初期のビートルズと交流のあった写真家のアストリッド・キルヒャーが亡くなった。彼らの2枚目のアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』(63)のモノクロ、ハーフシャドーのジャケットのイメージはアストリッドが撮った彼らの写真が基になっている。
そのアストリッドと幻のビートルズメンバーで、早世したスチュアート・サトクリフ(スティーブン・ドーフ)との恋を中心に、ハンブルグでの“ビートルズ前史”を描いた映画『バックビート』があった。アストリッドを演じたのは「ツイン・ピークス」でローラ・パーマーを演じ、“世界一美しい死体”と称されたシェリル・リーだった。
『バックビート』(94)(1994.4.14.渋谷エルミタージュ)
ビートルズがこの世に現れてから30年余りがたって、いよいよこうした一種の伝記映画が作られる時代になった。そして、この映画の出来は、一般の青春映画と比べても、そう悪くはないと思う。ただし、そこにはビートルズファンとしての自分の思い入れが多分に加味されていてることは否めない。
それは、これだけそれぞれのメンバーのイメージに違和感を持たせないキャスティングをされると(ジョンの性格破綻者ぶり、ポールの嫌味なところ、ジョージの甘さ…といったマイナス面もきちんと描いている)、あるいは音楽的にも見事にコピーされると、もう一人の幻のメンバー、ピート・ベストの存在も含めて、もうそれだけでたまらない気持ちになってしまうからだ。
ただ、自分でも不思議だったのは、例えば最近の『チャーリー』(93)や『ドラゴン/ブルース・リー物語』(93)における、今の俳優による再現芝居にはひどく違和感を覚えたのに、この映画のビートルズたちにはそれがなかったことである。それは、もともと彼らは映画の人ではないから、俳優が再現芝居をしても許せるが、視覚イメージが焼き付いている俳優の演技を後の俳優が再現するのは許せないということなのかもしれない。
映画を見た後、併設されていた「もうひとりのビートルズ展」を見た。本物のスチュアートの絵やアストリッドの写真を目の当たりにして不思議な気分になった。