田中雄二の「映画の王様」

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『八犬傳』(山田風太郎)と人形劇「新八犬伝」

2024-08-16 20:05:40 | ブックレビュー

 映画『八犬伝』(10月25日公開)関連の取材予定が入ったので、原作となった山田風太郎の『八犬傳』(廣済堂文庫)を図書館で借りて読んでみた。

 『八犬傳』は、曲亭馬琴の伝奇小説『南総里見八犬伝』をモチーフに、馬琴と絵師の葛飾北斎との交流を描いた「実の世界」と「八犬伝」の「虚の世界」を交錯させながらの二重構造で描くという興味深い趣向。いわば「伝記」と「伝奇」の融合だ。 

 中でも虚構で正義を描く馬琴と、虚構で現実の闇を見つめる『東海道四谷怪談』の鶴屋南北との物語についての問答が印象に残る。ここには作家としての風太郎の思いや葛藤も投影されているのだろう。

 最後は盲目となった馬琴の口述を、息子の嫁で無学のお路が筆記する様子が描かれる。お路なくして八犬伝の完成はなかったのだ。風太郎は「これを馬琴のえがく神変をしのぐ奇蹟といわずして何といおう」と書き、「『八犬傳』の世界を、江戸草創期における『虚の江戸神話』とするならば、この怪異壮大な神話を生み出した盲目の老作家と女性アシスタントの超人的聖戦こそ、『実の江戸神話』ではあるまいか」とも書いている。ここで初めて虚と実が一つになり、実が虚をしのいだのだ。見事な大団円である。

 さて、「八犬伝」については、NHkの人形劇「新八犬伝」(73~75)脚本:石山透、音楽:藤井凡大、人形:辻村ジュサブロー、語り(黒子):坂本九で親しんだ。

 九ちゃんの名調子に乗って繰り出される「因果は巡る糸車、巡り巡って風車」「抜けば玉散る氷の刃、名刀村雨」「八犬士の前に立ちはだかる玉梓(たまずさ)が怨霊」「さもしい浪人、網干左母次郎(あぼしさもじろう)」「関東管領、扇谷定正(おおぎがやつさだまさ)」「本日、これまで!」といった口上や名文句が印象的だった。九ちゃんが歌う挿入曲「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」とエンディングテーマ「夕やけの空」もよかった。

 『七人の侍』(54)『荒野の七人』(60)のメンバーを覚えたのと同じように、犬江親兵衛「仁」、犬川荘助「義」、犬村大角「礼」、犬坂毛野「智」、犬山道節「忠」、犬飼現八「信」、犬塚信乃「孝」、犬田小文吾「悌」といった具合に、八剣士の名前と珠の字も覚えたものだ。

 調子に乗って『南総里見八犬伝』日本の古典文学 15 ジュニア版 (福田清人・偕成社)を読んだりもした。ちょうど中学生の頃だった。


「夕やけの空」
https://www.youtube.com/watch?v=i2e9SH7sRqs

「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」
https://www.youtube.com/watch?v=1XNVetkB0Y8


『里見八犬伝』(83)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d9178f195e1a1962b8d60d6ffd48fdbb


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