竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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枕頭に陽炎せまる黒田武士 高山れおな

2019-04-10 | 今日の季語


枕頭に陽炎せまる黒田武士 高山れおな

黒田武士は、言うまでもなく「酒は飲め飲め……」の「黒田節」に出てくる福岡は黒田藩の豪傑だ。歌われているのは、母里 (もり)太兵衛なる人物。大杯になみなみと注がれた酒を一気に飲み干したことから、小田原攻めの功績で福島正則が秀吉から拝領した名槍を褒美にもらったという、イッキ飲みの元祖である。若年のころの私は、「日の本一のこの槍を、飲み取るほどに」とは変な歌詞だなと思っていた。槍が飲めるのか、比喩にしても無理がある、と。でも、何のことはない。「飲んで、(その結果として)取る」という意味だったのだ。句は「飲み取った」あとの太兵衛の様子を詠んでいる。この着眼が面白い。さすがの酒豪もマイってしまって、明るくなっても起きられずにグーグー眠っている。既にして日は高く、何やらもやもやと怪しいゆらめき(陽炎)が、太兵衛の枕頭に迫っているではないか。素面(しらふ)であればすぐさま跳ね起きるところだが、ただならぬ気配を察知することもなく、いぎたなく眠りこけている黒田武士……。春ですなあ、という感興だ。ちなみに「黒田節」が全国的に有名になったのは、 1943 年に赤坂小梅がレコードに吹き込んでから。雅楽「越天楽(えてんらく)」の旋律が使われている。『ウルトラ』(1998)所収。(清水哲男)


【陽炎】 かげろう(・・ロフ)
◇「陽炎燃ゆる」 ◇「糸遊」(いとゆう) ◇「遊糸」(ゆうし) ◇「野馬」(やば) ◇「陽焔」(ようえん) ◇「かぎろい」 ◇「かげろい」
春のうららかな日に、日射のために熱くなった空気で光が不規則に屈折されて物の形がゆらいで見える現象。糸遊。

   例句          作者

万歩計つけて陽炎濃きところ 中村菊一郎
花街に黄檗の寺陽炎へり 福島壺春
斑鳩の陽炎よりの出土なる 酒本八重
犬放つうしろ姿や野かぎろひ 及川 貞
なりふりをかまわずにみなかげろえり 中里麦外
陽炎やふくらみもちて封書来る 村越化石
先頭は陽炎連れてゆくごとし 鈴木とめ子
陽炎によごれ気安し雀らは 西東三鬼
かげろふの我肩にたつ紙子かな 芭蕉
濃かげろふ駱駝に乗つて八束逝く 白井眞貫

陽炎に子等の声だけ忠魂碑  たけし






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