田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『小さな巨人』

2015-09-09 09:00:23 | 映画いろいろ

『小さな巨人』(70)(1980.4.28.月曜ロードショー)

 全編に皮肉なユーモアがあふれるニューシネマ・ウエスタン。ダスティン・ホフマンの声が原語ならもっとよかったのかな。インディアンの族長をやっていたじいさま=チーフ・ダン・ジョージがお見事。インディアンの悲劇や誇りをさり気なく表現していた。フェイ・ダナウェイがチョイ役で登場するのも見もの。珍しくカスター将軍を徹底的な悪人に仕立てていたところも面白かった。ラストのホフマンのメーキャップがすごい。

 ジェフ・コーリー演じるワイルド・ビル・ヒコックが、強がってみせるのだが、足が短くてテーブルの上に乗らない場面は傑作だった。


西部開拓期のフォレスト・ガンプ

 白人の家に生まれたが、孤児となり、先住民に育てられ“小さな巨人”と呼ばれた男がいた。やがて彼は白人の怪しい聖職者に引き取られるがなじめずに逃亡。ニセ薬売りを経てガンマンとなるが、人を撃てないので商人になって北欧移民の娘と結婚する。ところが、だまされて店を手放し、妻を先住民に奪われ、その後は先住民と騎兵隊の間を行き来することに…。

 西部開拓時代から生き続け、121歳になったジャック・クラブ(ダスティン・ホフマン)がたどった流転の人生を、ジャック本人を語り部として、実在のワイルド・ビル・ヒコックやカスター将軍らと絡めながら描いた意欲作。監督は『俺たちに明日はない』(67)のアーサー・ペンで、ニューシネマを代表する一本とされる。

 同じく1970年に製作された『ソルジャー・ブルー』同様、タブーとされていた騎兵隊による先住民虐殺のシーンを入れながら、カスター隊が全滅した「リトルビッグホーンの戦い」も描いてバランスを取っている。

 つまり、白人対先住民の戦い、白人にも先住民にも成り切れないジャックの姿を通して、アメリカ西部開拓の矛盾を鋭く突くという手法。そこには当時の、ベトナム戦争への屈折した思いが反映されているのだろう。

 ところが、ホフマンと先住民の族長役のチーフ・ダン・ジョージのひょうひょうとしたたたずまいが生み出すユーモアや、「私の心は鷹のように空を飛ぶ」「死ぬにはいい日だ=Today is a Good Day to Die」など、達観を感じさせる族長の含蓄あるセリフの効果で、重いテーマなのにちっとも暗さを感じさせないところがある。

 久しぶりに再見し、この映画を壮大な寓話やホラ話の類だと考えれば、同じく、ユニークな主人公の数奇な人生を通してアメリカ史を眺めた『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)とも通じるものがあると気づかされた。


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『天使が消えた街』

2015-09-07 08:45:31 | 新作映画を見てみた
こちらは睡魔に悩まされた



 2007年、イタリアの古都シエナで英国人女子留学生が殺害され、ルームメートの米国人女子留学生が容疑者として逮捕された。容疑者が若い美女だったため事件はスキャンダルに発展。裁判の行方が注目を集める中、報道は過熱していく。

 妻に去られ、幼い娘とも離れ離れになった落ち目の映画監督トーマス(ダニエル・ブリュール)は、事件の映画化をもくろみ、裁判中のシエナを訪れるが、脚本作りは全く進まない。

 監督のマイケル・ウィンターボトムは、初めから事件の“謎解き”を意図して撮ってはいない。だからミステリー映画としての面白さは求められないが、それにしても全体的に中途半端な印象を抱かされるのは否めない。

 実際に起きた事件を題材に、トーマスの葛藤や苦悩を通して、親子関係や報道のあり方を描きたかったのだろうが、抽象的過ぎて、結局何が語りたかったのかと思わされる。トーマスはコカイン中毒で幻覚に悩まされるが、こちらは睡魔に悩まされた。

 あえて見どころを探せば、古都シエナでのロケと、トーマスに協力するジャーナリストを演じたケイト・ベッケンセイルのセクシーな魅力か。
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【ほぼ週刊映画コラム】『ヴィンセントが教えてくれたこと』『Dearダニー 君へのうた』

2015-09-05 18:01:36 | ほぼ週刊映画コラム
TV fan Webに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

老優の存在感と脚本のうまさで楽しませる
『ヴィンセントが教えてくれたこと』と『Dearダニー 君へのうた』

 

詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1014632
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『特攻大作戦』

2015-09-03 10:00:33 | 映画いろいろ

久しぶりにテレビで”十二人の汚れた男”を。 



 第二次大戦下、米軍のライズマン少佐(リー・マービン)は、フランスの古城を根城にしたドイツ軍司令部を壊滅させるべく、重罪犯の元兵士12人を訓練し、彼らを率いて敵地に乗り込む。監督はロバート・アルドリッチ。

 『特攻大作戦』とは内容をシンプルに言い当てたいい邦題だが、この映画の原題は「The Dirty Dozen 汚れた1ダース(12人)」だから、邦題は『十二人の怒れる男』(57)ならぬ「十二人の汚れた男」でもよかったのかなとも思う。

