魚へんに春で「鰆(さわら)」。サバ科の回遊魚で、日本では1年を通して北海道南部
から沖縄の広い範囲で捕獲できますが、近年は日本海側で特に多く捕獲されています。
1m越えも多い大型魚ですが、ほっそり長い姿に柔らかな身が詰まっています。俳諧
では春の季語。ですから旬は春と思いきや、脂が乗った美味しさの旬は冬場なのです。
標識調査によりますと、日本列島沿岸のさわらは2つの回遊ルート群に分かれます。
1つ目のルートは東シナ海で5,6月ごろに孵化し成長します。ここで9 月頃までに 40
cm 程度に成長したさわらは、秋になって日本海に来遊し、翌々年の春まで滞在しま
す。ここで越冬した一部の群れは、1~3月頃、たっぷりと餌を食べて、脂を蓄えた姿
で津軽海峡を迂回して、茨城県沖まで南下してきます。茨城県ではこのさわらを捕獲
しています。日本海内に残ったさわら群はそのまま日本海内を回遊して、産卵の時期
になると東シナ海に戻っていきます。2つ目のルートは、東シナ海で孵化した稚魚が、
広い太平洋を回遊して成長し、4月、5月の春になると瀬戸内海に入ってきて産卵する
群れです。産卵は5月~6月で、生まれた稚魚は11月頃まで瀬戸内海で成長し、その後、
外海に出て東シナ海へ戻って成長して、翌春、再び瀬戸内海に帰ってきます。1990年
代までの日本のさわら漁といえばこの瀬戸内ルートだけでした。ですから、日本海側
ではほとんどさわらの漁獲はありませんでしたが、2000年になると、大きな変化が起
き、魚群の主流は日本海側に移りました。要因は瀬戸内海での乱獲とか日本海の海温
上昇などが考えられますがはっきりしていません。瀬戸内での捕獲は一時、最盛期の
1/10以下と大きく激減しましたが、近年は捕獲管理と稚魚放流の効果が出て回復の兆
しが顕著です。それでも現在のさわらの漁獲量は日本海側の漁獲量にはとても及びま
せん。冬の時期に漁獲されるさわらはどの地域でも「寒ざわら」と呼ばれますが、特
に茨城県沖で漁獲されるさわらは、ブランド名で「常磐ものの寒ざわら」と呼ばれ、
市場での評価が高く、高値で取引される隠れた逸品です。今回はこの春を告げる
「常磐もののさわら」の紹介です。尚、さわらの寿命は6年ほどだそうです。
<「さわら」の漁獲量ランキング>
2019年のさわらの全国漁獲量は15,924t。トップは福井県の1,815t(11.4%)、2位京都府
(10.2%)、3位石川県(7.0%の)で全て日本海側、瀬戸内側のトップの兵庫県はやっ
と10位(3.4%)です。そして、茨城県は更に少なく38位(5t)でした。茨城沖まで南下して
くるルートのさわらは多くはないのです。そして、太平洋側で回遊していたさわらが、
茨城県沖まで北上してくる数も多くはないのでしょうね。
<さわらの豆知識>
1.栄養素の豊富なさわら:タンパク質が豊富で、脂質も多からず少なからず適度
にあります。良質なタンパク質には体力向上、疲労回復、代謝活動の促進、免
疫力を向上させる働きがあります。脂質には高血圧を予防したり、LDL(悪
玉)コレステロールを低下させるオレイン酸が100gあたり2300mg含まれます。
また、血液サラサラ、抗血栓作用、認知症の予防改善効果があるオメガ3系の
EPA、DHAもしっかり含まれます。カリウムの含有量が多いのも特徴です。
カリウムは体内の余分なナトリウム(塩分)を尿とともに排泄してくれるの
で、高血圧の予防改善に役立ちます。サワラの身は柔らかく、消化もいいので
子どもや高齢者にもお勧めです。
2.調理のポイント:水分が多く、やわらかなので、塩をふってしばらくおいた
り、しょうゆや味噌に漬けてから焼くと、身がしまって焼きやすくなりま
す。新鮮なさわらは刺身にできますが、寄生虫がいることがあるので、要
