硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

はつこい、なんです。 6

2016-05-21 19:51:41 | 日記
折原先輩と加藤先輩、イーゼルを取り出すと、私の右側に並んで、カンバスをのせた。

皆、カンバスに向かうと、スイッチが切り替わる。

折原先輩の作品は、今年の春にスケッチした、河川敷の桜並木の風景画、ジョン・コンスタブルのような写実的な画は、いつ観ても、引き込まれてしまう。

「堀越、どうしたの」

「あっ、その……。いつ観ても素敵な風景だなって」

先輩、少しうれしそう。

「そうかな? ありがとう」

慣れた手つきで、パレットにのせた絵の具を、ナイフで色を整え、カンバスに色を付けてゆく。

エプロンをつけ、キリリとした顔で、画と向き合う先輩、セクシーなんです。

そう思うと、いつも身体の芯が、熱くなっちゃうんです。こんな事、恥ずかしくて、誰も言えない。

 「祥子ちゃん、そんなこと言っちゃダメ。こいつ、すぐ調子に乗るから」

ラファエル前派の画が好きだという加藤先輩、美しい象徴的な人物画が出来上がりつつある。安藤先生が、ミレイを意識してるって、言ってたけれど、本当に、ミレイの画のように、素敵。

私、なんだか、悔しくって、つい、

「先輩の画、好きなんです」

っていっちゃった。

加藤先輩、少し、驚いてたけど、隣で微笑んでた折原先輩を、キッとにらみ、先輩の左足を、踏んづけた。

「痛って~っ! 加藤、なにすんだよ」

「調子に乗ってるからよ」

「素直に喜んだら駄目なのかぁ」

「ダメ! 」

「ダメって、なんで」

「ダメなものは駄目なの! 」

「わけわかんないよ」

とても、親しい二人。やっぱり、噂は、本当なのかなぁ。