 12人のメンバーは、ジョン・カサベテス、チャールズ・ブロンソン、ジム・ブラウン、クリント・ウォーカー、テリー・サバラス、ドナルド・サザーランド、トリニ・ロペス、コリン・メイトランド、トム・バズビー、ベン・カルザス、スチュアート・クーパー、アル・マンシーニ。軍の上層部として、アーネスト・ボーグナイン、ロバート・ライアン、ジョージ・ケネディ、ラルフ・ミーカー、ロバート・ウェバーも出てくる。今ではほとんど見られなくなったが、かつては、この映画のような、男くさい俳優たちが繰り広げる集団劇というジャンルが確かに存在していたのだ。

 初めてこの映画をテレビで見た中学生の頃、『荒野の七人』(60)などと共に一生懸命にメンバーの名前を覚えた。一体あの熱意の源はどこからきていたのだろうか。

 さて、この映画、前半は『七人の侍』(54)『荒野の七人』にも通じるメンバー集めとキャラクター紹介を、中盤は訓練の中に団結と友情が結ばれていく変化を、そして後半は作戦実行の様子を描く、という三段構えの面白さがある。ただ、次々に死んでいく彼らの姿に男気を感じながら、ナチスに対する容赦なしの残虐シーンへの反発も浮かぶ、という相反する思いが交錯するのが困る。

 『めぐり逢えたら』(93)では“男が泣く映画”として語られ、タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』(09)にも大きな影響を与えたことを考えると、アメリカ人はこの映画をあくまでも娯楽作として捉え、残虐シーンについてもあまり深くは考えないのかと少々疑問を感じる。

 ところで、多彩な登場人物たちを再登場させるラストの“カーテンコール”は、余韻を残す意味でも集団劇にはもってこいの手法。『大脱走』(63)からこの映画を経て『コマンド戦略』(68)へと続いた。名脇役のリチャード・ジャッケルが、何と『特攻大作戦』と『コマンド戦略』の両方に出ていた! などという発見もあって楽しかった。

 だが、これがベトナム戦争が絡んだ映画のカーテンコールになると余韻よりも哀愁の方を強く感じさせられた。『アメリカン・グラフィティ』(73)しかり、『ディア・ハンター』(78)しかりである。

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『テッド2』

2015-09-02 10:00:10 | 新作映画を見てみた

さすがにここらで打ち止めだろう



 見た目は愛くるしいテディベアだが、中身は超下品な中年オヤジのテッド(声:セス・マクファーレン)と、持ち主のマーク(マーク・ウォールバーグ)との友情を軸に描く。マクファーレン監督による下ネタ満載のコメディーの第2弾。

 オープニングはバズビー・バークレー調のミュージカルもどきでテッドが踊る。そもそも人間同様のテディベアがいること自体があり得ないのだが、今回はテッドが人間の女性と結婚し、父親になるというさらに悪ノリな展開に。その上、テッドは人間なのか?という裁判を結構真面目に描いているのだが、マイノリティに対する差別問題に結び付けたのはちとやり過ぎの感もあり。

 今回も下品な下ネタ、楽屋落ち、パロディ満載だが、もはやテッドの外見と中身とのギャップを知ってしまった上に、『荒野はつらいよ』を間にはさんで、すっかりマクファーレンの“手口”に慣れたせいか、前作ほどの面白さは感じない。さすがにここらで打ち止めだろう。

 相手役にアマンダ・セイフライド、ゲストとして、デニス・ヘイズバード、モーガン・フリーマン、そしてあの“還暦過ぎのアクションスター”も登場。前作に続いてサム・“フラッシュ・ゴードン”ジョーンズも姿を見せる。日本ではあまりピンとこないが、ハリウッドではマクファーレンの顔は意外に広いということなのか。

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『薩チャン 正ちゃん~戦後民主的独立プロ奮闘記~』

2015-09-01 10:43:48 | 新作映画を見てみた

独立プロの勃興を描いたドキュメンタリー


 タイトルの薩チャンは山本薩夫、正ちゃんは今井正のこと。二人は東宝を追われ、1950年代に独立プロを起こし、監督として数々の映画を製作した。本作は、この二人を中心に、新藤兼人、家城巳代治、亀井文夫、吉村公三郎なども加えて、当時を知る関係者にインタビューし、独立プロの勃興を描いたドキュメンタリー。

 『真空地帯』(52)『荷車の歌』(59)(山本)、『にごりえ』(53)『真昼の暗黒』(56)『キクとイサム』(59)(今井)、『裸の島』(60)(新藤)『雲ながるる果てに』(53)(家城)などの名場面もたっぷり見られる。

 山本や今井の映画には、共産主義、労働運動、平和運動、民主運動への共感と啓蒙、あるいは反権力という思想が根本に流れていたが、作られた映画は皆力強く、鋭く時代を捉え、社会問題を提起した。そして主義や思想云々は別にして、一本の映画として見ても見応えのある良作が多かった。

 後に、山本は大映、今井は東映を中心に“大手”に返り咲いて映画を撮ったが、それは、もともと彼らには職人監督としての優れた資質があり、どんなテーマを描いても一流の映画として仕上げる腕を持っていたからこそ可能だったのだ。

 本作は、女性プロデューサーの宮古とく子などから、貴重で面白い証言も得ているのだが、全体的には、彼らの業績をただ羅列しただけの平板な印象を受けるのが残念。彼らの暗部や屈折も含めてもう少し構成を工夫すれば、新藤の『ある映画監督の生涯 溝口健二の記録』(75)のような広がりを持ち得たかもしれない。

 この映画に出てくる映画が見たくなるのは、本編が持つ“映画力”に圧倒されるからに他ならない。

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