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『TATAMI』

2025-02-13 20:45:19 | 新作映画を見てみた

『TATAMI』(2025.2.4.オンライン試写)

 世界女子柔道選手権がジョージアの首都トビリシで開催された。イラン代表選手のレイラ・ホセイニ(アリエンヌ・マンディ)と監督のマルヤム・ガンバリ(ザーラ・アミール)は、金メダルを目指して順調に勝ち進んでいたが、イラン政府から敵対国であるイスラエルの選手との対戦を避けるため棄権することを命じられる。

 自分と人質に取られた家族にも危険が及ぶ中、レイラは政府に従ってけがを装って棄権するか、それとも自由と尊厳のために戦い続けるかという人生最大の決断を迫られる。

 『SKIN スキン』(19)でアカデミー短編実写映画賞を受賞したイスラエル出身のガイ・ナッティブ監督と、『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したイラン出身のザーラ・アミールが共同で監督した、実話をベースに描いた社会派ドラマ。

 昨年の東京国際映画祭のコンペティション部門で審査委員特別賞と最優秀女優賞(アミール)を受賞。映画史上初めてイスラエルとイランにルーツを持つクリエーターが協働した作品とされ、製作に参加したイラン出身者は全員他国に亡命し、映画はイランでは上映禁止となっている。アミールはもともとイランから亡命した女優。身に危険が及ぶかもしれないということで、映画製作は秘密裏に行われたという。

 2019年に東京で行われた柔道世界選手権で、イランのモラエイ選手がイラン政府からの命令で棄権するよう強制された事件にインスパイアされた作品。モラエイ選手は男性だが、この映画の主人公は女性で祖国には夫と子どもがいるという設定に変わっている。

 そのため、スポーツへの政治介入や中東の複雑な情勢に加えて、イランとイスラエルの“代理戦争”に振り回される女性たち、イラン社会の女性への抑圧というテーマが生まれた。レイラがヒジャブ(頭をおおう布)を外すシーンが、彼女の決意の表明として印象に残る。

 とはいえ、柔道の試合とレイラたちが置かれた状況が並行して描かれるので、メッセージ性とスポーツ映画(柔道の試合が描かれる映画は珍しい)としてのバランスがよく取れている。また、緊迫感を醸し出すモノクロ映像、和太鼓の音色、英語の実況(技名などで日本語が混ざるのが新鮮に聞こえる)なども効果を上げている。


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