硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

はつこい、なんです。 7

2016-05-23 06:34:45 | 日記
もうすぐ、夏が終わる。西の空には、大きな入道雲が、きらきら輝いてる。

二学期に入ると、美術部は、先輩の言った通り、ポスター作りに追われた。

部長、人がいいから、断らない。しかも、なぜか、クオリティーにこだわるから、なかなかこなせなくて、困っちゃう。

でも、南先輩、部長とは、対照的に、計画を立て、進度を予定表にして、部員に作業を割り振り、確実に、進めているから、一安心。

それでも、来週まで、個人の作品に、手を付けられない感じなんです。

「きょうは、ここまでにしようか」

南先輩の、一声で、手が止まる。

「うううっ、背中が痛い」

「毎年の事だけれど、これって、なんとかならないの」

皆、思わず愚痴をこぼす。部長、にわかに立ちあがり、

「諸君、よく聞いてくれ。我々美術部が、脚光を浴びるのは、この季節だけである。ここで、頑張っておけば、美術部の評価は上がり、しいては良い画材が手に入るのである。これは、我々美術部にとって、死守せねばならない、働きであり、また、我々の一存では、変えぬことのできない、伝統なのである」
誇らしげに言う部長、片付けながら、あきれたように、南さん、

「なにいってんの。私が計画を立てなければ、とうに頓挫してたでしょ」

「むむっ、南さん。なにをおっしゃいますやら、これはでん……」

「はいはい、分かったから、早く片付けなさい」

南さん、皆まで言わせない。部長、寂しげに片付け作業を始めた。

窓の外を見ていた、小菅君、

「あれっ、雨が降り出した」

いつの間にか、雲が広がっていて、あっという間に大雨になった。

遠くで、雷が鳴っている。

部員全員で、慌てて窓を閉めると、加藤先輩、残念そうに、

「今日、雨降らないって言ってたのに」

 って呟いた。加藤先輩と、同じポスター制作を進めていた折原先輩、やっぱり、優しいんです。

「なんだ、加藤、傘持ってないのか」

「うん。だって、降らないっていってたもの。折原君は」

「おきっぱの傘があるから、大丈夫だぜ」

「じゃあ、いっしょに、傘に入れて行って」

「……まぁ、しょうがないかぁ」

「しょうがないじゃないでしょ。わ・た・しが、頼んでいるのよ」

そういうと、小菅君は、かならず、余計な事を言う。

「相合傘っスか、折原先輩、いいなぁ~。そんな無下にしたら、加藤先輩のファンから、石、投げられますよ」

「そんな、ぶっそうな」

「あら、ほんとよ」

突然、空に稲妻が走り、大地を切り裂くような大音響に、皆、耳をふさいだ。

「こわいよぉ~」

加藤先輩、それまで、無邪気に微笑んでたけれど、児童のように、半べそかいて、折原先輩の腕にしがみついる。

それを横目で見ていた、南先輩、あきれて、ため息ついてる。

私も、雷が怖いし、傘も持ってこなかったけれど、加藤先輩みたいに、上手に甘えられない。

折原先輩の事、誰にも負けないくらい好きなのに、意気地が無くて、何も、できないのが、悔しいな。