『網走番外地』シリーズの橘真一、『昭和残侠伝』シリーズの花田秀次郎はリアルタイムでは見ていないが、子供心に、高倉健という人には凄みや怖さを感じたものだった。若いころの彼は親しみが持てるスターではなかったのだ。
初めて映画館で見た健さんはシドニー・ポラック監督、ロバート・ミッチャム共演の『ザ・ヤクザ』(74)。役名は田中健。東映任侠劇の延長線上にあるような妙なハリウッド映画だった。
そして『新幹線大爆破』(75)の屈折した犯人、沖田哲男を経て、森谷司郎監督の『八甲田山』(77)の徳島大尉と山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』(77)の島勇作で、健さんは怖さや凄みに加えて、弱さや人間味を感じさせるキャラクターを手に入れる。特に『幸福の黄色いハンカチ』で出所した勇作がビールを飲むシーンは絶品だった。それについては以前コラムで書かせてもらったことがある。
http://beer.enjoytokyo.jp/2010/column/
そうしたキャラクターは、仁侠映画をパロディーにしたような、倉本聰脚本、降旗康男監督作『冬の華』(78)の加納秀次と、和製『シェーン』とも呼ぶべき『遙かなる山の呼び声』(80)の田島耕作でさらに広がり、『駅 STATION』(81)の三上英次、『居酒屋兆治』(83)の藤野英治、『夜叉』(85)の修治などで、寡黙で孤独だが、実は心優しく情にもろい不器用な男の像が確立されていった。その頂点を成すのが『鉄道員(ぽっぽや)』(99)の佐藤乙松役だろう。やせ我慢が身上の男には北海道や極地が格好の舞台となった。
異色だったのは89年だ。リドリー・スコット監督、マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシア、松田優作共演の『ブラック・レイン』 では、マイケルとコンビを組む松本刑事を渋く演じ、向田邦子原作の『あ・うん』では、コミカルな味も見せながら門倉修造役を好演した。この年は何だか健さんの新たな魅力を発見したようでうれしかった。また、野球音痴の健さんが中日ドラゴンズの内山監督を演じた『ミスター・ベースボール』(92)も、ある意味コメディーだったのではあるまいか。
遺作となった『あなたへ』(12)の刑務官、倉島英二役は、映画自体が緩い感じがして困ったが、今から思うと、80を超えた健さんにふさわしい映画だったのかもしれないという気もしてくる。
そんなことはあるはずがないのだが、何故だか高倉健は決して死なない気がしていた。それは健さんが“高倉健”というキャラクターを演じ切った結果なのだろう。まさに彼こそが“最後の映画スター”だったのだ。
久しぶりに、朝川朋之の名曲『あ・うん』のテーマを聴いている。
http://www.youtube.com/watch?v=juWUbureBR4
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます