田中雄二の「映画の王様」

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『ある人質 生還までの398日』

2021-03-01 13:12:44 | 新作映画を見てみた

見せ方がとてもうまい映画

 2013年、内戦中のシリアに渡った24歳のデンマーク人カメラマン、ダニエル・リュー(エスペン・スメド)が、IS(イスラム国)に誘拐され、拷問を受けたあげく、身代金を要求される。デンマーク政府の方針は「テロリストとは交渉しない」。従って、家族が身代金集めに奔走する、という実話の映画化。

 劇中の、人質救出の専門家のセリフにもあったが、報道と称して、無鉄砲で無知な若者が、身勝手な動機から危険地帯を訪れた結果、身柄を拘束され、己のみならず、家族の人生をも狂わせ、始末をつける者に多大な迷惑をかける、という構図は日本でも起きた。

 もちろん、ISなどの過激派組織による、非人道的な行為や身代金ビジネスは決して許されるものではないが、危険を承知しながら、自らの意志でそこに赴き、捕らえられた者に全く非はないのか、彼らに見極めの甘さや油断はなかったのか、と考えると複雑な思いがするのは否めない。だから、この家族による奇跡の救出劇を見ても、美談ではなく、苦い話にしか映らないのだ。

 ニールス・アルデン・オブレビ監督と共同監督のアナス・W・ベアテルセン(人質救出の専門家役)は、何気ない日常が一転、悪夢となるという、日常と非日常の対比を巧みに見せながら、サスペンスに緩急をつけて映画を引っ張っていく。題材的なことを考えれば、面白いと言っては語弊があるのだが、見せ方がとてもうまい映画だと感じさせられた。

 この映画を見ながら、『Little Birds-イラク戦火の家族たち-』(05)という映画を作った、ビデオジャーナリストの綿井健陽氏にインタビューした時(『ビッグイシュー日本版29号』)のことを思い出した。彼は、危険な現場に行く理由を、「今そこで何が起きているのか知りたい、見たい、確かめたい。そして、それを伝えたいということ」だと語っていた。確かにそれも真理の一つではあるのだが…。

 

 


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