛猫ナナさ
んが歌と踊りで会場の雰囲気を盛り上げてくれます。ナナさんどうぞ~!
こうして藪の中のプロレス興行が始まりました。鍛え抜かれた体をしたレスラーが戦うプロレスは
大人気です。妖艶な歌姫ナナさんのステージが終了すると、お気に入りの入場曲に合わせてレスラ
ーがリングに登場してきました。
リングアナ: 只今より「藪の中コンチネコタル選手権試合」を行ないます。青コーナーは挑戦者、
黒猫ゴーン、これまでの戦績は4勝1敗。ラフファイトを得意とする若手です。
赤コーナーは現チャンピオンのパンダ猫ダルト。戦績は12勝4敗。正統派レスリング
の技で皆さんを魅了するベテランです。
会場はダルト!ダルト!の声援で溢れています。まずはチャンピオンベルトがダルトからコミッシ
ョナーに返還されました。そして、コーナーに戻った両レスラーは試合開始のゴングを待ちます。
「チーン!」いよいよ試合開始です。しばらくは、お互いに様子見の情況で、時折、正統派レスリ
ングの技を繰り出してけん制し合っています。
観客A: ゴーンが珍しく、正々堂々と渡り合っているじゃないか。最初だけだろうな。
観客B: 必ずリング下での戦いに持ち込むよ。まともなレスリングじゃ勝てないからな。
ホラ、ゴーンがダルトをリング下に引きずりおろしたぞ。これがゴーンのやり方だ。
観客C: ゴーンがダルトに噛み付いた!今度はコーナーポストに頭をぶつけたぞ。ダルトの額から
血が出てきた。大丈夫かな?血が眼に入るんじゃないか?ダルト、頑張れ!
リング下での攻防から隙を見てダルトがリングに戻りましたが体はフラフラです。後からリングに
戻ったゴーンはさらに追い討ちの猫パンチと猫キックを決め、体固めでフォールに持ち込みまし
た。ダルトはかろうじてカウント2で肩をあげて逃れます。ベテランのダルトは劣勢の中でも冷静
な心を取り戻していました。そして、ゴーンの一瞬の隙を突いて得意技ジャーマン・スープレック
スでゴーンをマットに沈めました。レフリーがカウントに入りました。ワン、ツー・・・
その時です!リング外からゴーンの仲間のウルフが乱入しダルトに体当たり。決め技を崩した挙
句、そのままゴーンと共にダルトに対して攻撃を始めたのです。すぐにレフェリーが中に入り、
ウルフにリング外へ出るように指示します。しかし、レフェリーがウルフに引きつけられている
間に、ゴーンはここぞとばかりにダルトを痛めつけました。レフェリーがようやくウルフをリン
グ外に出し、リング上に目を向けるとゴーンがダルトをケサ固めでフォールしています。レフェ
リーは慌ててカウンし始め、ワン・ツー・スリーと叩き、決着がつきました。観客からは大ブー
イングです。でも、勝負はゴーンの勝ち。二匹がかりの反則によって負けたダルトはゴーンに向
かって言います。
ダルト: おい、ゴーン、よ~く聞け!このマッチのルールは知っているな。反則によって勝った
ものにチャンピオンベルトは与えられないんだぞ。反則があったかどうかはレフェリー
ではなく、コミッショナーが判断するんだ。そうだよな、ボス。
ボス: その通りだ。この試合はゴーンが勝ったけれど、反則によるものだからチャンピンベルトの
移動はない。ゴーンのベルト奪取は無しだ。
ゴーン: ふざけんな!レフェリーがちゃんと3カウントしたんだ。リングの上ではレフェリーの権
限は絶対だぞ。だから俺の勝ちだ。チャンピオンベルトは貰っていくぜ。
ダルト: ちょっと待て。ボスだけじゃないぜ、お客さんもお前の勝ちを認めていないじゃないか。
仲間の助けを借りて、反則で俺を破ってもチャンピオンとは誰も認めないさ。
ゴーン: ふざけんな!マットにひっくり返って3カウントされたあんたに言われる筋合いはない。
そんな台詞は負け惜しみの遠吠えにしか聞こえないぜ。チャンピオンベルトは勝ったも
のが巻くものだ。さっさと俺によこせ。
リングの上は険悪な状態です。お客さんも固唾を呑んで成り行きを見守っています。勝負の最終判
定がコミッショナーから宣言されました。
ボス: コミッショナー権限で判定を宣言する。反則によって勝利したものにはチャンピオンベルト
を渡すわけにはいかない。ただし、反則とはいえチャンピオンが3カウントを取られたのも
事実である。よって、今回は私がベルトを預かり、次の大会において再試合を設定するこ
とを、ここに宣言する。以上!
ダルトもゴーンも大いに不満でボスに抗議しています。お客さんの目は試合が終了しているにもか
かわらずリングに釘付けです。会場では観客たちがささやきあっています。
観客A: 次の試合がいよいよ面白くなってきたぞ。果たして、どっちが勝つかな?
観客B: ゴーンは若い。今日も時折いい技を見せていた。次の試合までにはさらに力をつけてくる
はずだ。反則無しで戦って欲しいよな。ダルトがどう巻き返すかが見ものだ。
観客C: 意地のぶつかり合いの因縁試合になるな。両方共「絶対に負けられない」と燃えるぞ。
試合は因縁が絡んでくると、ますます盛り上がる。次回の対戦が待ち遠しいな。
次回の対戦が楽しみですね。藪の猫たちの生活をもっと見てみたいと思いませんか?