首都圏に住んでいる高校の同級生3人が古稀を迎えたことを契機に始めた史跡と文学碑をめぐる街歩き。
今回は下町の文化と歴史に想いを馳せながらの「ぶらり両国街歩き」です。JR両国駅西口に集まった
3人はさっそく街歩き開始です。
ノブ:明暦の大火(明暦3年・1657年)では逃げ場を失った10万人ともいわれる江戸市民が焼死している。
幕府は江戸の街を復興するにあたって、防災のため両国橋を架けて、周辺に広大な空き地を造った。
当時の人口構成は武士と町人・農民は半々だったが、土地に関しては7割が武家屋敷で占められ、
3割の中に町人・農民は押し込められていた。だからこの緩衝地帯には人が集まり、やがて自由奔放
な雰囲気が醸成されて、屋台、芝居小屋、花火見物など、江戸を代表する文化が大きな華を咲かせた
といわれている。近代においては関東大震災や東京大空襲で大きな被災を受けた土地でもある。だか
ら火災被災者が多く眠る街なんだよ。
ヒデ:なるほど!そこで最初に訪ねるのが横網町公園内にある東京都慰霊塔と復興記念館なんだね。ここへ
来たのは初めてだ。大人の社会科見学といったところだね。
ノブ:案内人を頼んでおいた。これから歩く両国とは葛飾北斎や勝海舟が生まれ、芥川龍之介が育ち、小林
一茶が住まい、鼠小僧次郎吉が眠っている街だ。そうそうたるメンツだろう。それに大相撲の源流で
ある勧進相撲が行われたところでもある。
東京には関東大震災と東京大空襲の二度も灰塵に帰しながら、復興を遂げた歴史があります。特に関東大震
災の時はこの公園に多くの人々が避難したのですが、四方からの火災旋風によって最も多くの犠牲者を出し
てしまった悲しい場所です。東京都慰霊堂には関東大震災の被災死者と東京大空襲による殉難者163,000体
の遺骨が安置されています。そして復興記念館には関東大震災時の被害資料や、東京空襲関係の資料の展示
がされていて、どのパネルや遺留品からも火災の怖さがひしひしと伝わってきました。必見です。
ノブ:次は旧安田庭園だ。隅田川の水を引いた潮入回遊庭園の大名庭園だよ。旧安田財閥から東京市に寄附
されて無料で開放されている。一時、関東大震災と公害で名園としての面影を無くした時期もあったんだ。
ヤス:都内の庭園の中では小さい方だね。でもこの心字池を中心に池畔には散策路が整備されていて、昔な
がらの風情を感じて散歩が楽しめる。とても綺麗な庭園だ。
ノブ:ここが回向院だ。明暦の大火の犠牲者の多くは身元や身寄りの分からない人が大半を占めていた。幕
府はこれら無縁の亡骸を手厚く葬るため墳墓を設け御堂を建てた。これが回向院だ。これを契機に火
災、風水害、地震などの無縁仏を葬る習わしが生まれたそうだ。院内には鼠小僧次郎吉の墓や歴代相
撲年寄りの慰霊碑「力塚の碑」がある。
ヒデ:回向院にも江戸時代の火災被災者が多く葬られているのだね。確かに両国は火災被災者が多く眠って
いる街ということがうなずけたよ。
ヤス:鼠小僧が長年捕まらなかった運にあやかろうと、墓石を削り「お守り」に持つ風習が面白いね。私も
削って持って帰ることにする。でも、硬くて削るのが大変だな。
ヒデ:この境内で行われた相撲興行が人気で、これが縁で両国国技館ができたのだね。
ノブ:吉良邸跡に到着だ。赤穂浪士が討入りした吉良上野介の上屋敷跡で、討ち入りの現場だ。周囲は高家
の格式をあらわす、なまこ壁長屋門を模した塀と門で、園内に吉良首洗い井戸と、塀の内壁に吉良邸
の見取図や義士関係の絵などの銅板がある。
ヒデ:この吉良邸跡は地元の人が発起人となって寄附を募り、東京都に寄贈されたと書かれているね。歴史
を消滅させてはならないという地元の人の心意気なんだね。
ヤス:葛飾北斎の曽祖父は吉良を守ろうとして討ち死にした武士・小林平八郎だと本人が周囲に語っていた
話が残されているよ。
ノブ:芥川龍之介の文学碑に来たよ。彼は両国小学校に通っていた。石碑には龍之介の自署と小学校の敷地
内なので児童文学の「杜子春」の一節が刻まれている。
ヤス:両国は龍之介の故郷なのだね。隣に日本海軍駆逐艦不知火の「錨」 がある。脈絡のない取り合わせだ
ね。たまたまこうなったということかな?
ノブ:そこは分からない。ここで午前の部は終了だ。さあ、昼食の時間になった。予約したのは肉なし、魚
なしの自然食レストラン「元気亭」だ。特に硬い玄米がうまく炊けているからお勧めだよ。両国だか
らちゃんこ鍋も考えたけどこちらにした。
自然食レストラン「元氣亭」は安全・安心な有機栽培による玄米と、穀物・野菜・海藻を中心とした身体に
良いメニューが売りで、特に玄米のもちもち感が自慢です。今、人気のお店で店内は満席でした。食事後、
最後の見どころ、「江戸東京博物館」へ向かいました。
ノブ:この江戸東京博物館でもガイドさんをお願いしている。案内を聴きながらゆっくりと見学しよう。
きっと楽しみながら江戸・東京の歴史を学ぶことができるよ。
江戸東京博物館の常設展示室は五階と六階の二階構造になっています。全9,000平米の広大な展示面積の中
に「江戸ゾーン」「東京ゾーン」と大きく二つにエリアが分けられ、「江戸」「東京」それぞれの時代を
生きた人々の暮らしや文化、歴史にまつわる展示物が溢れている。約2,000点の歴史資料のほか、ジオラマ
や原寸大の復元模型が一般的な博物館よりもたくさんあり、資料だけでは伝わりにくいものを、伝わりや
すくする工夫が施されています。
ヒデ:まず目に入ったのが、江戸時代に架けられた「日本橋」の復元模型だ。実際に架けられた橋と同じ木
造で、幅はなんと原寸大で再現されているのがすごかったね。
ヤス:僕は「江戸ゾーン」エリアの始まりにある壮大なジオラマ模型だな。日本橋周辺の街の様子がよく分
かった。お店も人形も表情から着物まで細部までこだわられていて、街の雰囲気や生活模様そして賑
わいまでがそのまま伝わってきた。
ノブ:僕はパネルで解説されていた江戸の街の人口構成比や市民の生活の様子、楽しみ方などが聴けて良か
ったよ。
ヒデ:確かに、江戸の一般庶民が住んでいた住宅「棟割長屋」の模型は良かった。一棟の長屋に多くの世帯
が隣り合って住んでいて、薄い壁ひとつで仕切られた、限られた空間の中で暮らしていた様子がうか
がえたね。風呂やお手洗い、洗濯場は共同だったので各家にはなかった。現在の生活と比べながら見
学したからより楽しめたよ。
ヤス:今回は時間の都合で「東京ゾーン」は素通りだったな。個人的に別の機会に来ることにするよ。
ノブ:今回は相撲博物館が初場所まで閉館、すみだ北斎美術館は休館で見られなかったのが残念だったな。
見どころはまだ他にも多くあるからもう一度企画しようね。
3人組の街歩きはまだまだ続きます。次はどこへ行くのでしょうか。