『季節のない街』(山本周五郎)(1981.11.8.)

最近、本(特に小説)を読むのがおっくうになっている。そんな中、久しぶりに読む気力を起こしてくれたのがこの小説だった。その動機は、ここのところ伴淳三郎と芥川比呂志が相次いで亡くなって、2人に共通するものとして思い当たったのが、黒澤明監督の『どですかでん』(70)での名演だった。とはいえ、なかなか見られない映画なので、この際原作をじっくり読んでみようと思ったのだ。
というわけで、どうしても映画を思い浮かべながら、映画と比べながら読んでしまったので、あーこの場面は映画の方がよかったとか、この描写は小説ならではだなとか、読みながら妙な感じ方をしていた。
それは例えばこんな具合だ。小説も映画もたんばさんが狂言回しの役割を果たしている。黒澤は映画にしやすいエピソード(自分が好きなエピソード?)を選んでいる気がした。「とうちゃん」は小説のイメージのままに三波伸介が見事に演じていた、などなど。小説を読んでいるというよりも、読みながら映画のシーンを思い出そうとしていたのだろう。
ところで、庶民の悲哀や嫌らしさ、あるいは人情、バイタリティなどを書かせたら山本周五郎の右に出る者はいないだろう。浪人時代に読んで大いに感化された『さぶ』『ちいさこべ』『ちゃん』『赤ひげ診療譚』のような時代物から、『青べか物語』のような現代物まで、貧しいながらもたくましく生きる人々の姿が浮き彫りにされている。自分にしても、金持ちが登場する夢物語よりも、こうした話の方が性に合っている。
と言いながら、自分と同年代で山本周五郎を読む奴なんてあまりいないだろうなあとも思う。そう考えると、ひどく自分に若さがないような気分になる。
【今の一言】42年前に二十歳の自分が書いた何とも拙い文章だが、あの頃から今に至るまで、この原作も映画も、そして武満徹の音楽も、大好きであることに変わりはない。そして今、宮藤官九郎によるドラマが作られた。

『どですかでん』
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