病院の整形外科へ行こうか?町の整骨院にしようか?とさんざん迷った末に、何事も体験
だと決め、人生初の整骨院の扉をたたきました。
「あら、誰もいないわ」「どうしようかな~」
その時、正面のトイレと思しき部屋の扉が少し開きました。そして犬と一緒に初老の白衣
らしきものを着た男が顔だけをのぞかせて、
「あんた誰?」
「え・・・、(なんと答えたらいいのかな?)一応、患者のつもりですけど・・・」
男はトイレらしき部屋から全身を出すと、瞬く腕組みをして黙って立っています。
「あの・・・、出直した方がいいでしょうか?」
「どうしようかな~」
「腰が痛いので、診てもらいたいと思って、伺ったのですが・・」
「私はあなたを見たことがないよな」
「はい、初めて来た患者です」
(この人先生か?大丈夫かな、ボーっと立ってんじゃないよ!と言ってやりたいな)
「どうしようかな~」
どうしようかなと言われても困るんだけど・・・)
「あの~、家で安静にしていろと言うのなら帰りますけど。数日前から、右側の腰
から足にかけてズキンとした痛みが出て、困っているんです。」
「腰から足にかけての痛みか、それはヤバいかもな」
(ヤバいかもじゃないわよ。ヤバいからやっとの思いでここまで歩いて来たのに、
こりゃダメだ。帰ろかな)
「帰った方がいいなら、帰りますけど」
「まあ、せっかく来たんだから見てみるか。立ってないで入りなさい。ヘルニアだ
と厄介だよな。手前の2つのベッドは使っているから、奥のベッドで横になって」
(治療してくれるなら、もっとシャキッとした態度と言葉で対応してもらいたいわね。)
それでも促されたベッドの脇にやってきました。
(それにしてもベッドのタオルが汚い感じね。触りたくないけどしょうがないか。
それにしてもなぜ診療室に犬がいるんだろう。診療室に犬がいるなんてとても衛
生的とは思えないな)
先生の声が後ろから聞こえてきました。
「そうじゃないよ。うつ伏せになって」
(うつ伏せになりたくないから仰向けになったのにな。腕をあごの下に入れてタオ
ルに触らないようにしよう)
「腕を前に出して」
(腕を前に出すの?顔がタオルについちゃう。やだな。右腕かな?)
「そうじゃない、右側が痛いんだろう。だったら左の腕を前に出して」
(初めから、左腕と言ってよね、タオルが顔に触っちゃった、やだな)
「はい、これでいいですか?」
「痛タタタタタタ・・」
(始めるなら一言掛けてよ。心の準備が必要なんだから)
「ここか~、これから電気を通すから、30分ぐらいその姿勢でいなさい」
こうして、やっと整骨と電気治療の診療が始まりました。
「終わったよ」
「ありがとうございます。少し楽になったような気がします」
(社交辞令のようなもんだけどね)
「保険証を出して」
「はい、これです」
「2枚もいらないよ」
「ゴメンナサイ、1枚は期限切れの古いやつです」
(わたしまでおかしくなってきたわ、もっとシャキっと話してくれないかな、
シャキっと)
保険証をコピーしている先生が独り言のように言いました
「鈴木さんね、ご主人の名前は知ってるかもしれないな」
(主人の名前を口に出して言いました。主人が整骨院に行ったことは知っているけど、
ここに来たのかな?でも、もうこんな話には付き合っていられない)
「あの、いくらお支払いしたらいいのですか」
「ム・・いくらにしようかな?・・・ム・・・いくらにしたらいいのかな?」
(ちょっと、やめてほしいな。患者の私に聞かれても困るわよ)
(少し、間をおいてから)「それじゃ1,300円ぐらいにしようかな」
「わかりました、1,300円ですね。ここに置きましたよ」
「明日、又来てください」
「明日の土曜日は法事があっていけません。」
「それでは月曜日に来てください」
「午前がいいですか?午後がいいですか?」
「どちらでもいいよ」
「わかりました。午前中に来ます」
私は領収書も貰わずに整骨院を出てきました。(もう、こんな所に来るものか)
治療の効果ですか?
朝目覚めた時、前日の朝は痛みで起き上がれなかったのと比べて、シャキっと起き
上がることができたのです。
あの先生、名医なのかしら?