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動物村の秋祭りに欠かせないのは「天狗の鼻」と呼んでいるキノコの奉納です。昔、天狗が
この動物村に迷い込んで来て、仲良し3人組の助けで無事に帰ることができた時のお礼とし
て動物村に伝えたものです。このキノコはミミたちの背丈ほどある巨大なもので、形は天狗
の鼻にそっくりです。このキノコが発散する松茸風の香りには霊力があって、動物村を守っ
てくれるのだと天狗は言って立ち去りました。だが「天狗の鼻」を毎年見つけるのは難しく、
動物村の住民が総出で探すのですが、ここ数年間は見つけることができず、やむなく、形を
模した手作りの代用品を奉納していました。しかし、今年の動物村は台風や大雨により大き
な被害がでてしまいました。「天狗の鼻」の奉納は動物村住民の必死の願いなのです。
ポン吉:長老から「もう、お前たちの不思議な力に頼るしかない。何が何でも「天狗の鼻」
を探してくれ」と頼まれちゃったよ。
コン太:今年は台風と長雨の被害が大きかった。道も寸断されたし、僕の家も台所が壊れた。
長老はこれ以上災害が起きないように、今年こそは本物を奉納して動物村を守って
もらいたいんだな。何としても見つけよう!
ミミ :私の家にも水が入って来たわ。まだ臭い匂いが残っているの。絶対に見つけましょ
うね!長老が北の赤松林で、松茸の匂いを頼りに探して見つけたけれど、その赤松
林は台風と豪雨で荒れちゃっているから、そこでは見つからないと思うって。
ポン吉:それでも長老が言っていた赤松林へ行こう。そこでは見つからないかもしれないが、
探すヒントは見つかるかもな。あそこから探し始めるのがいいと思う。
仲良し三人組は動物村全員の期待を背負って、「天狗の鼻」を探しに赤松林へ向かいました。
コン太:長老から教えてもらった赤松林に着いたけれど、これはかなりの荒れようだな。
ミミ :長老もここを見て言っているのね。大木が何本も倒れているから、この場所だけは
空が開けて青空が見えるから明るいわ。
ポン吉:この荒れ方じゃ~、ここに「天狗の鼻」は生えないよ。別の赤松林を探そうよ。
ミミ :見て!見て!倒れている赤松から「天狗の鼻」に似た小さいキノコがいっぱい生え
ている。「天狗の鼻」はあのキノコの中で特別に大きくなったものかもしれない。
それならこの周辺を探せば見つかるかもしれないわ。
コン太:長老は「天狗の鼻」はキノコではないと考えているよ。理由はキノコの仲間であん
なに大きくて、硬いのはあり得ないからだと言っていた。
ポン吉:それじゃ~、何を頼りに探したらいいのかわからないじゃないか。どうするんだ。
ミミ :さっきから気にかかることがあるの。ほら、あの倒木の上よ。どう見てもキノコだ
けど動いているの。他のキノコは動かないわよね。あれは何だと思う。
コン太:本当だね。あれはキノコだよ。でもキノコに似た生き物かな?
ポン吉:おい、見ろ!こちらに気付いたようだ。倒木をぴょんぴょん飛びながらこっちに近
づいてきたぞ。気を付けろ。
3人組は近づいてくるキノコの動きを凝視しました。体が小さく、武器もないようなので身の
危険はなさそうです。そのキノコたちは3人組の前に来ると動きを止めました。
キノコ:皆さんは動物村の仲良し3人組だね。君たちのことは天狗さんから聞いているよ。
会えて嬉しい。
ミミ :驚いた!口がないのに話せるのね。あなたたちは誰?そしてあそこの倒れた木の上
で何をしていたの?天狗って私たちの知っている天狗さんのことなの?
キノコ:いっぱい質問が来たね。僕たちは「キノコの妖精」だよ。口がなくても、仲良し
3人組とだけは頭の中で交信できるから、こうして話すことができるんだ。僕たち
の仕事は台風などで倒れた木を土に戻してあげることなんだよ。土に戻せばそこか
らまた新しい木の新芽が生まれ、この森が何年か後には元の姿に戻れるんだ。天狗
さんは君たちがよく知っている天狗さんのことだよ。
ポン吉:口がなくても頭の中で話せるなんて驚きだ。どうして倒れた木を土に戻さなければ
いけないの?
