木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

天井の花嫁

2010年02月12日 | 言葉について
天井の花嫁とは、何だろうか。
ホラー映画ではない。
ネズミの異称だそうである。

忌み言葉というものがある。
今でも、たとえば、スルメをアタリメと言い換えたりする。
あるいは、受験生のいる家庭では「滑った」などという言葉を使わないといった類である。
口にすると縁起が悪いとされるのが忌み言葉である。
時には、使わない訳にもいかない時があるので、その場合は言葉を置き換える。

ネズミは古来から、農作物に多大な被害を与える動物であった。
今でも駆除するには、苦労する。
ましてや、昔はもっと大変だった。
そこで、昔の人々はネズミを祀ってしまった。
ネズミを霊的なものとすることによって、祈祷や信仰で害を防げると考えたのである。
ここから発展して、「ネズミ」という言葉を発すると、ネズミの霊を刺激してしまい、ネズミの害が増えると考えた。
そこで、「ネズミ」の言い換えが生まれた。
冒頭の「天井の花嫁」もそういった発想から生まれた語である。
その他の置き換え語には、「嫁が君」「嫁様」「嫁殿」「姐っこ」「姫様」「福太郎」などがある。
ネズミがなぜ嫁関連の言葉に置き換えられたのは、寡聞にして知らない。

この忌み言葉には面白い例が多い。
猟のとき「犬」と口にすると、獲物に聞きつかれて逃げられてしまうと考えられたところから、漁師は犬を「へだ」「せた」「宍子(ししのこ)」などと置き換えたという。

また、江戸の吉原は、葦(あし)が生える土地柄であったため「葦原」となるところを、「あし(悪し)」を「よし」と置き換えた。

「蛇」も忌み言葉である。
噂をすれば影、のことわざのように、「蛇」と口にすると、蛇を呼び寄せてしまう、と考えたのである。
青大将なども、置き換えた言葉がそのまま通用するようになったのであろう。

樋口清之 「日本人の歴史・11(禁忌と日本人)」 講談社

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