田中雄二の「映画の王様」

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『タンポポ』再見

2018-03-07 06:38:06 | 映画いろいろ
 まずは1985年、初見時のメモを。



 伊丹十三の映画の特徴は、一つのテーマに対するこだわりの強さや、そのテーマに関する異常なまでのリサーチの跡が感じられるところだが、『シェーン』(53)を下敷きにし、“ラーメン・ウエスタン”を名乗るこの映画では、それらは “食”という一点に注がれている。

 そして、未亡人のタンポポ(宮本信子)が営む売れないラーメン屋を、5人の男たちが究極の味を持ったラーメン屋に変えるというメインのドラマの間に、“食べる”という人間の根源的な営みについてのさまざまなエピソードを挿入していくのだが、これがあまり本筋と噛み合わず、何だかはぐらかされたような、もったいぶったような印象を抱かされてしまった。

 また、ディテールへのこだわりや、目の付け所という点では、なるほどとは思わされるものの、どこか、見る者を一歩下に見るような、自らの物知り度を自慢するかのような視点が鼻に付くところもある。この点、ちょっとウディ・アレンに似ている気もする。こうした臭みが消えたらもっと見やすくなるかもしれないとは思いつつ、否、臭みが消えたら伊丹映画とは言えないかとも思う。あー悩ましい。

 さて、それとは別に、加藤嘉、桜金造、安岡力也らがとてもいい味を出している。そして、大滝秀治、高木均、二見忠男、横山あきお、辻村真人、原泉、中村伸郎、田武謙三、粟津號、榎木兵衛、上田耕一…といった怪しさ満載の脇役たちを見ているとそれだけで楽しくなってくるところがある。特筆すべきは、ノッポさんこと高見映の声が聞けたこと。こうした脇役の使い方のうまさには、伊丹十三のセンスの良さが感じられる。


 で、30数年ぶりに何の気なしに見始めたら、これが結構面白くて、結局最後まで見てしまったばかりでなく、その後に放送された『タンポポ』のニューヨークでの上映にまつわるドキュメンタリー「タンポポ、ニューヨークへ行く」まで見てしまった。そして、公開時はこの映画が持っていた新しさに、自分自身が付いていけなかった結果の不満だったのかもしれないと思い直した次第。

 最も好きなエピソードは、死の床にありながら、家族のためにチャーハンを作ってから死ぬ主婦を三田和代が演じた「走る男」。ラストシーンの、去っていくゴロー(山崎努)を見送るビスケン(安岡)の姿もちょっとウエスタンぽくていい。

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