田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『許されざる者』(92)

2020-12-07 06:54:12 | All About おすすめ映画

イーストウッド監督の最後の西部劇



 この映画は、クリント・イーストウッド監督・主演の西部劇です。イーストウッドは、西部劇ドラマ「ローハイド」に出演したものの、ハリウッドではスターにはなれず、イタリアに流れて『荒野の用心棒』(64)に主演して評判となり、逆輸入の形でハリウッドに戻ったという経緯もあり、西部劇に対しては屈折した思いを持っていました。

 それ故、スター兼監督となった後も『荒野のストレンジャー』(73)『アウトロー』(76)『ペイルライダー』(85)と、西部劇にこだわり続けてきたイーストウッドは、この『許されざる者』を“最後の西部劇”と銘打ち、『荒野の用心棒』のセルジオ・レオーネ監督と『ダーティハリー』(71)のドン・シーゲル監督に捧げました。

 かつて冷酷な殺し屋と恐れられたマニー(イーストウッド)は妻と出会い銃を捨てます。しかし、妻亡き後は、幼い子供たちと共に極貧生活を送っていました。そんな中、昔の仲間ネッド(モーガン・フリーマン)が“賞金稼ぎ”の話を持って訪ねてきますが、彼らの前に保安官(ジーン・ハックマン)が立ちはだかります。

 イーストウッドは、善悪のあいまいさ、暴力の連鎖、無法と法のはざま、人間の業や恨みといったテーマを、激しいバイオレンスシーンの中で提示しながら、マニーをまるで亡霊のような、西部の伝説的な人物として描いています。それ故、どこかほら話を見ているような不思議な趣が漂い、それがこの映画の魅力の一つとなっています。

 イーストウッドが作る西部劇はアメリカでは不評でしたが、この映画がアカデミー賞で作品賞と監督賞を受賞したことでようやく巨匠の仲間入りを果たしました。そして彼自身も西部劇の呪縛から解放されたのです。受賞は逸したものの、レニー・ニーハウスの音楽とジャック・N・グリーンの撮影も見事でした。

 後に、渡辺謙主演で日本版としてリメークされた同名作(13)も製作されました。北海道に舞台を移したこちらもなかなかの力作に仕上がっています。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『映画の森』コロナ下で相次... | トップ | 『フラガール』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

All About おすすめ映画」カテゴリの最新記事