木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

初物

2007年06月26日 | 江戸の味
 江戸っ子の初物好きは高名である。
 「目に青葉 山ほとどきす初かつお」
 の句で初鰹が有名だが、江戸っ子は、鰹にとどまらず、いろいろな初物に高値をつけて、見栄を張った。
 たとえば、江戸の初期である慶長十九年(1614年)には、三浦浄心という人に言わせると、初鮭なども、「三十両、いや五十両に値する」と大げさなことを言っている。
 1668年には、幕府も商人の暴利を防ぐ意味と、庶民が奢侈に流れないようにする意味で、魚、野菜などの初売りの時期を定めた。
 「さけ八月より、あんこう十一月より、生たら十一月より、まて十一月より、しらうを十二月より」
 最初はある程度の効果を得ていたようだが、次第に守られなくなり、形骸化していった。
 江戸時代は封建社会で独裁者による恐怖政治が行われていたかのように思っている人も多いが、幕府の命も、意外なくらい人々は守っていなかったようなきらいがある。このような禁止令というのは、いろいろな形で庶民に「あれはするな、これもするな」と命令しているのであり、しばしば制定されたが、その効果は薄かったのが現実である。この件に関しては、寛政の改革に触れるにあたって、また述べることにする。
 さて、初鰹。
 江戸っ子が初鰹を好んだのは、鰹に「勝魚」という当て字をはめ込んだのと、初鰹を食べると寿命が七十五日延びるという迷信があったからである。

江戸食の履歴書 平野雅章 (小学館文庫)