注意です。塩焼き、照り焼き、オイル焼き、蒸しもの、ムニエル、フライ
などの料理に適しています。身割れしやすいので扱いに注意して下さい。
3.さわらは出世魚:サワラはかなりのスピード出世。 極めて小さな卵から仔魚
は孵化し、当初は4mmほどの小さな体ですが、生後4日目くらいには大き
く裂けた口に鋭い歯が生えてきて、他の魚の仔魚や甲殻類などを旺盛に食
していきます。 生後1ケ月で5cm、そこから更にスピードが増し、生後1カ
月半では10㎝を越えてきます。 そして1年後には50cm、2年で70cm、3年
で80cmと、イワシやイカナゴなどの小魚を食べながら猛烈なスピードで大
きくなっていきます。大きくなるにつれて、サゴシ→ヤナギ→サワラと呼び
名が変わっていきます。
4.地域で違う旬:岡山県では産卵時期を迎えた4月~5月に、瀬戸内海へ群れを成し
て入ってくるため、春が旬となっていますが、関東では秋以降の「寒ざわら」
が獲れる冬が旬とされています。
5.鰆の言われ:1990年ごろまでのさわらは春を迎えると岡山県当りの瀬戸内海に
産卵のために外海から群をなして泳いできました。魚群が動く島のように見
えた時期もありました。待ちかまえていた漁師が大漁に沸く。こうして春を
告げる魚として「鰆」の字が生まれたそうです。
<さわらの美味しい食べ方>
さわらの身は白く見えますが、マグロと同じ赤身です。身は柔らかく、生で食べ
ればもっちり、サッと火を通せばふっくらとした食感を楽しめます。身の間の小
骨もなく、青魚特有の臭みもないため、魚が苦手な人でも食べられます。
(1)王道の西京焼き:西京味噌は一般的な味噌よりも塩分が低いため、鰆本来の
味を邪魔せずに美味しく食べられます。さわらを味噌に1晩つけておけば、
あとは焼くだけで調理工程も少なく非常にかんたんです。焼けた味噌の香
ばしさと甘味、そこへ加わったさわらのうまみ。ご飯をペロリと食べられ
ますし、お酒のつまみにもってこいの一皿です。
(2)もっちり食感のお刺身:さわらのお刺身は、「刺身の王様」と呼ばれるほど
の絶品です。関東では、あまりさわらを生で食べる習慣はありませんが、
名産地の岡山では漁師めしとして、刺身やたたきが食べられてきました。
さわらのお刺身はマグロの中とろに匹敵します。新鮮なさわらでしか味わ
えませんが、鮮度がよいものが手に入ったら迷わず食べてもらいたい逸品
です。しっかり血抜きして温度管理したさわらは1週間たっても美味しい
ので比較的日持ちのする魚なのです。2週間はお刺し身で食べられる程の
鮮度が落ちにくい魚です。(しっかり処理と管理した場合のみ)
(3)ふっくら白身の塩焼き:料理に使う調味料は塩、そしてさわらだけというシ
ンプルさですが、さわらの本当の美味しさが味わえます。鮭やサバのよう
に身の間に小骨がないため、柔らかでふっくらとした身を大口で食べられ
るのがさわらの魅力。塩を軽めに焼き上げれば、後から味を変えて、大根
おろしや醤油をかけても美味しく食べられます。焼く前にグリルを空焼き
し油を塗っておけば、皮が網に張り付いて身がボロボロにすることなく、
きれいに焼き上げられます。特に脂がのっている寒鰆は、身崩れしやすい
ので要注意です。
その他、照り焼き、天ぷら、ムニエルも王道の食べ方です。
<さわら漁について>
1.流しさし網漁業: 近世はじめから続く伝統漁法です。高さ25m、幅800mの長さ
のカーテン状の網を海中に仕掛け、勢いよく泳いできたサワラが刺さって獲れ
る仕組みです。その時に体に首輪のような1本の線が入り、これが流しさし網
で漁獲された証となります。
2.つり漁・ひき縄漁: 一本釣りのほか、疑似餌を付けた縄を流すひき縄もつり漁業