キノコ:僕たちキノコの仲間たちがこの仕事をしなくなったら、短期間で地上は枯れ木や生
き物の死骸でいっぱいになってしまうのだよ。そして新しい土もできないから、新
芽も育たずに地上ではすべての生き物が生きていけなくなるんだ。これは荒唐無け
いな妄想のような話だけれど、長い地球の歴史の中には、かつて、そういう時代も
あったんだ。そうならないように地球の環境を循環させるのが僕たちの仕事なんだ。
理解できたかな。かなり驚いているようだね。
コン太:よくわからないけど、ここにある土はあなたたちが作ってくれたんだね。知らなか
った。聞くけど、ここの赤松林は森の中でも特に倒れている木が多いけど何故?
キノコ:ここが台風の通り道だったからさ。この倒れた赤松たちが防風林となって風を弱め
てくれたから、動物村の被害はあれでもかなり抑えられたんだ。人間たちの世界で
は今年の台風で多く住みかが壊れ、多くの人間が亡くなる被害が出ている。
ポン吉:それじゃ、ここの赤松林は動物村を守るために犠牲になってくれたということだね。
感謝しなければいけないな。赤松さんたち、どうもありがとう。
キノコ:だから、早くここの赤松林を再生させなければいけないと、僕たちキノコ仲間がこ
こに集まっているんだ。
コン太:僕たちは皆さんに感謝しなければいけないね。ところで天狗さんのことも気になる
けど、キノコの妖精さんたちに聞きたいことがあるんだ。僕たちは巨大キノコの
「天狗の鼻」を探しているんだ。どうしても秋祭りに奉納したい。生えている場所
を知っていたら教えてください。
キノコ:君たちが言っている「天狗の鼻」とはキノコではないんだよ。あれは天狗さんに頼
まれて、キノコ仲間が倒木から土に還る途中の材料を持ち寄って、動物村の奉納用
に作ったものなんだ。君たちは天狗さんを助けたことがあるんだってね。天狗さん
がここに来て、今年こそ動物村のために松茸の香りの強い、大きなキノコを作って
くれと頼まれたんだ。近いうちに仲良し3 人組が探しに来ると言っていたから待っ
ていたんだよ。
ミミ :それ本当?天狗さんが道に迷って動物村に来たことがあるの。私たちがお手伝いし
て人間たちが住む世界に案内してあげたことがあるのよ。そうか「天狗の鼻」は天
狗さんがキノコさんたちにお願いして作ってくれたものなのね。
ポン吉:それじゃ~、どうしてここ数年、長老たちには見つけられなかったのかな?
キノコ:それはね、ここのところ松茸の香りが強い「天狗の鼻」が作れなかったからだと思
う。松茸が豊作の時はいっぱい「天狗の鼻」の中に練り込めるんだけど、最近は極
端に松茸の出来が悪い年が続いたんだ。だから松茸が練り込めなかったので、松茸
の香りだけで探すと見つからなかったのかもしれないね。良いものが作れなくてご
めんね。でも今年は大丈夫だよ。自信を持って作ったから是非持ち帰って奉納して
ね。天狗さんがしっかりと「天狗の鼻」に霊力を注いでいたから、きっと動物村を
守ってくれるよ。
ミミ :うれしい。それじゃ「天狗の鼻」はできていて、持ち帰へることができるのね。長
老も動物村の全員も大喜びするわ。「天狗の鼻」を奉納することは、天狗さんが私
たちを守っているということになるのね。
キノコ:今年は向こうに見える岩山の裏側にある赤松林で作ったからそこへ行けばいい。
ポン吉:ありがとう。いっぱい色々なことを教えてもらったな。そして「天狗の鼻」が持ち
帰れるなんてうれしいよ。大きいから作るのも大変だったのだろうね。感謝します。
ミミ :私たちは天狗さんにも感謝しなければいけないわね。
キノコの妖精たちと別れた3人組は教えられた赤松林ですぐに「天狗の鼻」を見つけました。
今年の動物村の秋祭りは例年以上に盛り上がったものになりそうです。