酒飲みとヌカ漬け

ヒゲが手を出さなかった仕事のひとつが、　『　ヌカ漬け　』　です。
日本酒とヌカ漬けは、黄金の組み合わせなハズなのに？
田園みたいな、日本酒を色々提供している店は、二次会にも便利です。
当然、小料理屋然として、ヌカ漬けを出せば、ウケるはずです。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
代わりにヒゲが提供したのが、いぶりガッコや手造り柴漬け。
これなら、珍味入れ程度の器でもハレします。

或る時、板長が問うて来ました。
　　　「　マスター、ヌカ漬けは、せんとですか？　」
ヒゲ　「　君がやりたいなら、してもイイよ。　」
暫くして、ヌカ床の準備が出来たようです。
なるほど、まあまあの出来です。
早速、メニューにも登場させました。
そして、注文が来ました。　　　　
しかし、客からはクレームです。　
　　　「　何や、コレは？　」　と。
ヒゲは、ピンと来ました。
念の為、原因を問うと、板長は首を傾げます。
　　　「　いや～あ、ちゃんと美味しく漬かっていたんですけどね？　」
見ると、漬物セットに綺麗に切って詰めてあります。
　　　「　コレを、食べてご覧。　」
板長が食べるなり、　「　アーッ、味が無い。抜けてますネ。　」
あらかじめ切って用意していると、味が変わるのです。

次の日、切るのを止めて、ヌカ洗いまでしてあります。
しかし、これもクレームです。　「　味ないね　」　と。
米ぬかが除いてあると、塩分の劣化が早いのです。
つまり、ヌカが着いたまんま置いといて、注文が来てからヌカを除き、
カットしなくちゃいけないのです。
魚を料理するのと同じに、手が掛かる訳です。
しかも、ぬか漬け野菜として、大根・きゅうり・人参は、まだ扱い易い方。
茄子のぬか漬けに至っては、もう魔性の女と云うベキか？
味変わりの早い、気まぐれモノ。
コントロールなんてとんでもない。カルメンみたいな女でしょう。
そんな手間ひま掛け、神経使って、やっとこさ　“　３８０円！　”　稼ぐ訳です。
報酬額としては、首をヒネる金額かもしれません。
しかも、こんな苦労して出した　“　漬物盛合せ（ヌカ漬盛り）　”
客の感想たるや　・・・　　　　　　　　　　　
　「　フン！　悪くはないが、ウチのバアさんの漬けたつが、ずっと美味かバイ。　」
次の日、調理場から、　「　ぬか漬け仕事はギブアップ　」　と申し出がありました。

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