の一種です。漁獲する魚の量は少ないですが、漁獲物を一尾ずつ丁寧に扱うの
で高値で取引されます。
3.禁漁期間:日本海側、瀬戸内海側の流しさし網漁、ひき縄漁は共に禁漁期間の設
定、漁具規制を行い、瀬戸内では更に稚魚の放流で漁獲量の管理をしています。
<茨城県のさわら漁の特徴>
茨城沖ではひき縄漁と定置さし網魚で捕獲されていますが、高値で取引されるひき縄漁
が中心です。ひき縄漁とは漁船の左右から出した大きな竿の先端と中間から仕掛けの釣
り糸を流してゆっくりと船を進ませながら、かかる「さわら」を釣り上げる漁法です。
天候や気温、時期、時間などなど様々な条件から、長年の経験を駆使して、仕掛けや餌、
流す(引く)水深などを選びます。
1.ひき縄漁
(1) 釣れる時間:操業は、夜明けに漁場に着くように出港し、昼過ぎまでです。
漁場に到着すると、魚の遊泳水深を意識しながら、竿を両舷から一本づつ出し、
通常、4~4.5ノットで曳く。魚が掛かると、竿がしなりさらにゴムチュー
ブが伸びる。魚が掛かった幹糸を船尾中央の「縄釣機」を使って巻き揚げ、
その間、もう一方の漁具に魚が掛かった場合、そちらは手でたぐり寄せます。
(2)餌:餌は、生餌あるいは擬餌針を使用します。生餌は、鮮度のいい全長
30cm程度のサンマの魚体内に、ステンレスの針金20番を連結した釣針を
2本又は1本装着し、頭部をステンレスの針金26番でしばり、それを冷凍
する。釣針は、ステンレス製ひき縄針20号及び17号である。擬餌針は、
弓角9~11cmを使用します。
(3)処理:船内のイケスで生かすことができない魚なので釣ったら即、絞めて血抜
き、そして氷しめです。ずーっと水の中に入れておくと曲がって死後硬直し
たりするので、30分程氷水で冷やしたら箱に並べてパーチをして氷でとめて
おきます。そうする事でまっすぐにしっかり固まった綺麗なサワラになり値
段があがります。曲がったサワラを伸ばしたりした物はさばいた時に身割れ
するのでよくありません。サワラの良さ=まっすぐ堅く硬直している事です。
(4)鮮度管理:ひき縄で釣ったさわらは、タモ網を使わず、ギャフを使って取り込
み、魚体には絶対に触りません。船の上で血抜きをする際、スポンジマット
の上においてサワラに傷がつかないように注意し、海水氷で冷やし込みをす
る。魚を箱詰めしたりする際にも、尻尾を片手でぶらさげるように持ったり
することはせず、両手で丁寧に扱い、傷物や、前日の魚には、サワランジャ
ーシールは貼らないという徹底ぶり。小さなサワラが釣れた場合は、もちろ
ん触らずにリリースします。
2.定置さし網漁
定置さし網は沿岸域にサワラを誘導する網と迷い込んだサワラが入る箱状の網で主に
構成され、回遊してきたサワラを漁獲します。漁獲したサワラは、鮮度を保つため船
の上で直ちに絞めたり、海水の氷に入れて冷却するなどしています。
<美味しい「さわら」が食べられるお店>
1.はまや鮮魚店:日立市大みか町。茨城近海の鮮魚専門店です。創業は昭和25年。
今では希少となっている「昔ながらの近所のお魚屋さん」です。こちらの名物
となっているのが、お魚屋さんのお魚ランチ。店内を抜けた奥間と2階のお座
敷でランチを頂けます。
2.魚いちず:水戸市。ワンコインで定食が食べられる、セルフサービスの海鮮料理
店として知られています。 600円で食べられるマグロとさわらの定食は価格で
想像される量を超えるボリュームで、 那珂湊の市場以上に価値あり!と口コミ
されています。
3.魚よし本店:地元の龍ケ崎市のお店。常磐線龍ケ崎市駅から5分ほどのところにあ
ります。居酒屋なのですが、定食もあります。ボリュウーム満点のお店です。
1体1体、丁寧に取り扱う「常磐もののさわら」を是非ご賞味あれ!