地元の公園内にある池は長年、冬季の間、水枯れをさせていましたが、ここ数年、
水張りが行われていました。なぜ水張りをするようになったのかわかりませんで
したが、先日この池に錦鯉が泳いでいる姿を見て納得しました。錦鯉が泳ぐ池に
するために水張りで池の養生をしていたようです。
実はこの水張り養生の期間に、池の中の環境が大きく変わりました。池には冬季
でも餌となる魚やカエルなどが活動するようになり、今年になってこの池を縄張り
とするカワセミのカップルが住み着くようになったのです。
暖かなある日、老夫婦が池にやってきました。すでに池の周りでは数人のカメラマ
ンが立派な三脚をセットしてシャッターを切っています。池を見ると今日はカワセミ
のカップルと大きなアオサギがいました。暖かな日差しの池面に飛び込むカワセミ
たちの仕草を見ていると癒されます。そんな時、池に張り出した木の枝に並んでと
まっていたカワセミを見ていたら、彼らの会話が聞こえてきました。
オス:おいおい、見てくれよ。
メス:なに?
オス:あの海老、生きているかな?生きているように見えるけど、さっきから全く動
かないんだ。死んだ海老はお腹をこわすからな。ちょっと、確認したいんだ。
メス:どこ?あれね。
オス:あの海老、生きてるよな?
メス:あれは生きてないわね。
オス:生きてるだろう。
メス:生きてないわよ。全く動かないでしょう。死んだ海老よ。生きてるわけがない
わよ。
オス:いや、やっぱり生きてるよ。見てごらんよ。ひげを、こう、ぴーんとはねて・・・
たしかに生きてるよ。
メス:あれは死んでいるわ。間違いない。
オス:生きているって。俺が先に見つけたんだから横取りするなよ。
メス:やめておきなさいって。
そこへアオサギがやってきました。
サギ:おいおい、お待ち、お待ち、お前たちは、なんだって喧嘩してるんだ。
オス:おや、アオサギさん。いまね、こいつが、あそこにいる海老を死んでいると言
うんだ。髭がピーンと張っているから生きていますよね。アオサギさんから見
て、どう見えます。生きているでしょう?
サギ:ありゃ~、生きちゃいないなあ。
メス:そうですよね。やっぱり、私の見立て通りだったでしょう。生きてるわけがな
いのよ。ねえ、アオサギさん、死んでますよね?
サギ:いや、死んでもいないな。
オス:え~、生きてなくて、死んでもいないというと、どうなっているんです?
サギ:ありゃ、患ってるな。
オス:患ってる?
サギ:ああ、よくごらんよ。あれは池床で病になって寝ついているんだな。病は伝染
するから、私が他の魚たちに病が広がらないように取り除いてあげよう。
そう言うと、長い首を水に突っ込み、海老をくちばしでつまむと、のどの奥にのみ込
んでしまいました。
池の周りは今日も平和です。水ぬむる春を待つ冬の一日の出来事でした。