・おぼおぼと空にうかべる白き雲光の渦となりて近づく・
「地表」所収。1955年(昭和30年)作。
いわゆる「機上詠」である。飛行機に乗りながら雲をみている。下の句の「光の渦となりて近づく」が一首の中心だろう。
「おぼおぼとした雲」が「光の渦」となるまで時間の経過があり、変化のさまが劇的である。それは、下の句の印象鮮明な表現があるからである。
この変化が「序・破・急」の「破」であり、「起・承・転・結」の「転」である。
こういう独特の技法が、岡井隆をして「あれ、そうなるの?」と言わしめたのであり、下の句の重さが一首の重量感を出している。
その重量感に透明感があるのが、佐太郎短歌の特徴のひとつであり、斎藤茂吉との違いのひとつ。
それはまた「おぼおぼと」という「虚語」による静かな詠い起こしと、下の句で景を的確に捉えているところから来ている。
余談になるが、紹介済みの「河口のしずけさ」「北上の山塊」「都市の延長」の歌も機上詠」である。