
桜は北半球の温帯に100種ほどの野生種が分布していて、このうち日本で見られる
のは10種。交配種は野生種の「オオシマザクラ」を元にしたものが一番多く、その他
の組み合わせを含めると日本には600種類以上の桜があると言われています。
今回は私なりの鑑賞ポイントと、最近読んだ興味深いレポートの要約を記します。
1.私の鑑賞ポイント
(1)ソメイヨシノ:お花見の定番
エドヒガンとオオシマザクラの交配種であるソメイヨシノは日本にある桜の8割を
占めると言われ、お花見の定番木。成長が早くて大木に育つ。木全体を包み込
むかのように咲く花は見る者の気持ちを明るくしてくれる。クローンだから同じ気
象条件の中では、ほぼ一斉に花が咲き、そして一斉に散りゆくソメイヨシノ。
パッと咲いてパッと散る潔さは誠に魅力的である。公園や土手、さらに沿道で目
にする満開の桜並木の壮観さ、豪華さは圧巻である。まさに「春爛漫」を実感さ
せてくれる風景だ。接木で増やすため病気になりやすいこともあり、寿命は約60
年とされる。戦後生まれのソメイヨシノの行く末が気になるところだ。
(2)人との関わり
各地にある桜は、その土地の人々の強い愛着に支えられて生きている。ダムに
沈む運命にあった「荘川桜」を移植によって生き延びさせた話、太平洋から日本
海まで桜の街道を作ろうと植え続けた「佐藤良二さん」の話。
地域の人と桜の関わりを知ると、その姿を眺める目も変わってくる。校庭に植えら
れた桜が心の片隅に育んだ、それぞれの小さな物語は巣立って行ったかつての
生徒たちの胸の内に、今も生き続けているのではないだろうか。
(3)生命力
エドヒガンは特に長寿で、樹高20m~30mの大木になるものがあり、その風雪
を耐え抜いた巨体に見事な花を咲かせる生命力には「すさまじさ」さえも感じる。
私も度々訪れている山梨県の「山高神代桜」は樹齢2000年、岐阜県の根尾谷
の「淡墨桜」は樹齢1500年と言われ、日本で最も長寿の桜たちである。
人類が何代もの世代交代をしているというのに、彼らは一代で、まだ現役である。
(4)一本桜:孤高の魅力
福島県「三春の滝桜(シダレザクラ)」を始め、岩手県「小岩井農場の一本桜
(エドヒガン)」、千葉県「吉高の大桜(ヤマザクラ)」、山梨県「慈雲寺のイトザク
ラ(ウバヒガンの変種)」など人気の高い一本桜は各地に枚挙にいとまがない
ほど存在する。孤高の巨木に対峙する時、その神々しさに思わず手を合わせた
くなってしまうのは私だけであろうか。
(5)忘れてはならないヤマザクラ
野生種のヤマザクラが、若葉色に染まり始めた山のそこここに白い模様を描き
出す様(さま)は春の象徴的な景色でもある。花と葉が同時に出るのが特徴で、
登山道で出会うヤマザクラには清楚で自然な美しさを私は感じるのである。
2.昔、桜は秋に咲いていた・・・東京農業大学レポートの要約
桜はヒマラヤが原産地で、ネパールの寒暖差の少ない地方には「ヒマラヤザクラ」
という秋に咲く桜がある。この桜と日本で秋に咲く桜(冬桜、十月桜など)が遺伝的
に近い関係にあることが分かった。この事から、秋に咲く桜は突然の小春日和やホ
ルモンの変化による「狂い咲き」ではなく、「先祖返り」であること。更に、春に咲く
ようになったのは中国、台湾、日本へと北上していく過程で、厳しい気候を乗り切る
手立てとして、冬場に葉を落として活動を止める「休眠」を体得した結果であり、これ
により気温が上昇する春に花を咲かせるようになった。
膨らみ始めた蕾を見ながら「まだか、まだか」と待ちわびる中、開花情報に心が浮かれ、
満開を喜び、花吹雪の中に立ち、最後は散り敷いた花びらの絨毯の上を歩く。
桜の季節を迎えると否応なしに心が騒ぐ。さて、今年はどこの桜に会いに行こうかな?