いささか食傷気味
舞台設定は『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』直後の世界。善悪のはざまや、正義のあり方に悩むヒーローに代わって、DCコミックに登場する悪党を集めて“スーサイド・スクワッド(自殺集団)”が結成される。
忘れないうちにメンバーを記しておこう。デッドショット(ウィル・スミス)、ハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)、キャプテン・ブーメラン(ディガー・ハークネス)、エル・ディアブロ(ジェイ・フェルナンデス)、キラー・クロック(ウェイロン・ジョーンズ)、スリップ・ノット(アダム・ビーチ)、カタナ(福原かれん)。それに、ジョーカー(ジャレッド・レト)とバットマン(ベン・アフレック)が絡む。
悪が極悪に立ち向かうという構図はなかなか面白いのだが、続きものの一種なのでまたしても中途半端な出来になっている。加えて、戦う敵もいま一つ冴えない。『X-MEN』も『ゴーストバスターズ』も、この映画も何だか同じような敵と闘っているように見えていささか食傷気味なのだ。
それにしても、マーベルコミックの「アベンジャーズ」とこのDCコミックシリーズは一体どこまで増殖し続けるのだろうか。よっぽどアメコミに精通していないとその面白さは分からないのではあるまいか。自分はもう何が何だか分からない状態になりつつある。
「朝日のあたる家」(アニマルズ)「悪魔を憐れむ歌」(ローリング・ストーンズ)「ボヘミアン・ラプソディ」(クイーン)など、音楽の使い方はなかなか面白かった。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
ゲーム感覚で見せる“ニュー時代劇”の続編
『超高速!参勤交代 リターンズ』
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1066630
堂々とした明朗喜劇
松竹の「花嫁シリーズ」の一編で監督は番匠義彰。
東京の大学に通う長崎のカステラ屋の息子(津川雅彦)をめぐる騒動を描いたたわいもない話なのに、適材適所に配された俳優、奥行きのあるセット、長崎ロケなどが相まって、堂々とした風格すら感じさせる明朗喜劇(今で言うラブコメ)に仕上がっている。
若手カップルは津川と倍賞千恵子、ベテランは佐野周二と月丘夢路、伴淳三郎と高橋トヨ、脇のコメディリリーフとして大泉滉と桂小金治というキャスティング。
津川演じる主人公がコーラスグループに所属している設定(リードボーカルは小坂一也)なので、随所に歌の場面が挿入される。(吹き替えはボニー・ジャックス)。グループの十八番が、ライバル会社日活の小林旭が歌った「北帰行」というのも面白い。
広島カープ25年ぶりの優勝の瞬間が近づいている。そんな中、重松清がカープ初優勝の年を描いた『赤ヘル1975』を読了した。
1975年の広島に、中学1年生のマナブが転校してきた。野球少年のヤスや新聞記者志望のユキオという友人を得たマナブは、次第に広島の街になじんでいく。同じ頃、広島カープに初優勝の可能性が…。
という小説を読みながら、自分にとっての1975年を思い出していた。それはこんな話だ。
1975年の東京に、中学3年生のUが尾道から転校してきた。映画と野球が大好きなオレとイノさんはなぜかUと仲良くなり、受験勉強を口実に、親戚のマンションの部屋に一人で暮らすUの部屋に入り浸るようになる。
一方、最下位に低迷する巨人を尻目に快進撃を続ける広島カープ。カープの魅力を熱く語るUに感化されていくオレとイノさん。王さん、長嶋さん、ごめんなさい。オレたち広島ファンになりそうです。
10月15日、カープ初優勝の試合も学校帰りにUの部屋のテレビで三人で見た。夕暮れの後楽園球場、9回表にゲイル・ホプキンスが高橋一三から放ったスリーラン、その裏、ピッチャーは金城基泰。柴田勲のレフトフライを水谷実雄がつかみ、優勝が決まった瞬間は今でもはっきりと覚えている。
うれしいような淋しいような妙な心持ちの中で、もう巨人中心で野球を見ることはないだろうなと漠然と考えていた。
その後、Uとは些細なことでけんかをして卒業式まで口を聞かなかった。二人の仲をなんとか修復させようと骨を折り、たくさんの映画を一緒に見たイノさんとも高校が違ったことでいつしか疎遠になった。あれから40年余り、あの二人は今どうしているだろうか。
小説を読みながら、そんな出来事が思い出されて、何度か目頭が熱くなった。
