峰猫屋敷

覚え書と自己満足の場所

一歩前進

2006年09月15日 15時37分19秒 | 自作品
創作楽市』 では、
今、「夏の想い出」キャンペーンをやっています。

原稿用紙3枚までの字数制限で、選ばれると、
「本になったらどんな風になるだろう。(* ̄。 ̄*)ウットリ」 と夢想できるように装丁してくれます。
つまり、表紙デザインしてもらえます。

で、「夏の想い出」をいろいろ思い浮かべたのですが、
読んでくださった方に 少しでも興味を持ってもらえる内容で…ということを意識して書いたら、
「秋の想い出」に「夏の想い出」をこじつけた感じの作品になりました。
我ながらちょっと無理があるかも。

しかし、参加することに意義があるのです。

本当は一昨日書きあがったので、その日にアップしようかと思ったのですが、
一昨日は先負でした。 で、昨日が仏滅、今日が大安。
それほど気にする方じゃないけど、学校の広報役員やってたときは、発行日をこの方法で決めてました。
その方が決め易くて、楽なんですもん。

『創作楽市』は、登録しないと全部読めないので、こちらにも掲載します。


                    


作品ジャンル   エッセイ 
テイスト      元気が出る 頑張りたい気分になれる 
出版日        2006年9月15日(金)

作品概要     「夏の想い出応募作品」
             20数年前の秋、私は大勢の観客の前で小さな手品を披露していた。
             手の震えを抑えるため思い出したのは、夏の日に見たあの貼紙だった。
             「秋の想い出」の中の「夏の想い出」という二重構造です。

帯のコピー      人生の重要なテーマは、便所に貼ってあった


       【 一歩前進 】

20数年前の秋、私は渋谷の児童会館大ホールの舞台に立っていた。
当時、大学2年生だった私は、マジックサークルの発表会で大勢の観客を前にスポットライトを浴び、小さな銀色のコインを操っていた。
震えればコインは落ちる。 あがってはならない。
そのとき、コインマジックのレッスンしてくれた松尾さんの言葉を思い出した。
「演技しているときは、自分の一番楽しかったときを思い出すといいですよ」
一番楽しかったというわけではないけれど、なぜかそのとき数ヶ月前の夏の記憶が蘇った。

サークルの夏合宿で、マジックショーをやらせてもらった野尻湖小学校の体育館。トイレは男女共用で、男子用便器の上には、貼紙がしてあった。
「一歩前進」 と。 
あがり症の私が、たくさんの人に注目される舞台で、指先に小さなコインをクルクル動かすのは人生における「一歩前進」だった。

夏合宿が終わってから私たち2年生女子は、五反田にあるマジックショップで個人レッスンをしてもらうことになった。
その店はビルの2階にあり、入り口は目立たない。中は狭くて、通りすがりの人が入るような店ではない。
そこはプロのマジシャンが時々買いに来るくらいの店だった。
店長の松尾さんは私たちが学生だということで、お金にならないレッスンを引き受けてくれた。
手品の技術とアイデアはすごいが、親切で素朴な雰囲気を持つ人だった。
私たちは秋の大きな発表会に向けて、何度か通った。

松尾さんや先輩たちの指導と、連日の練習の成果によりマジックは成功した。
親指と人差し指の間に4枚重ねて持ったコインは、一枚一枚小指の方に送られて落とすことなく無事に5本の指の間に並んだ。
小さなコインを操りながら、眩しいスポットライトの向こうには、夏の野尻湖と「一歩前進」の言葉があった。

大学を卒業してからマジックとすっかり離れた私は、テレビの手品番組を見ることも少なくなった。
松尾さんがその後、MR.マリック氏として活躍しているのを見ても、
「そういえばあのマジックショップ、『マリック』って言ったっけ」と思い出しながら、懐かしく眺めるだけとなった。
手品とはもう縁がないが、生きている限り私の「一歩前進」は、形を変えて続いている。


                    


トップ画像は当時の舞台写真。




    17時追記 

最初は、「私たちが学生ということで、松尾さんは非常に低料金でレッスンしてくれた」 と書きましたが、
食事の支度している間に、ふと、待てよ。と思いました。
もしかしたら、一銭も取らなかったかもしれない。
よく憶えてないです。 学生時代は図々しかったし。
お礼にマロングラッセの詰め合わせを持って行ったことは憶えてるんだけど。

慌てて、楽市の方も「お金にならないレッスンを引き受けてくれた」 に変えてきました。
実名出してるだけに、事実と違ってたらマズいし。

どちらにしろ、すごく親切で善良な方です。
この原稿書くときに、本名出しても良いかどうか調べるためネット検索したら、ウィキペディアに、
「超魔術の演出があまりに「超能力」的過ぎたために、世間では本物の超能力と信じ込む人も多く、ある時期からいっせいに「インチキ」「全て奇術」との批判が始まった。また本人も心霊現象を取り扱う番組にゲスト出演したことがあり、それもバッシングの火に油を注いだ。」
「この時期、マリックは顔面麻痺を発症し、しばらくテレビ界から遠ざかることとなる。」
ということで、苦労なさったんですねェ。

たしかに 「手品」 は、つまんないんです。
タネがあると思うから、つい、タネを見破ろうとしちゃう。 
ショーとして観て、心から楽しんでもらえないところがあります。
だから、「もしかしたら、本物の魔法?」 みたいな演出は観客のためでもあったと思うのですが…。
有名になるって、本当に美輪さんのいう、『正負の法則』 で、辛くて大変なことでもあるんですね~。