変なものが届いた。横幅40センチくらいの物だ。持ってみると軽い。横の部分には毛が付いている。実は鯨のひげだ。ヒゲといっても、普通に想像する髭ではなくて、鯨の口の中にある人間で言うと歯の部分になるらしい。大きいほうがイワシ鯨で小さいほうがミンク鯨の一部らしい。なぜ、こんなものが送られてきたのか?
先日、突然長崎の鯨肉加工業者からメールが入った。
当社、鯨のヒゲを加工していただける人を探しています。
以前、こちらには、鯨のヒゲの加工業者がいましたが、
現在高齢の為、廃業してしまいました。その方に聞きますと、
鯨のヒゲの細工は、竹細工と同じだよ。と言います。洗って、干して、皮をむいて、プレスする。
順番はわかりませんが、どうでしょうか?
こちらには、べっ甲細工もありますが、
鯨のヒゲは、べっ甲より油が多く、べっ甲の機械では
加工できないと言われました。原料の鯨のヒゲ板はたくさんあります。
作りたいものは、「耳かき」です。
こちらに以前販売していたものはあります。当社、元来鯨肉の販売会社で、
鯨のヒゲの細工は、何のノウハウも持ちません。
お話に乗っていただけませんでしょうか? という内容です。
まず竹割り包丁を入れてみた、硬くて全然、刃が入っていかない。剪定鋏で切り目を入れてから包丁で割ろうとするが全然割れない。竹のように繊維に沿って、パリッ、パリッと割れていかない。しからば、お湯で煮て柔らかくしてから挑戦。お湯で煮ると幾分柔らかくなり包丁も何とか入った。4ミリ角くらいの材料を作り切り出しナイフで削っていく、暖かいうちはナイフが入っていくが、乾いてくると硬くなってくる。「ウーン、これはナイフで削るより、サンドペーパーで削ったほうが良い様な素材だ。耳掻きに近い形状までナイフで削った後、先を火で曲げてみた。竹よりも簡単に曲がる、水で冷やしてやると曲がったままの形状で固まる。この部分 に関しては竹よりもうんと扱いやすい素材である。しかし、耳掻きの先の曲がった部分を削ろうと思ったら、今度は火を掛けて加工した部分は硬直してナイフで削ろうとしてもバリバリしてしまう。うーん、中々厄介だ。これは先にお湯で柔らかくしてから削り、最後に火曲げをする順番でやらないといけないな。
鯨のヒゲは弾力があり、文楽人形の糸にしたりとか、釣竿の先の部分に使ったりするそうだ。何枚も張り合わせて太鼓のバチを作ったりもするそうだ、耳掻きにも丁度良い弾力なのだろう。
しかし、この仕事は竹工芸より木工芸の仕事のような気がする。果たしてどうなることやら?