与勇輝「白い少女」(1994)
たいてい行く先々の美術館などには、どこも、一つはハッとするものに出会う。
与勇輝(あたえ ゆうき)の人形(河口湖ミューズ館 与勇輝館)は、どれもどれもハッとするものだが、中でも、一瞬で私の心をとらえてしまったのが「白い少女」。(写真は照明の影響か色づいてますが、膚が真っ白な少女です。)
美しい、と言ってしまえばありきたりだが、どこかほかの星から、さっ、と現れた不思議な存在感がある。地球的だが、どうもよその星の子らしい。なにしろ、色が白い。透けている。すっ、と伸びた脚で立っている姿が、ここまで歩いてきたという感じがしない。突然風か空気かと一緒に運ばれてきた感じがする。
「ある夏の暑い盛りに、ふと見かけた少女」をモデルにつくり上げたと作者が書いているので、やはり実在の少女らしい。「まっ白い服を着て清々しく妖精のように印象に残りました」と言うように、人形とはいえ、その存在感がどうしても私をとらえて離さない。
・・・・そういえば、この子と同じ年頃、眩しい少女に私は出会ったことがある。それは、たった1回きりだった。でも少女は、私の少年時代に忽然と現れては、私をそのままつかまえて、風に乗っけてよその星に運んでいくのではないかという思いが何度かしたことがある。
その頃、私は自分の小遣いを稼ぐために朝夕、新聞配達をしていた。当時、周りではそうやって小遣いを稼ぐことは小学生でも珍しくなかったが、最後まで続いたのは私だけだった。夕刊の配達時、新聞の束を抱えて(小学生の私は夢想家で、新聞を配りながらいろいろなことを考えるのが好きだった)、路地をジグザグに行き交いながら配っていると、行き当たりの路地の前に颯爽と、風のようにあの「白い少女」がそのまま現れたのだ。美しさと白さとこの世でない軽さで、私の前にすっと立って、その子は言った。
「なあんだ、あんた、ここにいたの?」
もちろん、私は少女を知らない。はじめて見た。服だって、ちょっとよそ行きのような白い服とスカートだったし、靴までは覚えていないが、きっとブーツかヒールっぽいものを履いていただろう。少女はしばらく、いたずらっぽく見つめていて私の前に立っていたが、また風のように、さあーっと、いなくなった。私は呆然として少女を探したが、もういなかった。
あの子がよその星の子だか知らない。見知った顔でないのは確かだ。きっと、どこかで私のことを見ていて、追いかけて来たのかもしれない。おめかしして親と一緒に出掛けるところで、私のことを見かけたのかもしれない。同じ学年にはいない子なので、学年違いの子が私のことを気にかけていて、ひょっとして、転校か何かでもうこの町から本当によそへ行ってしまうその日だったのかもしれない。
そんなことを考えながら、新聞の残りを配り歩いた。少女は、二度と会わなかった。
「白い少女」は本当にいたのだ。
突然現れて、何か言いたそうで、じっとこちらを見て、そして、ふっといたずらっぽく、小ばかにしたように笑う。現実にいそうでないが、ほんとうにいる。心の中にずっといつづける少女。それは、やっぱり「白い少女」でなければならない。
この少女の作品を何度か見ているはずだが、今回の展示にはなかった。きっと、よその展示館で、さあーっと、人の前に現れて、また突然いなくなるのだろう。その人の心の中にだけいつづけて・・・。
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