硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

はつこい、なんです。 4

2016-05-19 22:36:30 | 日記
放課後、いつものように美術室に行くと、窓際の席で部長が、気持ちよさそうに居眠り。

安藤先生は、また、いらっしゃらないみたい。

私、そっと入って、イーゼルを立てて、書きかけのカンバスをのせると、椅子に座り下書きの続きをはじめた。

テーマは「真摯」

静かな美術室、絵の具の匂い、カーテンを優しく揺らす風、すべてがとても心地いいんです。

黙々と鉛筆を走らせていると、ドアを開いた。南先輩だ。

「堀越、きょうもはやいね」

ほっそりとした身体、長い手足、肩まで伸びた黒髪をなびかせて、颯爽と歩く、凛とした姿は、私のあこがれ。

でも、少し尖がっている性格が、玉に瑕。

「ぶちょう! 芳川ぶちょう! ほら、もう起きる! 」

部長の芳川先輩、もじゃもじゃ頭をかきながら、

「おおっ、おはよう。南ちゃん、きょうもすてきだね」

それは、南先輩に対する決まり文句なんだけど、気に入らないみたいで、いつも不機嫌になる。

「そんなことはいいから、早く、作品制作にとりかかりなさい」

実質の部長は南先輩。部員の中では、周知の事実。

「なにいってんの。それ見てごらんよ」

そういって、指さす方向には、30センチほどの、小便小僧の石膏像。

「んんっ」

南先輩、凝視すると、

「なっ。これ昨年につくったやつじゃん! 」

って、怒ったんです。それでも部長ったら、

「いやぁ。ばれてしまいましたか」

何食わぬ顔で、へらへらしている。南先輩、小便小僧像を持ちあげると、部長の顔の前に近づけ、

「嘘をついては、い・け・ま・せ・ん。恥ずかしくありませんか」

と、小便小僧を通して説教。部長、懲りたのか、

「うへっ。ごめんなさい」

といって、あやまった、何とも不思議な二人。

「おぃ~す」

次に、ドアを開けたのは、A組の小菅君、ちょっとチャラいけれど、ガチのアニオタ、作品も何とかと言うアニメのヒロイン。でも、絵、色彩、群を抜いて上手いんです。

「またやってるんっスか。すきだなぁ。ほんとは、二人、つきあってるんじゃないスか」

小菅君、ほんと、空気読まない人、私が焦ってしまう。

「こ~す~げ~。おまえ、そんなこと言っていいとおもってんのかぁ~」

南先輩、小菅さんのこめかみ、両手をぐうにして、ぐりぐりしている。

「うううっ。すいません。もういいません。ごめんなさい」

部長、その様子を見て、微笑んでる。どこまでも、のんきな人だわ。