高峰秀子の夫としても知られた監督、脚本家の松山善三が亡くなった。自分にとってのリアルタイム作品では『人間の証明』(77)の脚本、監督作の『典子は、今』(81)がある。
以前、代表作『名もなく貧しく美しく(61)について書いたものを転載。
脚本家・松山善三の監督デビュー作。主人公のろうあの夫婦に扮した高峰秀子と小林桂樹が絶妙な演技を見せる。
最初に見た時は、何と簡潔で美しいタイトルなのだろうと思う一方、ここまで不幸や悲劇のつるべ打ちをしなくても…とやるせない気持ちにさせられた。
今回は、ろうあ、貧しさ、差別、そして主人公たちを襲う悲劇の連続を描きながら、どこか明るくしゃれたタッチを感じさせる画や俳優たち、いわゆる“東宝カラー”に救われるところが多分にあると感じた。
そして、ヒロインに訪れる唐突な死という点では、同じく松山が脚本を書いた成瀬巳喜男の『乱れる』(64)にも通じるやるせなさや不条理を感じさせられる。(『名もなく~』と『乱れる』とでは高峰と加山雄三の立場が逆だが…)
ところが、この『名もなく~』では、落ち込む父に比して、健気でたくましい息子が母の死をきちんと受けとめる姿が描かれる。ここに松山の主張があるのだと思う。未見だが『続・名もなく貧しく美しく』(67)では、残された父と子のその後の姿が描かれているという。
池袋の「新文芸坐」を取材した際、劇場スタッフの方が「『名もなく貧しく美しく』を見た年配のご夫婦が、『いい映画だったね』と泣きながら帰っていくのを見た時、『この人の人生にちょっとした印象を刻むことができた』と感じてうれしくなりました」と語ってくれたことを思い出す。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
名コンビによる久々の映画だが…
『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』
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http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1065510
もじゃもじゃ頭がトレードマークのコメディ俳優ジーン・ワイルダーが亡くなった。
彼は1970年代に活躍した名物俳優の一人。デビューは『俺たちに明日はない』(67)の端役だが、映った瞬間に彼だと分かる。こういう場合、特徴のある容姿は得だ。
『夢のチョコレート工場』(71)では、『チャーリーとチョコレート工場』(05)でジョニー・デップが演じたウィリー・ウォンカを演じたが、この映画は、ワイルダー云々というよりも、アンソニー・ニューリーとレスリー・ブリッカスによるミュージカルというイメージが強い。
74年が彼の絶頂期。『プロデューサーズ』(68)で出会ったメル・ブルックスの監督作、西部劇のパロディー『ブレージングサドル』(74)とホラーコメディー『ヤング・フランケンシュタイン』(74)に主演し、サン=テグジュペリ原作、スタンリー・ドーネン監督の『星の王子さま』(74)ではキツネを演じた。
アーサー・ヒラー監督のパニックコメディー『大陸横断超特急』(76)では、ジル・クレイバーグと共演、リチャード・プライヤーとの迷コンビも誕生する。私的にはこの映画がワイルダー出演作で一番のお気に入り。
日本語吹き替えの広川太一郎も傑作だった。太一郎、プライヤー、クレイバーグに続いて、今年はヒラーとワイルダーも相次いで亡くなり寂しい限り。
80年代に入るとワイルダーのキャリアは低迷し、監督も兼任した『ウーマン・イン・レッド』(84)が印象に残るぐらいとなった。その原因は二度目の妻をがんで亡くし、以後はがん患者の支援活動に力を注いだためだともいわれる。
ところで、ワイルダーの出演映画からは二つの大ヒット曲が生まれている。
1曲目は、『夢のチョコレート工場』で地味に歌われた「陽気なキャンディ・マン」。後にサミー・デイビスJR.の名唱によって全米ヒットチャートの1位を記録した。
https://www.youtube.com/watch?v=IwJAP_nIQ_I
音楽をスティービー・ワンダーが担当した『ウーマン・イン・レッド』からは、「心の愛」が生まれ、アカデミー賞の主題歌賞を受賞している。
https://www.youtube.com/watch?v=QwOU3bnuU0k
今日はこの2曲を聴きながらあのもじゃもじゃ頭を思い出してみるか。