春に先駆けて飛び始めるトンボの話です。日本には約200種(世界で約5000種)のトンボがいるそうですが、そのほとんどは
幼虫(ヤゴ)で冬を越します。良く知られているオニヤンマ、シオカラトンボなどのトンボ類はこのタイプです。
しかし、アキアカネなどのアカネ類とアオイトトンボは卵で冬を越します。
そんな中、成虫の姿で越冬するトンボがいることをご存知でしょうか?名前は「オツネントンボ」、「ホソミオツネントンボ」、
「ホソミイトトンボ」というイトトンボの仲間で、日本ではこの3種類だけが知られています。この3種類は夏に羽化した成虫
が未成熟な状態で冬を越し、翌春、交尾・産卵します。ですから、成虫の姿での生存期間はとても長くて、9~10ヶ月になりま
す。オツネントンボは「越年トンボ」と書きます。彼らは成虫の姿で春を迎えますから、トンボの仲間では一番早く飛び始め
「春の先駆けトンボ」と言われています。
冬場でも近隣にある公共の牛久自然観察の森によく行きます。冬の樹林の中は何もないと思われますが、実は樹木に葉のない冬
季はバードウォッチングに最適なのです。もう一つの目的は越年トンボを見つけることです。3種類しかいない珍しい生態を持つ
トンボ探しは宝探しに似ていて楽しいものです。
樹林の中で越冬中の3種類の越年トンボはみんな地味な茶色です。そして、低木の葉の陰に隠れていたり、枝につかまってジッ
としていますから、目を凝らさないと見つけることは難しいです。探すポイントは日当たりがよく、あまり風の当たらない場所
にあって、擬態になれそうな細い木の枝がでている樹木を見つけることです。
私はこれまで毎冬、越年トンボを見つけてきました。よく止まっている樹木の場所を数ケ所把握しているので見つけられるのです。
巧妙なカムフラージュではないのですがまるで木の枝です。わかって観察しないと間違いなく発見は難しいです。大きさは3〜4cm
といったところ。アキアカネのような一般的なトンボよりも小さいので、通常のトンボのイメージを想像していると確実に見落と
してしまいます。
3種類の越年トンボですが、細身の名がつくホソミオツネントンボとホソミイトトンボの2種は春になるとブルーのきれいな色に変
身します。しかし、細身の名がつかないオツネントンボは地味な茶色のままで変化しません。でも越冬中は3種類ともに地味な茶色
ですから、一匹だけ見つけて名前を識別することは難しいのですが、細身の名の付いた2種は本当に体形が細いです。対してオツネ
ントンボは体がしっかりしているので、確実ではないのですが判断材料になります。
私が見つけているのは1種類だけです。見つけたのはしっかりした体つきなので、おそらく「オツネントンボ」だと思います。その
オツネントンボを今年は見つけることができませんでした。残念に思って、近くにいた学芸員さんに今年は見ているかと聞いてみた
ら、ここにいるのはオツネントンボで間違いないということ、そして、真冬でも陽ざしが暖かいと飛ぶので、今年のように暖冬で陽
ざしの良い日の気温の高さが尋常ではない日は、頻繁に飛んでいるとのことでした。それでも「寒い日は枝にしっかり止まっていま
すよ」と教えてくださいました。
過去に見つけたオツネントンボを思い返してみると、暖かい陽ざしを浴びた枝でモゾモゾと動いていましたね。しかし、冬季の間は
冬眠中なのだからモゾモゾと動いても、枝を離れて飛び立つとは思いませんでした。学芸員さんのお話しで、オツネントンボは真冬
でも暖かい陽ざしがある時は森の中を飛んでいることを知りました。勉強になりました。来年は飛んでいる姿を見つけようと思います。
今冬の日差しの良い日は確かに驚きの暖かさで、3月並みの気温という日が多くありました。いつもの場所で見つけられなかったこ
とに納得です。これも地球の温暖化の影響なのでしょうね。